第2話 隣に引っ越してきたのは……?
「ん……」
朝の10時半になった所で目が覚めた。
俺が住んでいるのは築50年の古めのマンション。
そのため、家賃は四万円と安い。
トイレは洋式だがウォシュレットではないし、お風呂と一緒に設置されている。
ネットも光回線が敷かれてないが、モバイルWi-Fiルーターがあるのでネットも問題はない。
「そういや朝に引っ越してきた人たちは、俺の部屋の隣だったな」
朝に見かけた引っ越し業者は、俺の隣の部屋を行き来していた。
だれが引っ越ししてきたのかは分からないが、今のご時世にわざわざ挨拶に来ないだろう。
「そういえば、カップ麺なかったな。 近くのスーパーで買っておくか。 今回は土日休みだしな。 その分お金が入らなくなるけど」
そう。
今週は土曜日と日曜日の連休なのだ。
社員だったらあまり影響はないのだが、アルバイトなので一日分の稼ぎがなくなるのが辛い。
そんな事をぼやきながら、俺は顔を洗ってから近くのスーパーでカップ麺を買いに向かうのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ」
一個あたり75円になっていたカップ麺を多数買い込んで自分の部屋に戻ろうとしたところで、女性と子供たちを見かけた。
そして、俺の顔を見るや少し固まってしまったようだ。
「あ、こんにちは」
一応、礼儀を欠いてはいけないので、挨拶はしておこう。
「こ、こんにちは。 305号室に引っ越してきた高岡といいます」
すると女性もわざわざ名乗ってくれた。
どうやら隣の部屋はこの女性と子供が住むみたいだ。
子供は二人いるが、姉妹だろうか?
「わざわざどうも。 304号室の宇佐美といいます」
お互い緊張した形で挨拶と自己紹介をしてしまったが、子供二人は俺を見上げたまま無言だ。
やはり、怖いのだろうか、いい印象は持っていないみたいだ。
「では、俺はこれで。 何があったら一階の大家さんに聞くといいですよ」
「あ、は、はい」
挨拶も済ませたので、俺はそそくさと自分の部屋に戻る。
女性も子供も緊張した感じだし、これ以上俺に関わってもいい事はないだろうからな。
何せ、俺はこれまであまり近所付き合いをしていないから、交友関係もほとんどない。
前の会社の良心だった友人数人くらいか。
コンビニバイトも基本的に仕事上のやり取り以外は、あまり話さないからな。
「さて……。 あ、メールが来てるじゃないか……。 あいつからか……」
部屋に戻って、パソコンを起動する傍らでスマホを見ると、数件のメールが来ていた。
その内の二件は、俺の知る信頼できる人物からだった。
女性の中では唯一信頼できる社員だった桧山 友梨佳と同期の親友の小谷 正幸からのメールだったのだ。
この二人と、もう二人が学歴主義の課長一家や部長一家とも対立してでも俺の事を気に掛けてくれた人達だった。
俺が辞めてから、あいつらはどうしてるかは知らないが、いざという時に備えて彼らのメールアドレスと電話番号は残しておいたのだ。
まず、桧山からのメールを見る。
『先輩、あれから元気にしてますか? 私はあれから別の会社に転職しました。 あの後、私にもセクハラやパワハラを仕掛けて来たので思い切って辞めてみました。 小谷先輩が言うにはどうもあの会社の社長はハリボテのようで、実際には部長一家や課長一家が仕切っていたみたいですよ。 労基や警察に相談しても買収されてるのか、聞く耳持ってくれませんでしたしね』
信じられない内容が綴っていた。
桧山も俺が辞めた後で、セクハラやパワハラを奴らから受けていたのか。
労基や警察にも相談しようとしたが、どうやら奴らから圧力が掛かっているのか、聞く耳持ってくれなかったようだ。
なので、転職して心機一転を図ったようだ。
『そもそも社会人としての出来は高卒も大卒も関係ないと思うんですけどね。 あの一家達は大卒こそ優秀なんでしょうね。 小谷先輩共々、色々分かった事があればメールしますが、先輩も元気にしてるならメールくださいね』
桧山は大卒だ。
しかし、社会人としての先輩として俺を慕っていたようだ。
後で返事しておくか。
しかし、あの会社は社長がハリボテとは……。
気になるが、正幸のメールを見てみようかなと思った瞬間……。
「インターホンが鳴った?」
ピンポンとインターホンが鳴ったので、誰だろうと出てみると……。
「高岡さん?」
「あ、あの……! ブレーカーはどこにあるのでしょうか? 大家さんの所に行っても不在だったので」
(何やってんだ、あの大家のじいさん……)
相手は隣の高岡さんで、ブレーカーの場所が分からないと俺に聞いて来たようだ。
どうやら大家のじいさんは、タイミング悪く不在らしい。。
あのじいさん、いつの間にか出かけている節があるから、困ったもんだ。
とにかく俺は、305号室に向かうことにした。
何だかんだで、放っておけないんだろうな、俺は。
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