第15話 意外な再会
「まさか、酔っ払いが買った酒を割ったまま帰って行くとは……。 余計な仕事をさせやがって……!」
金曜日のコンビニ夜勤が終わった朝の帰宅。
人がいない電車の中で、俺は誰も聞こえないようにそう独り言ちた。
日替わりの時間帯で酔っ払いが日本酒を買ったのだが、どうやら購入後に手を滑らせて落としたのだ。
当然ながら割れてしまい、床が酒と瓶の破片まみれになったのだ。
只でさえ、作業が詰まってるのにこういう形で余計な仕事を増やして欲しくはなかった。
「あそこが二人体制で良かったよ。 ワンオペだったらキレてた……」
幸い、電車で向かう方のコンビニは夜勤でも二人体制だったので、相方の手伝いもあって何とか軽微で済んだ。
これがワンオペだったらキレながら作業していたよ……。
「さて、早く帰って寝るかな。 土曜日は忙しいし……」
先週は土日が休みだったが、今回は土曜日は出勤だ。
特に金曜日と土曜日は忙しいので、体調は整えないといけない。
「さて、そろそろ駅に着くか……」
そろそろマンションの最寄り駅に到着するので、降りる準備をしようか……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、先輩。 お疲れ様です」
「おお、川崎もお疲れさん」
マンションに戻ってきたら、雑草を刈り取っている川崎に会う。
草刈り機を利用しての草刈りだが、かなり手馴れた感じになってるな。
しかし、それでも大家のじいさんがサボったツケを孫や娘に支払わせるとはどうなんだろうな。
「あ、宇佐美さん。 お疲れ様です」
「聡君もお疲れ。 川崎、お前のお袋さんは?」
「母なら書類整理をしてますよ。 ようやく半分が終わったみたいで」
「書類も整理してなかったのか、あのじいさん……」
「私も驚きましたよ」
川崎と聡君が草刈りの仕事をしている傍らで彼女の母親は書類整理をしていたそうだ。
ようやく半分の処理を終えたらしく、それだけじいさんがサボっていたのかわざと手を付けなかったのかは知らないが、本当に困ったもんだ。
「あ、そういえば早朝に高岡さんの所に来客が待ってるみたいです。 宇佐美さんに用事があるみたいで」
「俺に……、ああ、あの件か」
聡君が高岡さんの住む305号室にて来客がいると言う話を教えてくれた。
それを聞いて俺は、高岡さんが俺の件で兄と姉に相談をすると言ってくれた事を思い出した。
来客は多分、高岡さんの兄と姉だろう。
「分かった。 すぐに高岡さんの所に行くよ」
「ええ、先輩も頑張って」
聡君と川崎と別れて、俺は急いで305号室に向かう。
その前に自分の部屋である304号室に帰り、洗顔や着替えを済ます。
そして、305号室に行き、インターホンを鳴らす。
『はい』
「高岡さん、宇佐美です」
『あ、宇佐美さん。 お待ちしてました。 今、開けますね』
ドア越しに名乗りを上げると、高岡さんはドアを開ける。
「宇佐美さん、お仕事お疲れ様です」
「ええ。 それで来客が来ていると……」
「はい。 兄や姉に相談したところ、今の時間に来てくれたのですが……」
「ん?」
高岡さんがそこまで言うと、一瞬だが言葉が詰まった。
俺はそれが気になった。
「どうも、兄と姉が宇佐美さんの事を知ってるみたいでして、可能ならすぐに会いたいと当時は通話越しですが言ってました」
「俺を知ってる……?」
高岡さんの兄や姉は、どうも俺を知ってるという。
そんな知り合いがいたのかなと、色々と遡る。
「とにかく会ってみます。 奈々ちゃんと佐奈ちゃんは?」
「兄と姉が遊んでくれてます。 とりあえず、上がってください」
「分かりました。 お邪魔します」
会ってみないと始まらない。
なので、俺はお邪魔してもらい、部屋へと向かう。
「あ、うさおじちゃん」
「おしごとおつかれー」
部屋に入ると佐奈ちゃんと奈々ちゃんが出迎えてくれた。
相変わらず愛くるしい仕草で俺の足をギュッと抱きついてくれる。
可愛いなぁ。
「京也兄さん、お久しぶりです」
「妹から話を聞いて、いてもたってもいられなかったのです」
その後ろから来た二人に俺は呆然とした。
まさか、この二人が高岡さんの兄と姉だったとは……。
「まさか、お前たちだったのか……。 達也に朱里」
高岡 達也と高岡 朱里。
高岡さんの兄と姉は、かつての俺の幼馴染でもあった二人だった。
ということは、高岡さんは二人の年の離れた妹だったという事だろうか?
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