第八章「表と裏の天使と悪魔」-前編-
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文脈修正
リースティア、王城。レジスタンスの動向に合わせて、何時もの数倍の警備が城に置かれていた。通行口、庭、廊下……いたるところに重厚な鎧を着込んだ騎士達が目を光らせていた。
しかし、ただ一か所だけいつもと変わらぬ風景の場所があった。カルカロフのいる王座の間である。控える部下はなく、わずかな例外を除き必要な時以外は誰もここを訪れない。警備兵でさえも、今は扉の前に控えるのみだった。
カタリ、と静かにその扉が開かれる。僅かに開いた扉の隙間から、するっと滑り込むようにして黒いローブを着込んだ少女が王座の間を訪れた。
その姿を見てカルカロフは僅かに笑う。それは、今この瞬間にも革命を起こされようとしている王の表情とは誰にも思えまい。
「どうした、ナオ」
「?」
ナオは何を指摘されたかわからず首をかしげた。
「扉の入り方だ。随分と妙な入り方をしたではないか」
「みんなピリピリしているから。そっと動いてる」
いつも通りの無表情でナオはそう答えた。
「ふむ、仕方あるまい。時が時であるからな」
カルカロフは優しげな笑顔を浮かべたままそう言ってから、椅子から腰を上げた。
「……?」
ナオはそんなカルカロフを眼で追う。カルカロフは王座の近くにあった箱から何かを取り出し、ナオの目の前まで持ってきた。
「そのようなローブばかり着ていると、女らしくないからな。そのローブはいい加減やめておけ。あとは、これで髪を留めてはどうだ」
「はい」
ナオはカルカロフから渡されたモノを手に取る。手を広げてみると、そこには鳥の羽根をあしらった可愛らしい髪留めが一つあった。
ナオはソレを少しの間まじまじと見つめると、その髪留めで横髪を留めた。それだけでも以前と大分印象が変わる。
「後は服だな。よし、少し待て」
その言葉に、ナオは少し困ったように俯くと、首を軽く横に振った。
「えっと、どうして?」
「いつまでも黒いローブのまま、という気か? 地味でかなわんぞ。……おい用意は出来たか」
カルカロフが後ろに向かってそういうと、扉が開き、中から二、三人の女性が出てきた。
「ナオ、行って服を選んでもらえ。何時までもそんな格好をしていてはダメだ」
「……はい」
渋々と言った具合にナオが歩き出す。彼女にとっては何が何だか分からないらしい。
とはいえ、このような光景、他の者から見れば肉食獣が野菜を食べているように映るだろう。非常に奇妙な光景である。
ナオの戸惑う背中を見ながらカルカロフは何とも言えない、哀しげな顔をした。
「もう、そろそろか」
静かにそう呟くと、再び王座に腰を落とした。
「絶対このあたりでしょ」
リリーナがあたりを見回しながら言う。
「……でも何もないぜ。たしかに、地下に行き止まりの道があるなんてことは無いはずだけどな」
アナベルが所々の壁に手をやりながら言った。
「既に塞いだのかもしれんな」
エリオがつきあたりの壁を蹴りながら呟く。
アナベルの予想はまず間違いなく当たっていると言えよう。が、怪しいと思う場所を見つけても入口が見つからないのであった。
「塞いだっていっても、こんな短期間に? 繋げて閉じて、なんて早技出来っこないわ」
「――いや、元々手前まで繋げていたのを最後に閉じたのかもしれん。ほら」
エリオが壁のど真ん中を叩く。すると、僅かではあるものの通路側面の壁とは違う音がした。
「……参ったわね。私達、『土系統』使えないわよ」
「……やむをえまい」
そう言ってエリオが正面の壁からリリーナとアナベルを残して遠ざかる。
「何をしようって言うの?」
リリーナが不思議そうに言った。
「アナベル。わかっているだろう? 壁を破るにはそれが一番だ」
エリオが真面目な顔をして言った。対してアナベルは頭を抱える。
「いや、エリオ。そんな剣があるんだ。こんな壁くらい」
アナベルはエリオの背に背負われているそれを指差す。
「何を言っている。剣で石など削れるものか。傷んだらどうする」
本当にそれが当然とでも言いたげに目を細めるエリオ。
「お前は俺と剣どっちが大切なんだよ!」
「どちらも大切ではあるがお前の方が丈夫なのでな」
「なっ――」
いつも通りの真面目顔でエリオがそんな事を言うものだからアナベルはすっかり項垂れてしまった。
「ええい、わかった……やってみよう」
アナベルはそういうと、気合を入れる様に自分の頬をパンっ、と軽くたたいた。そしてリリーナに向き直る。
「すまん、リリーナ。少し後ろを向いていてくれるか」
「はい? なんで?」
「お前が見ていちゃあ、この技は使えないんだ」
わけがわからない、という顔をしつつもリリーナはくるりと後ろを向く。何故かエリオが十字を切っていた。
「そらっぁぁぁぁぁっ!」
アナベルの気合一閃。その動作は遡上する鮭を片腕で次々とすくい上げる熊の様。ただ、今アナベルが狙おうとするのは死の扉。開いたら最後、待つのは死である。
だが、開いた瞬間に解放されるエネルギーときたらこのような壁を打ち破るには十分だ。後は、ソレをアナベルが避けられるか、避けられないかにかかっている。
速度という点において通常の人とは一線を画すアサシンでさえも、その一撃を回避するのは紙一重のタイミングだ。早すぎれば逆に狙われ、遅すぎれば撃ち抜かれる。どちらにせよ二発目は避けれまい。
ただ、その扉は同時に聖域を隠す壁でもある。幾多の男が聖域見たさにこの壁に立ち向かった事か。だがしかし。それが許されるのは自分の年齢が両手で数えられる間だけだ。ソレを超えるとどんな目にあうかわからない。
アナベルは既に両手で自分の年齢を表すことはできない。つまり、許されないのだ。だというのに、彼は超高速の腕を持って、それに手をかけた。
それは円筒状の布。リリーナの髪色によくあった青と白色のティアードスカート。
その淵にアナベルは手をかけ、ぱさっと捲りあげた。
瞬間、アナベルはその場を横へ飛びのいた。が、何故か飛びのいた方角から轟音と共に迫り来た凶器に、どうにかされて意識が飛びかける。だが、それだけに終わらないのは明白だった。なにせ彼の視界は既に捉えている。ひざ蹴りによってゼロコンマ数秒の間空中に停滞している己の体を粉砕するべく放たれた凶弾が既に視認できているのだ。
その凶弾はライフル銃の銃弾のように可愛いものではない。一番細いところでも直径は百五十ミリを超えている。その口径は十分戦艦の艦載砲として通用するだろう。
避ける事など叶わない。その凶弾の砲口初速は実に秒速八百メートルに達する。視認出来ただけでも奇跡に等しいのだ。
迫りくる凶弾。人にかわせぬその一撃はアナベルの体に向かって吸い込まれるように進んでいき――。
「あーはっはっは! よーく来たわね! ここまで来れるだなんて思ってなかったわぁ。寒かったでしょう? ゆぅっくりして行っていいんだよ? すぐに温めてあげるからさぁ」
高い少女の声と共に腕が振り下ろされる。あれほど鋭い爪だ、食らったら人など形すら残るまい。しかし、その動作は大振りだ。避ける事は容易い。
ブンッという桁違いな音と共に風が巻き起こる。腕を振るだけでこの風圧だ。その外見の迫力は凄まじく、見ているだけで逃げ出したい気持ちに駆られる。
「誰ッ!?」
ウィノアが叫んだ。彼女の視線の先を辿ると、黒いローブをまとった金髪の少女が見えた。年齢は十代半ばといったところだろうか。手には黒い槍を握っている。狂ったかのように嗤うその姿は壊れた機械のように見えた。
「あはは、助けに来たんでしょ? ヨシュアさまを。でもそうはいかないんだなあ。ここで助けられちゃうと色々困ったことになるのよねえ」
「カルカロフの手先か!」
ヴェナスさんが叫ぶ。ソレを聞いて金髪の少女は更に激しく嗤った。
「私が? きゃはははははっ! ありえない、ありえないわ! あんなのと私はカンケーないわね」
「貴様、何者だ」
一際鋭い殺気を放ってシュルクさんが言う。そばにいるこっちが凍りついてしまいそうなくらい凄まじい殺気だ。
「あんまり怖い顔しないでほしいわね」
シュルクさんを見て、金髪の少女はそんなことを渋い顔をして言った。
「私は『天使階級』第五位、『力天使』、型式零五、アバリティア……この古城に入ったものを全て殺す事が私の役目……お分かりになったかしら?」
「な――」
いつか見た光景。光がアバリティアと名乗った少女の背に集まり、三対の光の翼を成して行く。
「あれぇ、そんなに驚かないんだ。あ……そっか。ここにたどり着いたってことはリースティアから来たのよねえ。あの街にはルクスリアがいたかぁ」
「ルクスリア……だと?」
俺が表情を曇らせたのを見ると、アバリティアはけらけらと嘲笑した。
「ああ、そっか。ナオって名乗ってるかあ。あの子もまだ人形に成りきれてないなあ、力だけなら私なんか足元にも及ばないっていうのに……ねえ!」
不意に『泥人形』の腕が唸る。
「あはは、いいねえ、その剣! かっこいいなあ、欲しいなあ!」
そんな事を叫びながら『泥人形』を操り、俺に拳の雨を降らせた。拳一つが俺よりもはるかに大きい。一回飛びのいただけでは衝撃でやられてしまう。
「……ッ」
一回、二回、三回……避けるごとに距離が縮まる。一発を避けるのは容易かったが、こうも連続して繰り出されるとまずい。
「『灼風』!」
ソフィアさんの声がホールに響く。同時に、『泥人形』の側面の空間が揺らめくように歪み、『泥人形』が炎上した。
「恭介! 早くその場から離れなさい! この魔術はソフィアの放った熱風に触れただけで敵味方関係なく炎上するわ!」
「なんだって!?」
そんな危ない魔術を普通このタイミングで使うか!? そう思いつつも俺は慌ててウィノア達のいる方向へと逃げる。
「チッ!」
アバリティアは悪態をつくと燃え盛る『泥人形』から、安全な空へと舞いあがった。
「言っとくけどぉ、ドラゴンにこの程度の炎が効くと思ってんの? こんな子供だましの炎じゃビクともしないわぁ」
彼女の言葉通り、『泥人形』にこれと言った変化はない。
「……単なる人形師の作ったものじゃないってわけね」
ソフィアがやれやれ、といった様に言った。
「そりゃあ、私が作ったんだものぉ。これ作るのに二週間はかかったわよ?」
空中で腰に手を当てて蔑むような目で俺達を見ながらアバリティアは言った。
「言ってくれますね。普通の人形師ならこれを作るのに何年かかるか」
ヴェナスがまじまじとソレを見ながら言った。
「ほぅら、のんきにしてる場合じゃないわよ。人間なんて簡単に死んじゃうんだから!」
『泥人形』の口が開かれる。一瞬、腐敗したような嫌なにおいがした。
“なんだ……? このにおいは……”
「『気流』!」
ヴェナスさんが何らかの魔術を使った。強い風が俺の周りに巻き起こるが、特に何かが起こるような様子はない。次の瞬間、『泥人形』の口から炎が吐き出された。
「しまった……!」
避けようとしてもどのように避ければいいか思い当らない。なにせ、炎が壁のように迫ってくるのだ。
“大丈夫です。じっとしていてください”
エリーがそう言った。よくわからないが、言うとおりにする。そもそも、それ以外に選択肢が無いようだ。
すると、その炎は俺の目の前で風に巻き上げられるようにしてその方向を変えた。
「なんですって!?」
アバリティアが悔しそうな表情を見せる。
「ドラゴンの火炎ブレスはため込まれたエモノの腐敗ガスを利用しています。ガスさえ飛ばせばブレスが当たる事はありませんから」
ヴェナスさんが言う。なるほど、さっきの風はそのためか。
「ああ、もう……こんなやつらに苦戦するなんて!」
アバリティアは頭をかきむしるようにすると、その狂気じみた顔を『泥人形』に向けた。
「もういいわ、消えなさい」
アバリティアがそう言った瞬間、巨大なドラゴンを象った『泥人形』は地面に溶け込むようにして消え去った。
「そこのお譲ちゃん」
アバリティアがウィノアに目を向ける。
「さっきからずっと詠唱を続けてるみたいだけど、何を唱えているのかしら。風? 炎? 土? それとも水? あははは!」
けらけらと空中で腹を抱えて嗤うアバリティアを見てウィノアはキッと睨みつけ、その口元がにやりと笑った。
「残念、外れ」
「なにっ!?」
アバリティアの表情が変わる。黒い槍を自分の目の前に突き出した。
「『貫き通す光』!」
ウィノアの手に一本の白き槍が宿る。いや、ソレは白いなどというものではない、光そのものだ。
「ウソッ、冗談じゃないわよ! 何でこんなところに光の使い手が!」
アバリティアの表情が目に見えて焦りに変っていた。
「『黒槍』!」
黒い槍の先端に黒い穴のようなものが開いた。それがいったい何なのかを知ることはできないが、何か嫌な気配を感じる。
“マスター”
頭に響くエリーの声。
“どうした?”
“さっきからずっと調べていましたが、あの槍、ただの槍じゃないです。悪魔か魔神か、なにかよくない概念が取りついている魔槍ですよ”
“じゃあ、あの穴はあの槍の能力なのか?”
そう言った途端、いきなり黒い穴が周囲から光を吸い込んでいるのが目に見えた。
“私の眼で見たらこのように。おそらく、アレは魔力やマナを吸収する能力があるのかと”
――つまり、ウィノアの魔術であっても、無効にされる可能性は高い。
「行くぞ、エリー」
俺は剣を構える。ウィノアもアバリティアも、今は俺のことなど眼中にはない。しかし、おそらくあのままではウィノアは負ける。あの槍は無尽蔵にマナを要求し溜め込んでいるのだ。もしかするとウィノアの魔術をそのまま返す事も可能かもしれない。
「恭介!?」
ウィノアがアバリティアに飛びかかった俺に気づく。しかし、当のアバリティアはそれに気づいていない。
「今だウィノア!」
俺が叫ぶ。それによって、やっとアバリティアは自分の近くまで来ていた俺に気づいた。しかし、ウィノアの光の槍が迫ろうとしている以上、俺にかまっている暇はない。
「無駄よぉ! 私を剣で斬る事は出来ないわ!」
横目で俺に向かって叫ぶアバリティアを尻目に、俺は槍の作りだしている黒い穴を叩き斬った。
「え」
アバリティアが一瞬、驚きの声を上げる。一瞬しか上がらなかったのは、ウィノアの光の槍が自らに炸裂したからだろう。
ウィノアの放った光の槍はゼロコンマ一秒を待たずしてアバリティアに炸裂し、散光した。まるで太陽がそこにあるかのようにあたりに光を振りまいている。
「恭介っ、大丈夫なの?」
ウィノアが走り寄ってきて、心配そうに聞いてきた。
「ああ。大丈夫」
特に痛いところもないし、そう伝えるとウィノアはよかった、と言って空中を見据えた。
散光がゆっくりと消え、徐々に見えるようになってくる。険しく空中を見回していたウィノアの眼が一点を見据えた。
「……何、誰?」
ソフィアさんが呟いた。
確かに、アバリティアはまだそこにいた。しかし、その前に立ちふさがるようにして長い茶髪の女性がいる。すらっとした細身の体形をした二十歳くらいの女性だ。その背には四対の光の翼。つまり、天使。
「ちょ、ちょっと! アシェディア! こいつらは私の得物なの! なんであんたが出てくるのよ!」
「めんどくさいから説明したくないわ、アバ」
本当に面倒くさいのか手をひらひらしながらアシェディアと呼ばれた女性は答えた。
「面倒だからって私の名前まで短縮しないで頂戴! もう、何の用なのよ」
「撤退。方針が変わったわ。ついでに助けただけ」
その言葉を聞いて、一瞬何かを言い返そうとしたようだが、アバリティアはウィノアをにらみつけた。
「今度はこうはいかないから」
そう言ってシュン、と、当たり前のように姿を消す。
「はあ、あんたらも面倒なことするのね。まあ、そこの坊やは誉めてあげるわ。『黒槍』の能力は魔術の吸収と解放。坊やが割って入らなかったらどうなっていたかしら」
アシェディアが俺を見ながら言った。その眼は、なんというか……退屈そうだ。
「あなた、何なの? 一体どういう目的なわけ?」
ソフィアさんが見上げて言う。
「『天使階級』第三位、『座天使』、型式零四、アシェディア。目的は、って言う問いには面倒だから答えない。じゃね」
だるそうに手を振ると、アバリティアと同じようにシュン、と消えた。
「……行くぞ」
シュルクさんが何事もなかったかのように地面に埋まった扉を踏んで先に進みだした。
「つくづく驚きも何もない男ね、少しはリアクションしたらどうなの? 無駄だってわかってるけど」
ソフィアさんがため息をついた。
「まあ、昔からクールだからね、シュルクは」
ウィノアが懐かしむように言った。
「ホント、私、こいつと十年単位で組んでるけど、笑った顔も泣いた顔も見たことないわ」
「え、喜んでる顔と、怒ってる顔もでしょう?」
ウィノアがソフィアさんの顔を見ながらキョトンと言った。そうすると、ソフィアさんはウィノアの額に指を当てて言う。
「革命であなたが消えたときはアイツも相当怒ってたわよ。追手をみーんな氷漬け。で、あなたが見つかったときは喜んでたわあ」
「え、ウソ! すごいレア映像じゃない!」
「……行くぞ」
聞こえていたのか、いないのか。シュルクさんはもう一度そう言った。
扉をくぐった先は通路。特に何もないのでそのまま進むことにする。
「こう……何度も意味のわからないものを見ると頭が痛いですね……」
ヴェナスさんが困った笑いをしながら頭を掻いた。
「やっぱり学者のサガってやつですか?」
俺がそういうと、ヴェナスさんはそうかもしれません、と笑った。
「しかし、疑問だらけです。あの翼一つとってもそうですよ? アレにはある以上何か意味はあるはず。彼女たちの言う『天使階級』でしたっけ? アレの位が高い程、翼は多いようですが……」
そういうと、ヴェナスさんは、あーでもないこーでもないと言いながら自分の世界に閉じこもってしまった。
「おーい」
ヴェナスさんに声をかけるも反応は無い。
「無駄よ、恭介。そうなったらヴェナスさんはしばらく戻ってこないわ」
ウィノアが苦笑しながら言う。
「はー……ここまで集中できるのか」
少し尊敬する。俺にはここまでの集中力は無い。
「……天使って何人いるんだろうね」
ウィノアがぼやいた。まあ、ナオみたいなのが数人いるとなれば頭の痛い話だ、確かに。
「さあ。でも、確かナオは『型式零七』っていってたから、七人とは予想がつくんじゃないか」
俺が言うとウィノアは何よそれ、と叫んだ。
「あんなのが七人もいちゃあ、命が何個あっても足りないっていうの……」
「まあ、そうだなあ」
俺がそういうと、ウィノアは俺をキッと見据える。
「呑気ね」
「……あー、うん」
横ではあ、とため息をつく。
「……まあ、ありがと」
「え?」
ぼそっとウィノアが横で何か言った。
「だから、さっきの。助けてくれたんでしょ? あ、ありがとう」
「……俺、なんかしたっけ」
えっと……何したんだっけ。なんか色々あったから忘――
「……もういい」
目が、怒ってた。瞳の奥にメラメラと炎が見えるかのようだ。
「あ、あのウィノアさ」
「はいなにか?」
語尾が強い。笑顔の様で笑顔ではない。その表情の裏には今話しかけんじゃねーよ、と書かれている。間違いなく、怒らせたようだ。
「ふんだ」
どうやら俺が悪いようなのだが……。何したんだ、俺。
自問自答するも、実際よく覚えてないので困ったものだ。がんばれ俺の記憶力。
ちょっと忙しかったので時間がかかりました、すいません。
おそらくこれの後編と、次の前編後編で一巻が終わると思われます。
後は人気次第で二巻を書きますね。
小説の進行度合いはブログに時々書いているので、
テーマの中から「小説進行状況等」の最新を選んでくれたら見れると思います。