プロローグ
――――友達がいない。
そのことに気付いたのは、彼が七歳の頃だった。
幼年向けのテレビアニメを見たことが、その発端となった。
テレビアニメ自体は、いつの時代も繰り返されるような勧善懲悪ものだ。
嫌われ者の悪魔が、沢山の友達を引き連れた心優しい天使に殴られて、最終的にハッピーエンドとなる。
彼は思った。
普通は友人と日々を過すものなのか。
アニメでは、誰もがみんな笑顔で、楽しそうに日々を暮らしている。
そんな光景など、彼は一度もお目にかかったことは無い。
同い年の子供と会話したことも皆無だ。
砂場に行けば、子供たちは一斉に逃げる。
ブランコに座れば、隣にいた子供は泣き叫ぶ。
一人でシーソーは遊べない。
誕生日会は、今年も一人きりだった。
そんな境遇の彼にとって、テレビアニメに登場する悪魔は、どうしても他人とは思えなかった。
悪魔は、いつも最後に殴られる。
彼は思った。
ひどいじゃないか。
心優しい天使は、沢山の友達と楽しい時間を過して日々を送る。
悪魔は、その中に加わることも出来ず、ただ一人で彼らを羨む。
誰も悪魔を助けるものはいない。
誰も悪魔と友達にはなってくれない。
誰も悪魔を愛してはくれない。
ならば。
彼は思った。
悪魔よ、友達になろう。僕が悪魔になって、君を助けに行く。
一人きりは寂しいけど、二人なら寂しくない。
彼はテレビアニメを、毎週欠かさずに視聴した。
負けるな、僕がいるぞ、と歯を食いしばりながら。
いつも決まって殴られる悪魔を応援した。
そんな彼は、悪魔のように誰からも恐れられていた。