大賢者、組み分けられる
「これより、バビロニア魔法学校入学式を始める」
若き学校長カミラ氏の宣言により、入学式が開かれた。
彼女は講堂にいる学生をぐるりと見渡して、涼やかな声音で話を始める。
「私は本校の学校長であるカミラだ。新入生諸君、入学おめでとう。君達にはこれから三年間、我が校にて魔法を学び、立派な魔法使いになることを目指して欲しい。グダグダと長話をしても飽きるだろう、私からは以上だ」
「「…………((えっ、それだけ!?))」」
一言二言話しただけでステージから降りようとするカミラ氏に、学生達はキョトンとしてしまう。
学校長からの話としては、ちと短過ぎんか? そんなんでええの?
確かに漫画でも、学校長の長話は学生に嫌われがちじゃ。漫画にもそういうシーンがあるが、どうでもよくてつまらない話を延々とされるのは飽きてしまう。
わしの頃の学校長も同じで、本当に長くて「早く終われや」と誰もが思っておった。
まぁわしらの場合は、そもそも誰一人としてしっかりと聞いておらず、皆が魔法の研究とかやっておったがの。
じゃからカミラ氏が話を短くしたのも英断といえば英断じゃが、それにしたってもう少しあるじゃろ。
学期末とかじゃなくて、栄えある入学式なんじゃから。
「こ、校長! 困りますよ、もう少しなにかあるでしょ!」
「話すことは話した。もういいだろ」
「それでもです! 校長に憧れている新入生もいるんですから、もうちょっとお願いしますよ」
「そうか、ならば仕方ない」
ステージから去ろうとするカミラ氏を、司会役の教師が慌てて引き留める。
どうにか説得できたのか、カミラ氏は踵を返して再びステージに上がった。
なんじゃあれ、コントでもやっておるのか。
魔法使いは変人ばかりと言われるが、五賢と敬われる校長も例外ではなかったようじゃな。
カルネ氏はすぅ~と息を吸うと、話を再開する。
「アルバート・ウェザリオ様は素晴らしい」
「「……((……えっ?))」」
「アルバート様が残した偉業は語り尽くせないほど多い。まずその名を世に轟かせたのは、アルバート様が本校の生徒だった時だ。アルバート様は入学式当日で、当時学校で一番の実力者であった上級生に目をつけられ決闘を申し込まれたが、秒殺し、荒れていた学校をその手で支配した。だがそれは伝説の始まりに過ぎない。その後アルバート様は学生の時に新しい魔法、画期的な魔法を次々と発明し、世に発表していく。アルバート様が作られた魔法によって魔法の技術が百年は成長したといっても過言ではないだろう。さらにアルバート様は魔法実技・筆記共に入学から卒業まで成績トップを維持し続けるという天才。学校を卒業してからもアルバート様の偉業は止まることはなかった。希代の天才魔法使いであるアルバート様は魔法教会や軍事関係、さらには王族の側近と就職先が引く手あまたであったが、アルバート様はその全てを断り一人で魔界へと足を踏み入れたのだ。その足で魔界にある古代遺跡を巡り、古代の魔法を復活させたり希少な魔法生物を保護したりと多大な貢献をし、いつしか大賢者と誰も到達したことがない、魔法使いにとって最高位の称号を与えられるのだ。だがそれでもアルバート様の探求心は底知れず、大賢者と呼ばれるようになってからもあれやこれやうんたかんたら――」
((は、話長ぇ~~~~~~~~~~~~~!?!?)
(ひぇ~~~!! キモいんじゃ~~~~!?!?)
少しだけ話すのかと思っておったら、カミラ氏は突然饒舌になって語り始めた。
しかもその内容は全てアルバート(わし)で、アルバートアルバートアルバートとアルバートがゲシュタルト崩壊してしまうほど連呼しておる。
な、なんじゃあいつ……。なんでそんなにわしの事に詳しいのじゃ?
純粋にキモくてサブいぼが出来てしまったんじゃが。
何故カミラ氏がわしの話を喜々として語り出したのか気になったので、他の学生と同じように驚愕しているレオンに尋ねてみる。
「な、なぁ……“あれ”ってなんなの?」
「ああ……アルは知らないのか。カミラ様って、大のアルバート信者なんだよ。というのも、カミラ様は大賢者様の数少ない弟子の一人だからなんだ。これは結構有名で、魔法使いなら誰でも知っていることだぜ」
「信者? 弟子?」
えっ、わしって弟子おったの?
なにそれ、めっちゃ恐いんじゃが……。わし、いつの間に弟子作ったんじゃ? それもカミラ氏以外にもおるようだし。
(あっそ~いえば三十代か四十代の頃、そんな話があったような……)
わしはぼんやりと思い出す。
いい加減弟子を取れと友人に怒られたので、仕方ないから弟子を取ることになったんじゃ。
面倒臭かったので、友人が推薦してきた魔法使いの中から適当に選んだ気がする。
でもわし、師匠らしいこととか何一つせんかった気がするぞ。
資料の整理や研究の手伝いをさせただけで、魔法について教授したことはない。ましてや、顔や名前さえ憶えておらんもん。
古代遺跡で古代遺物を見つける前のわしって、他人とか視界に入れてなかったからのぉ。
でもそうか、カミラ氏はわしの弟子じゃったんじゃな。
弟子が母校の学校長を務めて魔法使いの雛鳥を育ておるとは、なんだか誇らしいのぉ。
それにしたってキモいけど。
「そんな素晴らしい大賢者であらされるアルバート様に私が弟「ちょ、ちょっとちょっと校長!!」」
「ん、どうした教頭? これからが良いところなんだが」
「良いところだ、じゃありませんよ。新入生全員ドン引きしてるじゃないですか。もういいですから下がってください」
終わりの見えないカミラ氏の話に、流石にマズいと思ったのか司会役の教師が止めに入る。
よくやったぞ司会者。ていうかお主って教頭先生じゃったんじゃな。なんか苦労してそうじゃの、ハゲておるし。
「まぁ新入生の諸君、アルバート様に少しでも近づけるよう日々精進したまえ」
最後にそう締めて、カミラ氏はステージから去っていく。
あれが校長とかこの学校大丈夫かの~。なんか心配になってきたんじゃが。
「校長のありがたいお話でした。さて、時間がやや押しているので、予定を前倒ししてクラス発表に移ります。名前を呼ばれた生徒は席から立ち上がり、上級生について行ってください。そのまま上級生が校舎の案内をします。ではまず、ユニコーンクラスの生徒から」
ほ~、クラス発表か。懐かしいのぉ。
バビロニアには三つのクラスがある。フェニックス、ユニコーン、バジリスクと、幻獣種の魔法生物の名前からなっておるんじゃ。
わしはフェニックスだったんじゃよな。
さてはて、今回はどのクラスになるのかの。
ユニコーンクラスの生徒が次々と呼ばれ、席を立って講堂から出ていく。
そんな中、ついにわしの名前が呼ばれた。
「それではフェニックスクラス。アル」
ほう、わしはフェニックスに縁があるようじゃな。
小ネタ・アルバートの弟子はみんな変人