大賢者、聞く
「ステラ、ちょっといいか」
「……なによ」
「聞きたい事があるんだけど、ここじゃなんだから外で話さないか」
放課後、レオンに勇気を貰ったわしは意を決してステラを誘う。
じゃが、彼女は胡散臭そうな眼差しでわしを見ると、
「嫌よ」
ええ……しょんなぁ。折角頑張ったのに~。
いや、一度断れたからってめげるな。男なら当たって砕けろじゃ!
「頼む」
「……はぁ、仕方ないわね」
「本当か!?」
「す、少しだけよ。用が済んだらすぐ帰るから」
よっしゃぁ! ステラを誘えたぞい!
……っと、ぬか喜びをしている場合じゃないの。ここからが本番じゃ、気張っていこうかの。
◇◆◇
わしはステラを連れて、魔法庭園を訪れた。ここなら誰かに話を盗み聞きされる心配はないからの。
「で、話ってなんなのよ?」
面倒臭いオーラを醸し出すステラが、早速本題を切り出した。わしは心の中で深呼吸をしながら、ステラに問いかける。
「あのさ、ステラってジョセフ先生とどんな関係なんだ?」
「……はぁ?」
「俺さ、昨日見ちゃったんだよ。夜中にジョセフ先生の部屋から出てくるステラをさ」
「――っ!?」
昨夜の出来事を指摘すると、ステラは目を見開いた。
こ、この反応……“そういう事”なんか!? やっぱりステラとジョセフ氏は禁断の関係じゃったんか!?
ガガーンとショックを受けておると、ステラはわしを睨みつけてくる。
「あんた、見てたの?」
「え、あ、その……たまたま通りかかっってさ」
「……そう。それで私とジョセフ先生がただならぬ関係だと思った訳ね」
「うん」
「それで? 私とジョセフ先生が“そういう関係”だとして、あんたに何の関係があるのよ」
「それは……その~」
関係はなくもなくもないっていうか~。
こういう時どう返せばええんじゃろ。考えろわし、考えるんじゃ! こんな場面の時、恋愛漫画の主人公達はどうしてきた!?
「なにあんた、私に気があるわけ? そういえばあんた、私にしょっちゅう声をかけてくるわよね。何度無視してもしつこく付き纏ってくるし……悪ふざけだと思ってたけどマジなの?」
「えっ!? あぁ……それは、ど、どうなんでしょ~」
ちょんちょんと両手の人差し指をくっつけては離しつつ、そっぽを向いて顔を赤くする。
くっ! なんて情けない! ここで「お前が好きなんだ!」と男らしく言えればいいのに、羞恥心が勝ってとぼけてしまう。
恋愛漫画の主人公のようにはいかんのぉ……とほほ。
「はぁ……なんだっていいわ。変な噂が立ってジョセフ先生を困らせたくないから、これだけは言っておくけど、別に私と先生はあんたが思っているような関係じゃないわ」
そ、そうなんか!? よかったぁ~。
本人の口から聞けたわしは、安堵の息を吐く。どうやらまだわしの恋は終わってないようじゃの。
「話はそれだけ? なら私はもう行くわよ」
そう言って立ち去ろうとするステラを、わしは慌てて引き留める。
「ちょ、ちょっと待って。じゃあジョセフ先生と何の話をしていたんだ?」
「何であんたに言わなくちゃならないのよ」
「それはそうなんだけど……もしかして呪いの事とか?」
的中したのか、ステラは誰が見ても分かるぐらい動揺する。
ほ~やっぱりそうだったんじゃの。
「何でそれを……まさか盗み聞きしてたの」
「そ、そんな事しないよ」
最後のところをちょこっとだけ隠れて盗み聞きしてたけど……。
「勉強とか魔術の事を聞くなら教室とかでもいいし、夜中に一目の無いところで話すとしたら人に聞かれたくない内容。ステラに関してだったら、呪いかなって考えが浮かんだんだ」
ステラとジョセフ先生が禁断であるかもしれないと思い込んでいたわしはポンコツになっておったが、そうでないと本人に聞いてから急に頭が冴えてくる。
彼女は優秀かつ眉目秀麗と非の打ち所がないが、唯一の欠点というかマイナスポイントなのは呪い子であることじゃ。
入学式の時にクリスが確認した時は自ら認めておったが、本当かどうかは分からん。しかし、もし本当だとすればジョセフ氏に相談する内容は呪いである可能性が高い。
返事を待っていると、ステラは小さくため息を吐いて答えた。
「あんたの言う通りよ。私は呪いの事で先生に用があったの。それで? もういいかしら、あんたには関係ないでしょ」
「関係なくはない」
「はっ?」
「だって俺も呪い子だし」
「――っ!?」
衝撃の事実を知ったステラは、信じられないと言わんばかりに驚愕する。
彼女は少しばかり放心した後、険しい表情を浮かべて口を開いた。
「いくら気を引かせたいからって、それは笑えない冗談よ」
「嘘でも冗談でもないって。今証拠を見せるよ」
ステラに信じてもらう為に、わしは学生服の上着を脱ぐ。
右手の裾を巻くって、右肩にある呪いの紋章を見せた。
「ほら、これが証拠だよ」
「……本当だわ。あんた、呪い子だったの?」
「まぁな。今まで隠してたけど、ステラには話しておこうと思って。あっ、この事は秘密にしておいてくれよ」
そう頼むと、ステラはこくりと静かに頷いた。
わしが呪いのことをステラに話したのは理由がある。それは彼女に近付ける理由付けと(本当は好きだと正直に言えればいいんじゃが……)、もう一つは秘密の共有である。
恋愛漫画のキャラがこう言っておったんじゃ。
二人だけの秘密を共有すると、距離がぐっと縮まるとな。
その恋愛術を試してみたんじゃ。これでわしとステラの心の距離は急接近という算段である。
がっはっは、わし天才!
「でも大丈夫なの? 周りの人間に危害は出ないの?」
「うん、俺の呪いは周囲に影響するタイプじゃないんだ。対象は俺自身なんだよ」
「そんな呪いもあるのね……どんな呪いなのか聞いてもいいかしら?」
「別にいいよ、俺の呪いは『死』だ」
「はっ……? 死? 死って……死ぬってこと?」
「うん」
はっきり答えると、ステラは混乱したように尋ねてきた。
「『死』の呪いって……じゃあ何であんたはまだ生きてるのよ」
「それはこれのせいだろうな」
今度は左腕の裾を肩まで捲り上げ、左肩にある祝福の紋章を見せる。
ギフトの紋章は見たことがないのか、ステラはぐっと近づいて凝視してくる。
ふぉ~~~!? なんかイイ匂いがするんじゃ~~!!
「これって……」
「これはギフトの紋章だよ」
「ギフト!? って事はあんたまさか……」
「ご想像の通り、俺は元々神子でもあるんだ。その後に『死』の呪いを受けたんだけど、俺の予想では呪いとギフトが反発し合って死ななかったんだと思う」
本当は死なないだけじゃなくて若返ったんじゃが、流石にこれは言えんの。騙しているようで申し訳ないが。
「そうだったのね……。神子に呪い子、両方って……前々から疑念を抱いていたけど、あんた一体何者なの?」
怪訝な顔で問いかけてくるステラに、わしはキメ顔でこう言った。
「ただのアル。どこにでもいる普通の魔法使いだよ」
「はぁ……話せないなら別にいいわ。無理して聞きたいとも思わないし」
うぐっ! やっぱりバレちゃっておる。
でも流石に、自分の正体がアルバート・ウェザリオであると話す訳にはいかんしの。そもそも正直に言って信じてもらえるかどうかさえ怪しいんじゃが。
「よければなんだけどさ、ステラの呪いについても聞いていいか? 呪いを受けている場所は右手なんだろ?」
「こんな手袋なんて着けてるんだから分かるわよね。そうよ、私は右手に呪いを受けている。『吸魔』の呪いをね」
ステラは右手を掲げ、切な気な顔を浮かべながら話した。
なるほど、『吸魔』の呪いか……。
「言葉の意味から察するに、触れた物の魔力を吸い取ってしまう呪いか?」
「その通りよ。呪いを受けた私の右手は、触れた物の魔力を無作為に吸収してしまう。忘れもしない……二年前、突然この呪いを受けた私の人生はめちゃくちゃに壊されたのよ。今まで優しかった街の人は皆私の事を恐れたわ。化物を見るかのような目でね。
それだけじゃない……私自身の手で、お母さんをッ!」
憎々し気に、溢れんばかりの怒りを籠めて右手を握り締める。
呪い子になった者の末路は悲惨じゃ。自分だけが苦しむだけではなく、周囲に不幸をばら撒いてしまう。
それも、酷ければ災害レベルの不幸じゃ。
この感じからすると、ステラも辛い思いをしてしまったんじゃろう。
しかも、その手で肉親を亡くしたのかもしれん。不慮な事故ではあると思うが。
「それからはどうしんだ?」
「もう何もかも投げ捨てて、死んでしまおうと思った時よ。ジョセフ先生に会ったのは」
「先生が?」
「ええ……呪いの事を聞きつけて来てくれたの。それで、この手袋をくれたのよ。呪いを抑えるから着けろって」
「その手袋は先生がくれたのか……」
それにしても驚きじゃのぅ。
わしは呪いとか全然興味がないから詳しくは分からんが、呪いを抑える道具なんてあるんじゃな。多分魔道具かなんかだと思うんじゃが、どうやって作ったんじゃろ。
呪いを抑えている道具に感心していると、ステラは話を続ける。
「人並みの未来が絶たれた私にジョセフ先生はこう言ってくれたの、魔法使いにならないかって。その言葉を信じて、私は魔法使いになる決意をした。死に物狂いで勉強して、魔法の訓練をした。時々先生も来てくれて、手袋の調整だったり魔法について色々教えてくれたわ」
「なるほどな……すると学校に来たのは先生の案か?」
「ええ。学校に来ないかって先生が誘ってくれたのよ。自分もいるし、学校なら呪いを解く手掛かりもあるかもしれないってね。
私がこの学校に入学したのは、魔法使いになると同時にこの忌まわしい呪いを解くためなのよ」
「そうだったのか……」
ステラの身の上話を聞いたわしは、ステラとジョセフ氏の関係について腑に落ちた。
彼女にとってジョセフ氏は、失意のどん底から救ってくれた救世主であり、魔法使いとしても恩師であるんじゃな。
ジョセフ氏め、普段はおっかない顔して厳しい癖に優しいところもあるんじゃの。憎い人じゃ。
「私と先生はあんたが考えているような関係じゃないわ。昨日も手袋の調整に会っていただけだし。だから勘違いして変な噂とか立てないでね。話はこれで終わりよ、もう行くわ」
「ちょっと待った!」
踵を返して立ち去ろうとするステラを引き留める。
ここからが本番じゃ、頑張れわし!
「なによ、まだ何かあるの?」
「呪いの解く方法、俺も一緒に探していいか?」
「はぁ?」
「いや……今は平気だけどさ、いつ呪いが強まって死ぬか分からないし、できれば俺も呪いを解きたいと思ってる。だからステラを手伝いたいな~って……どうかな?」
本当のところは呪いなんて全く興味ないんじゃよね! いつ死んだっていいし!
だが少しでもステラと一緒にいられる方法というか口実として、呪いを解く方法を一緒に探すのは良い手段じゃと思う。
というかこれしかない! この機を逃す手はないんじゃ!
わしの提案にステラは悩みに悩んだ末、はぁとため息を吐いた。
「しょうがないわね。いいわよ」
「本当か!?」
よっしゃああああああ!!
「ええ。一人じゃ時間がかかるし、呪いを受けている同じ立場のあんたなら構わないわ」
「ありがとう! 頑張ろうな!」
と感謝しながらどさくさに紛れてステラの手を取ろうとしたんじゃが、さっと躱されてしまう。
「あれれ~」
「勘違いしないでよ。私とあんたは同じ目的の為に行動するだけ。馴れ馴れしくする訳じゃないわ」
「ははは……おっけ~で~す」
う~ん、過去を打ち明けてくれて少しは心を開いてくれたと思ったんじゃが、まだまだ先は遠いのぉ。とほほ……。
しかし、二人だけの秘密は共有できたし、一緒に呪いを解く方法を探すという名目もできたし、一歩どころかかなり前進したんじゃなかろうか。
よ~し、これからもっともっとアピールして頑張るぞい!




