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大賢者、は見た

 


「うわ~、もうこんな時間じゃん。早く食堂に行かないと下げられちゃうよ」


 辺りはもう真っ暗。

 夕焼けどころか、月明りが廊下の窓から差し込んでおる。


 なんだかオバケが出て来そうじゃなぁ。

 松明の灯りが照らしてくれるので廊下は明るいっちゃ明るいんじゃが、それがなんとも不気味な雰囲気を醸し出しておる。


「はぁ……結局、誰も俺を見つけ出してくれなかったなぁ」


 コツコツと闇夜の廊下を歩きながら、わしはため息を吐く。

 なんでこんな遅い時間に校舎をうろついておるのかというと、それは放課後にレオンが放った一言によるものじゃった。


「第一回! チキチキ魔法かくれんぼ~! ドンドンパフパフ~!」


 最後の授業が終わった後、レオンは勢いよく立ち上がると急にアホな事を言い出した。


 それは、だだっ広い校舎の中をクラス全員で魔法有りのかくれんぼをしようという内容である。


 面白そうだな! とわしは乗り気だったんじゃが、他のクラスメイトはそんなアホなこと誰がするかと呆れておった。


 校舎の中を探検できるし、魔法の訓練にもなるからやろうぜ! とレオンが必死に説得すると、大体のクラスメイトは参加する事になったんじゃ。


 クリス「僕をくだらん遊びに巻き込むな」


 ステラ「私は嫌。勝手にやってなさい」


 残念ながら若干数名のクラスメイトは、参加を断ったんじゃがの。

 因みに特別試験から一週間は経っているので、クリスの足は完治しておる。


 隠れる場所は校舎の中だけ。訓練場や庭園などに隠れるのは禁止。魔法を使うのは有り。


 探す鬼と隠れる側は半々に分かれる。

 ただ遊ぶだけでは面白くないので、負けた側は勝った側に夕食のデザートを譲ること。

 ルールは大体こんな感じじゃの。


 そして始まったチキチキ魔法かくれんぼ。

 わしは隠れる側に回った。勿論自信があったので、負ける訳にはいかんと全力で挑む。


 こういった遊びは今までしたことがなかったので、わしはウキウキしておったんじゃ。


 これも青春の1ページじゃ~と隠れている最中は楽しんでおったんが、待てど暮らせどクラスメイトが探しに来ることはなかった。


 あっれ~おかしいな~と不思議に思ってたら、いつの間にか夜中になってしもうた。


「もしかして俺、皆に忘れられているとかないよな……?」


 こんな時間まで見つからないとなると、わしの存在を忘れておるんじゃないかと不安を抱く。


 いやいや、レオンがおるんじゃ。

 あやつがわしのことを忘れる訳ないじゃろ。いや……レオンのことだからあり得るかも。


 とほほ……わしってもしかして、存在感無いんかの。


「ありがとうございました、ジョセフ先生」


(ん? あれは……ステラか?)


 己の存在感の無さにしょんぼりしておったら、少し離れた部屋からステラが出てきた。


 こんな時間にあんな所で何をしておったんじゃ?。

 まぇええか、ステラに出会えてラッキーじゃな。わしは嬉しくなってステラに声をかけようとするが――、


「お~いステラ~そこで何して――」


「遅くなってしまって申し訳ない」


(ええっ!? ジョジョジョジョセフ先生!?)


 部屋の影から出てきたジョセフ氏を見たわしは、顎が外れそうなくらい仰天してしまう。


 どどど、どういう事なんじゃ!?

 何でステラとジョセフ先生がこんな夜にあんな所で一緒におるんじゃ!?


「ん?」


(あっかん!)


 ジョセフ氏がこちらに顔を向けたので、わしは咄嗟に物影に隠れる。

 あれれ……どうしてわし、今隠れたんじゃ? 別に悪いことしてないのに……。


「どうかしたんですか?」


「いや、なんでもない」


 ふぅ……わしに気付いた訳ではないらしいの。

 わしは気配を殺しながら、身体を隠しつつ顔を出して、二人を盗み見る。


「君は勉学も実技も頑張っているようだな。その調子で頑張りたまえ」


「はい、ありがとうございます」


(ええ~なんか仲良さげなんだけど~!?)


 親し気に会話する教師と生徒。

 ジョセフ氏は相変わらず仏頂面だが、ステラはいつもより表情が柔らかい。彼女のあんな顔、見たことないんじゃが。


「だが、友好関係のほうは上手くいっていないようだな」


「それは……私は別に……」


「無理をしろとは言わない。呪いが恐いという君の気持ちも分かるからな。だが、人は一人では生きてはいけんのだ。それは頭に入れておくといい」


「はい……」


「よし。ならもう帰るがいい。暗いから十分気を付けたまえ」


「ありがとうございました、ジョセフ先生。さようなら」


 ステラは頭を下げると、踵を返して立ち去っていく。

 少しの間見送った後、ジョセフ氏は再び周囲を確認したので、わしは慌てて物影に隠れた。


「いったいどうなっているんだ……? ジョセフ先生とステラはこんな時間で二人で何をしていたんだ?」


 力が抜け、床に這いつくばってしまう。

 あっかん……目の前が真っ暗じゃ。胸が苦しい……なんじゃこれ、こんな痛み今まで感じたことないぞい。


 ステラとジョセフ氏はこんな時間で何を……それにステラのあの顔……。


 はっ!? まさか!?


「二人は付き合っているのか!?」


 わしは一つの真実に辿り着いてしまった。それは、生徒と教師の禁断の恋。


 いつもツンケンしておる二人が、あんな親しくしておったんじゃ。しかもこんな夜中でこそこそしておったし……それしか考えられん。


 二人は恋人同士だったんじゃ!

 あれ……待てよ? となるとわし、失恋しちゃった?


 ほげぇええええええええええええええええ!!


「む、胸が苦しい……! これが漫画にもあったNTRネトラレというやつか! いや、(僕が)SS(先に好きだったのに)か!? いや、そんな事どうだっていい」


 あっかん……わし、もうダメかも



 ◇◆◇



「よっアル、なに寝てんだよ。元気にいこうぜ元気によ」


「ぉぉ、ぉはょぅ……」


「うわ!? どうしたんだその顔!? ひっで~面だぞ!」


 衝撃の事実を知った次の日。

 ステラとジョセフ氏のことを考えて一睡もできなかったわしは、早めに教室に来ておった。


 屍のように机に寄りかかっているわしに声をかけてきたレオンの呑気な顔を見たら、感情が爆発してしまう。


「レオえも~ん! どうしよ~!」


「人を変な名前で呼ぶんじゃねぇ。っておい、鼻水を服につけるな!」


 号泣しながら、ひしっとレオンに抱き付く。

 すると彼はわしを引き剥がしながら、困った顔を浮かべて、


「どうしたどうした……何があったんだよ?」


「そ、それが……」


 教室で話すのもアレなんで、わしはレオンを廊下まで連れていき、昨日の件を説明する。


「ステラとジョセフ先生が夜中に密会か……それは黒だな。どんまいアル、元気出せよ」


「うわ~ん! やっぱりそうなんだ~!」


「ウソウソ冗談だって、泣くなよみっともない。きっとお前の誤解だよ」


 えっ……誤解? それってどういう事なんじゃ?

 呆然とするわしに、レオンは「いーか?」と言って指を立てる。


「考えてもみろよ、あのステラとジョセフ先生だぜ? どっちも恋愛って柄じゃねーだろ。特にあの陰険教師が生徒に手を出すと思うか? 天地がひっくり返っても有り無ぇーだろ。あの教師は一生独身貴族を貫くだろーぜ」


「という事は、二人は付き合ってないってことか?」


「それは分からない。人間誰しも間違いはあるからな」


「どっちなんだよ!」


 レオンはぽんぽんとわしの肩を叩くと、


「女なんて星の数いるんだ。そう気を落とすなよ」


 うわ~~~ん!

 やっぱり二人は付き合っておるんじゃ~~! ラブラブ禁断カップルなんじゃ~~!!


 泣き嘆くわしの肩を、レオンはがしっと掴んだ。


「まぁ落ち着けよアル。まだ諦めるには早いぜ」


「へっ?」


「だってそうだろ? お前は二人が会話をしている場面を見ただけで、二人が付き合っているという証拠はないじゃね~か」


 た、確かに! 言われてみればそうじゃ!


「まずは本人に確認を取ってからだろ。話はそれからだ」


「で、でも……」


「情けねぇ、男がうじうじしてるんじゃねぇよ。それとも、ステラを想う気持ちはその程度のものだったのか? 簡単に諦めちまうものだったかよ?」


「違う……俺は本気だ」


 真剣に答えると、レオンはにやりと笑顔を浮かべて、


「なら当たって砕けろや。な~に心配するな、砕けた骨なら俺が拾ってやるよ」


「レオン……」


 お主……お主って奴は……なんて良い奴なんじゃ。

 流石は親友キャラ。普段はアレじゃが、ここぞという時はなんて頼りになる男なんじゃ!


「ありがとうレオン。俺やるよ」


「その意気だ。頑張れよ、アル」


「おう!」


 よ~し、なんだか元気が湧いてきたぞ!

 放課後にでもステラに聞いてみようかの!


 わし、頑張るぞい!



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