大賢者、報告する
「あれれ~クリスとユンユが見当たらないな~」
わしとステラは中継地点に戻って来ていた。
ローブの女と戦った後、クリス達を探そうとしたんじゃが、ユニコーンクラスの担任のホリー氏に鉢合ったんじゃ。
彼女から現在非常事態だから一旦試験は中止となり、生徒全員を中継地点まで送り届けていると説明される。
わしとステラはホリー氏に抱えられ、ビューンとあっという間に中継地点に連れて来られたんじゃ。
身体強化魔法をしているとはいえ、あの速度を二人抱えて移動するのは凄いというか、絵面があれじゃったな。
わし等以外も、既に殆どの生徒が中継地点に送り届けられておる。クリスとユンユと合流しようと探しておったんじゃが、どこにも見当たらん。
まだ先生と会ってないのかな~と思いつつ二人を探していると、レオンに声をかけられた。
「おうレオン、お前も戻って来たのか」
「まぁな。っていうかこれ、いったいどうなってんだ? いきなり霧が出てきたと思ったらモンスターが突然襲い掛かってくるしよ、先生達はピリピリしてるし……ちょっとヤバくね?」
「そうだな~ヤバいかもな~」
「お前……いやに呑気だな。アルはモンスターに襲われなかったのか?」
モンスターどころか、怪し気な魔法使いに襲われたぞい。
ただ、それは今ここで言うべきじゃないと判断したわしは、適当に「俺も襲われたよ」と返した。
「大丈夫だったか……って、その調子じゃ問題なかったんだろうな」
レオンから呆れた眼差しを送られる。
おい……わしの事をなんだと思っておるんじゃ。友達なら少しぐらい心配せぇ。
「皆静かに! 私の話を聞いてください!」
そうこうしている内に生徒が集まり、ホリー氏が大きな声で言うと騒がしかった生徒達は口を閉じて彼女に注目する。
「皆よく聞いて。もう分かっていると思うけど、非常事態が起きています。なので、本日の特別試験は現時点で終了し、皆で学校に帰る事に決定しました」
「非常事態って……」
「大丈夫なのかな?」
「なんだか恐い……」
ホリー氏の言葉に不安を抱く生徒達。ざわざわと言葉が飛び交う中、リアムが手を挙げて質問した。
「先生、非常事態とはなんですか? さっきの霧と何か関係しているんですか? ボク達にも分かるように具体的に教えてください」
「ごめんなさい、それは私達も全て把握していないの。ただ、このまま試験を継続するのは不可能と判断したわ」
そりゃそうじゃろうな。
怪し気な奴らがどんな連中なのかも、目的も分からんだろうし。捕まえておけば白状させる事もできたんじゃが、逃げられてしまったしのぉ。
そういえば、怪し気な者と会敵したのはわしとステラだけだったんじゃろうか。他の生徒や先生は襲われなかったのかの。
考えていると、わしと魔箒のレースで勝負したチャラ男の……ショウじゃったか? がホリー氏に違う質問をする。
「試験が中止ってことは、点数も付かないって事なんですか?」
「それは……」
「それについては我から説明しよう」
ホリー氏が話す前に、横からジョセフ氏が出てくる。
どこにも居ないと思っとったけど、ちゃんと居たんじゃな。影が薄いんじゃよ影が。
「試験はここで中止とするが、点数はそれぞれの班に与える。無論、点数は公平にあたえよう。現時点で中継地点に到着していた班に三十点。採取物を一つ入手していた班に三十点。二つ入手していれば六十点だ。尚、ゴールしていた班は居ないのでゴール点数は無い」
「三十点だって」
「ラッキー! ゴールできなくても点数貰えたじゃん!」
点数配分を聞いて喜ぶ生徒達。彼等が喜ぶ気持ちも分かるぞい。
本来点数を与えられるのは、中継地点に到着して二つの採取物を入手し、尚且つ元居たゴールに辿り着かなければならん。
班によっては途中脱落や採取物が見つからなかったり、時間までにゴールに辿り着けんこともあったじゃろう。
それを考えれば、ゴールせずとも点数を貰えるんじゃから旨い話じゃよな。
「生徒達の点数はこちらで確認してある。ほとんどの生徒が同じ点数だが、最大点数が一組だけあった。セゲール先生、お願いします」
「は、はい」
ジョセフ氏が呼ぶと、セゲール氏がチェックリストを持って前に出てくる。彼はチェックリストを確認しながら、
「えっと……一番点数を獲得したのは、フェニックスクラスのクリス班です。中継地点到着、採取物二つを入手しての合計九十点となります」
「「おお~!」」
えっ!? わし等が一番なんか!?
これは驚いた……。という事はクリスとユンユはチガサラサラの実を見つけたんかの。
「凄ぇ~、この短時間で中継地点と二つの採取物をゲットしたのかよ」
「流石はブラッドリー家って感じだな。兄と一緒で優秀だよ」
「不測の事態になったが、これで特別試験を終了とする。これから全員で学校に戻るので、各自準備したまえ」
「「はい!」」
ジョセフがそう締めると、生徒達はそれぞれ帰るために動き出す。
そんな中、わしとステラはジョセフ氏の元に向かい、クリスとユンユの所在を尋ねた。
「ジョセフ先生、クリスとユンユが見当たらないんですが知りませんか?」
「二人はマリアンヌ先生が診ている」
「怪我をしたんですか!? 二人は無事なんですか!?」
ジョセフ氏の話を聞いた途端、ステラが切迫した様子で問い詰める。
心配する彼女の肩を抑えながら、ジョセフ氏は「安心しろ」と言い続けて、
「クリスが足に怪我をしているが、二人共無事だ。二人共、点数の件を二人に報告してくるといい。喜ばしてやれ」
「はい」
ステラは頷くと、二人の元に駆け走で向かう。わしも行こうと思ったんじゃが、その前にジョセフ氏に話す事があった。
「ジョセフ先生」
「なんだ?」
「ちょっと、話したい事があるんですが……」
◇◆◇
「お~いクリス~大丈夫か~」
「あ、アル君……」
「ちっ、次から次へと」
そんな露骨に嫌がらんでもええやんかぁ。
クリスとユンユは小さなテントの中におった。テントの中には他にマリアンヌ氏とステラがおる。クリスは簡易の寝床に横になっており、片足に包帯が巻かれておった。
「その足、大丈夫なのか?」
「こんなもの大したことはない。大袈裟なんだよ」
「何言ってるのよ~、骨が折れてたじゃな~い。特別な薬を塗ったけど、二日は安静にしといてね~」
「がっ!?」
((うわぁ……))
側にいたマリアンヌ氏が笑顔で怪我をしている足をパシッと叩くと、クリスは悶絶して呻く。
このババア、患者に対してなんてえげつない事をするんじゃ。可哀想に……。
わしは同情しつつ、若干涙目のクリスに試験の報告をする。
「そういえばクリス、俺達点数が一番だったぞ」
「ああ、それは呪い……ステラから聞いた」
「そっか。よくチガサラサラの実を見つけたな、やっぱ凄いなお前」
「見つけたのは僕じゃない、ユンユだ。褒めるのなら彼女にしてやれ」
クリスは首を横に振ると、ユンユを名指しする。
へぇ……見つけたのはクリスじゃなくてユンユだったんか。
「大手柄じゃん、ユンユ」
「わ、私は別に……偶然見つけただけで……」
恥ずかしそうに俯くユンユ。うんうん、可愛えのぉ。
「そういやその足はどうしたんだ? クリスが怪我をするなんて珍しいな」
「これは……」
「はいはい、話はそこまでにしましょ~。もう他の生徒達も帰るわ。クリス君はワタシが運ぶから、ちょっと我慢してね~」
怪我の事情を聞こうとしたら、マリアンヌ氏に遮られてしまう。
後で聞けばええか。それに、なんとなく想像はできるしの。
不測の事態にはなったが、結果的にわし等クリス班が一番となり、特別試験は終わりを告げたのじゃった。
◇◆◇
「不可解な霧と、賊の侵入か……敵対した賊に見覚えは? 目的はなんだった?」
「見覚えはありません。残念ですが、目的もはっきりとしておりません」
「そうか……生徒達には不安を抱かせてしまったな」
ここはバビロニア魔法学校校長室。
この場には校長のカミラと教頭のグレイソン、それとフェニックスクラスの教師であるジョセフの三人が居た。
今は特別試験での出来事を、ジョセフが詳しい報告をしている最中である。
「我が校に賊の侵入など今までになかったことだ。由々しき事態だな……何はともあれ生徒達が無事で良かった。よくやってくれた、ジョセフ先生」
カミラが労うと、ジョセフは「いえ」と否定して淡々とした様子で口を開く。
「我は特にしておりません。生徒達が優秀だったお蔭です」
「ほう……ジョセフ先生が生徒を褒めるとは珍しいな。まぁ、賊と戦い生き延びたのだから褒めもするか。賊と戦ったのは確かブラッドリー家の生徒だったか?」
「はい、我のクラスのクリスです。他に一名おりましたが、実際に戦ったのは彼だけでしょう」
「流石だな、兄に劣らぬ優秀でなによりだよ。身体の方は無事か?」
「全身に軽い裂傷と、足が骨折しています。ただ、骨折したのは戦いによるものではなく、彼自身の失態によるものだそうです」
実際はユンユを助ける為に負った怪我なのだが、クリスは敢えて自分の失態だとジョセフに報告していた。
「骨折した状態で戦っていたのか? それでよく無事だったな」
「本人から聞いた話を踏まえてですが、賊は本気で戦っておらず、生徒を殺そうとしていなかったのではないかと我は考えております」
「なるほどな……ますます賊の目的が分からん。賊と戦った生徒はブラッドリーだけか?」
「それは……」
カミラに問われると、ジョセフは森でアルと話した事を思い出す。
『ちょっと、話したい事があるんですが……』
そう言ってきたアルは、賊に襲われたと報告してきた。
しかも戦って撃退したらしい。それを聞いた時は能面のジョセフも目を見開くほど驚いてしまった。
まぁ、決して不可能ではないだろう。入学試験で中級上位の魔法を容易く発動した事や、クリスを決闘で圧倒した事を考えると、アルがただ者でないのは既に承知済みだ。
賊を無傷で撃退してもおかしくはない。
さらに詳しく聞いたところ、賊はクリスと戦った仲間と思われる。黒いローブを身に纏っていたなど共通している箇所があった。撃退した後はホリーに保護されたそうだ。
ジョセフはアルの件を告げるかどうか一瞬だけ迷ったが、再び口を開いて報告する。
「我の生徒の一人が賊に襲われましたが、撃退したようです」
「ほう、凄いじゃないか。何という生徒だ?」
「アル……という名前の生徒です」
「アルか……うん、良い名だ。アルバート様の名前が入っているのが実に良い。そういえばアルバート様は――」
「校長校長、話を変えないでください」
いつもの悪い癖が出てしまったカミラを、グレイソンが慌てて止める。止めないと永遠に大賢者の話をされてしまうからだ。
カミラはこほんと咳払いを一つして、
「生徒達は賊の件を知っているのか?」
「いえ、知りません。不安を煽ぐような真似はすべきでないと判断しました。既に知っている生徒には、他言無用であることを伝えております」
「流石だな、ありがたい判断だ。報告はまだあるか?」
「いえ、ありません」
「わかった。下がっていいぞ」
「では、我は失礼します」
頭を下げ、ジョセフは踵を返して校長室から退出していく。
彼を見送ると、カミラは盛大にため息を吐いた。
「はぁ~、まさか我が校に賊が忍び込むとはなぁ」
「まさかですね。私も長年勤めておりますが、こんな事はなかったですよ。賊の目的はなんなんでしょう?」
「それがわかったら苦労はせんよ。最大限に警戒するしかないだろう。この件は他の三校にも伝えておこう。あと王国にもな。頼んだぞ教頭」
「承知いたしました」
カミラは豪奢な椅子に深く背中を預けると、険しい表情を浮かべてこう言い放った。
「よくも私の……いやアルバート様の母校を汚い足で汚してくれたな。絶対に許さん、今度来たら纏めてぶっ殺してやる」
(恐ぇ~~~)
怒りによって身体から魔力が溢れて出ているカミラに、グレイソンはツルツルの頭から冷や汗を流したのだった。




