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大賢者、ハプニングに遭う

 


「いや~若いって良いわねぇ~。ワタシも青春の日々に戻ってみたいわ~」


「マリアンヌ先生は永遠の十八歳じゃなかったんですか?」


 魔法薬学を担当しているマリアンヌがため息を吐きながらぼやくと、隣で聞いていたユニコーンクラスの担任であるホリーがふと抱いた疑問を問いかける。


 するとマリアンヌはにこやかに笑いながらホリーの肩を“軽く”叩いた。


「やだも~ホリー先生ったら! 例えばの話ですよ~」


「ぁ痛った!? (このバーさん、いい加減その設定やめろよ。自分で言っててイタいって気付かないのかな?)」


 心の中で哀れみを抱くホリー。

 マリアンヌの“永遠の十八歳”はこの学校の者なら誰もが知っているだろう。ホリーは同じ女として、マリアンヌのイタい発言を見ていられなかった。


 まぁ、それについて突っ込むと今のようにお仕置きされるので迂闊に弄れないが。


(魔法使いとしては本当に尊敬してるけど、こうはなりたくないよね……)


 ホリーはまだ二十代前半で若いが、歳を取ってもマリアンヌのようにだけはなるまいと密かに心に誓ったのだった。


「喋るのは構わないが、監視の方もしっかりとお願いしますよ」


「ご、ごめんなさい! ジョセフ先生」


「言われなくても、ちゃ~んと見てますよ~」


 呑気にトークをしている二人を注意するジョセフ。

 彼が言う監視とは、昆虫や動物の目を通して生徒達の試験を見張っていることだった。


 マリアンヌは昆虫や動物を操る魔法に長けており、視覚を共有できる。さらに自分だけではなく、他の先生にも見ている視覚を共有できるのだ。


「ジョセフ先生……相変わらずクールで素敵です……」


 瞳を♡にしてジョセフを見つめるホリー。御覧の通りホリーはジョセフにホの字である。


 ホリーはイケオジがタイプで、クールで渋い感じのジョセフが自分の好みにドンピシャなようだ。


(はぁ……こんな陰険な中年のどこが良いのかしら~。人間ヒトの好みは分からないものね~)


 ジョセフにデレデレな態度を取るホリーに、マリアンヌは信じられないわと言わんばかりに肩を竦める。


 仏頂面がデフォルトで愛想も無く、陰気なオーラを漂わせている中年親父のどこがいいのだろうか。自分だったらあり得ない。


「今のところ異常はないかね」


「はい。どの班も順調に進めています、脱落もありません」


 ホリーの報告を聞いたジョセフは「ふむ」と考える仕草をすると、


「余りにも順調過ぎるな。先生方はこれからも生徒達を注意して見ていただきたい」


「はい!」


「考え過ぎじゃないかしら? 毎年同じことをしていれば順調な年だってあるわよ~」


 怪訝な顔を浮かべるジョセフに、マリアンヌが考え過ぎだと告げる。


 例年、特別試験では必ず脱落する班が出てくる。試験の前半からもちょこちょこ出てくるが、今年に限っては未だに脱落する班はゼロであった。


 今年の生徒は優秀だと言われればそれまでだが、ジョセフは些細な違和感を抱いていた。

 嫌な予感がするというか……余りにも森が静か過ぎるのだ。


「杞憂であればそれでいい。だが万が一の事が起これば、生徒達を守るのは我々の役目である」


 何事もなければそれで構わない。

 しかし残念なことに、ジョセフの嫌な予感は的中してしまうのであった。



 ◇◆◇



「フェニックスクラスのクリス班です」


「はいはい、クリス班ね。チェックOKっと。ご飯が用意してあるから、一休みしていくといいよ。午後もこの調子で頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


 あれからわし等は順調に森を進み、折り返しの中継地点に辿り着いた。


 中継地点は開けたところにあり、生徒が休めるように簡素なテーブルや椅子なんかも置いてある。

 少ないながらもご飯も用意されており、わし等より早く来ていた生徒達が仲良く食べておった。


 そういえば漫画にもこういうシーンがあったのぉ。遠足みたいで楽しいわい。


 因みに中継地点にはセゲール氏が常駐しており、やってきた生徒達をチェックしておるようじゃ。


 新任なのに扱き使われておるのぉ。この学校ブラックなんじゃない? 大丈夫? 訴えられたりとかしない?


「カレーか、良い匂いだなぁ!」


「そ、そうだね。美味しそう」


 用意されていたご飯はカレーじゃった。

 芋やニンジンが沢山入っており、スパイシーな匂いが漂ってきて食欲が湧いてくる。米ではなくパンなのが残念じゃが、贅沢は言えんの。


 学園系漫画の話に、遠足や校外学習とやらでは班の皆で楽しくカレーを作ったりするんじゃが、それもやってみたかったの……なんか青春っぽいし。


「「いただきます」」


 わしらはテーブルに座り、四人一緒にカレーを食べていく。


「美味しい……なんて美味しいカレーなんだ」


 カレーが美味しくて涙が出ちゃう。

 野外で食べておるからっていうのもそうじゃが、やっぱりクラスメイトと一緒に食べている状況ってのがプラスαなんじゃろうな。


 これこれ、わしはこういう青春を送りたかったんじゃよ。

 ああ……幸せなんじゃあ。


「愚民……貴様そんなに貧しかったのか」


「カレー食べて泣く? ヒくんだけど」


「アル君って変なところあるよね」


 感動の余り涙が出ておったら、三人にドン引きされてもうた。


 ちっとばかしリアクションが大袈裟じゃったかの……でも美味しいんだからしょうがないよね!


「食べながらでいいから聞け。さっきセゲール先生に確認したところ、僕達の順位は今中間ぐらいだそうだ。午後の挽回次第ではまだ一位を狙える」


 へぇ、そうなんじゃな。ユンユのペースに合わせておったから、もっと出遅れておるとかと思ったんじゃが。


 まぁ、班によって作戦は変わるしの。先に採取物を探してから一気にゴールする班もおれば、わしらのように中継地点に向かいながら採取したり、早めに中継地点に来てから採取物を探す班もおるじゃろう。


「でも、結局チガサラサラの実は見つからなかったじゃない」


 クリスの話にステラが意見を唱える。

 そうなんじゃよな~。クリス曰くチガサラサラの実は中継地点の近くにあるらしいんじゃが、探しても見つからんかった。


 見つかっておれば、そのままゴールするだけじゃったんだがの。


「それは分かっている。チガサラサラの実はこの近くに生えていることは間違いない。しかし、一々全員で探していたら時間がもったいないだろう。だから二手に分かれるぞ」


「おっ、ナイスアイディア!」


「じゃあ私はユンユと一緒に探すわ」


 ステラが隣にいるユンユに視線を向けて告げる。

 ええ……しょんな~。ステラと一緒が良かったなぁ。


「ダメだ」


「は、何でよ」


「僕がこいつと一緒に探すなんて考えられないからだ。それは、呪い子である貴様も同じだ。貴様と一緒だとどんな事に巻き込まれるか分からないからな。怪我程度ならいいが、死ぬようなことがあればたまったもんじゃない」


「なんですって」


 クリスの侮辱に、ステラの顔が険しくなる。

 おいおい、ま~だそんなしょうもない事言っておるんか。


「おいクリス、お前まだそんなくだらないこと言ってんの? 今までステラと一緒で厄介なことなんてあったか? この試験でもずっと一緒に行動してたけど、何もなかったじゃないか」


「そ、そうだよ……酷いよ」


「貴様等は呪い子がどれほど厄介な存在であるか知らないから呑気な事を言っていられるんだ。僕は実際に知っている。だからこいつと組むのだけはゴメンだ」


 貶しているとかではなく、真剣な声音で話すクリス。

 ここまで嫌悪しているんじゃから、呪い子に関して何かあったんじゃろうな。呪い子に会って、嫌な目に遭ったとか。


 実際に被害に遭ったとかなら嫌がる気持ちも分からんでもないが、それでものぉ……。


「ふん、勝手にすれば。別に私は一人で結構よ」


「ちょ、ステラ!」


 椅子から立ち上がり、一人で立ち去ろうとするステラ。

 も~せっかくみんなで美味しくカレーを食べておったのに、台無しじゃよ。っていかん! 流石に一人にしておくのはマズいよな。


 慌てて彼女を追いかけようとすると、クリスがわしにこう言ってくる。


「愚民、チガサラサラの実を見つけたら空に向けて“一発だけ”火球を放て!」


 何故一発なのか、クリスの意図が分かった。

 二発だと救難の合図になってしまうため、敢えて一発にするんじゃな。


「分かった! そっちは任せたぞ!」


 クリスに返事をすると、わしは見失う前にステラを追いかけたのじゃった。



 ◇◆◇



「なぁステラ、ちょっと待てよ」


「ついてこないでって言ってるじゃない」


「そういう訳にはいかないだろう。一人じゃ危ないしさ」


 ステラに追いついたものの、彼女はわしのことを無視してどんどん森を進んでしまう。


 はぁ……なんでこんなに強情なんじゃろ。

 心の中でため息を吐いていると、急にステラは足を止め、わしに振り返る。


「私は一人だって平気よ。これまでだって一人で生きてきたんだから。それに、あいつの言うことも正しいわ。私は呪い子……私の近くにいると危険な目に遭うのは事実なのよ」


「今は平気なんだろ? その手袋を着けているからさ」


「っ!? あんた、どうしてそれを……」


「どうしてって……見ればわか――」


 指摘されて驚くステラに、わしは肩を竦めながら答えようとするが、その前に口を閉じる。


 途中で話を切ったわしに怪訝そうなステラが「ねぇ」と聞こうとするが、わしは「しっ」と人差し指を立てて、


「静かに……」


「な、何よ急に……」


「気付かないか? 急に霧が出てきた」


「え、そういえば……」


 もくもくと、突然霧が発生する。霧はどんどん濃くなり、視界が奪われていった。

 それにこの霧……ただの霧じゃないの。


「森の中なんだから霧ぐらい出るんじゃないの……?」


「それはそうなんだが、この霧には微弱だが魔力が込められているんだ。多分人為的なものだろう」


「何ですって!? だ、誰がそんなこと……」


「それは分からない。先生方が試験を難しくするために敢えてしたか、それとも他の生徒が妨害目的でやったか……ぱっと二通り考えられるが、まぁどっちでもないだろうな」


 自分で言った案を即座に否定する。

 恐らくどっちでもないじゃろうな。この霧はかなり広く展開されておる。生徒の魔力量では不可能じゃろう。


 それに――、


(目を潰されたな)


 先生方が昆虫や小動物を使って生徒達を監視しているのには気付いておった。


 しかしこの霧の中ではろくに見れんじゃろう。さらに言えば、救難合図を出されても分からない。本末転倒になってしまうことを先生方がするとは考えられん。


 それらから導き出されるのは、学校とは全く関係ない第三者の仕業。


「ステラ、俺から離れるなよ」


 彼女に近付きながら周囲を警戒する。

 学園系バトル漫画にはこういったハプニング展開がお決まりのようにあるが、なにもわしが居る時に起きなくてもええやんか。


 はぁ……面倒臭いのぉ。


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