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大賢者、説く

 


「いや~森って良いよなぁ。自然が豊かで空気も美味しいし! ステラもそう思わないか?」


「さっきからうるさいんだけど。気が散るから話しかけないでくれる」


「すんません……」


 特別試験で森に入ってから、わしは何度もステラに話しかけた。


「今日は良い天気だね!」「あっ聞いて、小鳥が鳴いてるよ」「どう、この花綺麗じゃない?」といった感じで。じゃけど、どれだけ声をかけ続けても無視されてしまう。


 それでもめげずに話しかけ続けて、ようやく答えて貰ったと思ったらこの調子じゃ。


 とほほ……せっかく森の中という普段とは違うシチュエーションなのに、全く距離が縮まらんなぁ。


 ステラには普段の授業や教室でも挨拶をしたり話しかけておるんじゃが、全然無反応なんじゃよな。マジでガードが固いんじゃよ。


 わしだけじゃのうて他の生徒にも同じ対応なのが唯一の救いじゃな。これでわし以外の男子と仲が良かったら絶望しておったぞ。


 彼女は男子だろうが女子だろうが、こんな感じで壁を作っておる。まぁ、呪い子であるステラに話しかける生徒はわし以外おらんというのもあるけどの。


 はぁ……どうやったら漫画の主人公のように好感度が上がるんかのぉ。

 漫画のヒロイン(特に異世界ファンタジー系)はすぐに主人公にメロメロになるというのに……。


 はっ!? もしかしてわしがイケメンじゃないのがダメなんか!?


 いや待て……漫画の主人公もイケメンじゃないのにモテておるぞ。という事は、わしにもまだ望みはあるということじゃな!


 よ~し、頑張るぞい!


「はぁ……はぁ……あっ!」


 ふんす! とこれからも諦めずにステラにアタックし続けようと心に誓っていたら、後ろの方から声が聞こえる。

 何かあったのかと振り返ると、木の根っこに躓いたのかユンユが転んでおった。


「大丈夫か?」


「うん……大丈夫」


「立てるか?」


「ありがとうアル君……はぁ……はぁ……」


 ユンユに手を差し伸べると、彼女はわしの手を取って立ち上がる。


 しかし大分疲れているようじゃの。ユンユは身体も小さく小柄な女の子で、森の中を歩くのは大変そうじゃ。


(わしとした事が……自分のことばかり考えて周りを見ておらんかった)


 愚かな行いを反省する。

 若返ったことで健康な身体になったわしは、体力が有り余るかのように疲れ知らずじゃ。だからずっとステラに構っておったんじゃが、自分ばっかりで他の者を気遣うのを忘れておった。


 森に入ってから一時間ほど経ったが、休み無しの歩きっぱなしだったし、ユンユが息を切らすのも無理はない。ここらで一休みせんといかんの。


「おい、何をしている。止まってないで早く行くぞ」


「見てわからないの? 彼女は疲れてるのよ」


 先を行くクリスが、わし等の足が止まっている事に気付く。

 苛立たしそうに眉間に皺を寄せて催促してくるが、意外なことにステラが言い返した。


「はぁ……この程度歩いただけで疲れるとはな。だから役立たずと同じ班は嫌だったんだ」


「その言い方はなんなのよ? 自分さえ良ければそれでいいわけ?」


「こうやって立ち止まっている間にも他の班は着実に先に進んでいるんだぞ。僕は一番を目指しているんだ。足手まといは困るんだよ」


「くだらないわね。そんな事の為に私達を巻き込まないでよ」


「くだらないだと? おい呪い子、口を慎めよ。足手まといの中には貴様も入っているんだぞ」


「なんですって?」


「まぁまぁまぁまぁ! 二人とも落ち着けって、なにも喧嘩しなくていいだろ」


 言い合いがヒートアップし、険悪な空気が漂う。二人が喧嘩に発展する前に、わしが間に入って止めた。


「愚民は引っ込んでろ。この班のリーダーは僕だ、リーダーである僕の指示に従うのは当然だろう」


「確かにお前の言う事にも一理ある。団体行動はリーダーの方針に従うのが基本だ。下の者がリーダーを信頼してついていくからこそ、スムーズな団体行動を行える」


「それなら――」とクリスが続きを言う前に、わしは真剣な声音で自分の考えを伝える。


「しかしの、その代わりリーダーは責任を伴うものじゃ。下の者がしくじれば、その責任は全てリーダーに降りかかる。そして責任には、命も含まれるんじゃぞ」


「命……だと」


「そうじゃ。リーダーはついてくる全ての者の命を預かるんじゃよ。今回のような遠征や野外調査の時は特にの。リーダーの判断一つで人を死なせることもある。それだけは心に留めておいて欲しい」


 わしがそう告げると、クリスは「ふん……」とそっぽを向いて、


「愚民の癖に知ったような事を言うな。十分だ、十分だけ休憩を取る。それ以上はやらないぞ」


「流石リーダー! よっ、我等が大将!」


「気安く触るな! それと愚民、僕に勝ったからって余り調子に乗るなよ」


 レオンの真似をしようと肩に手を置いたら、おもいっきり叩かれてしもうた。も~いけずじゃな~。


 それにしても、なんとか収まって良かったわい。わしの言葉がちっとは届いたんかの。


 まっ、全部漫画の受け売りなんじゃがの!


 だってわし、自慢じゃないが今まで団体行動なんてした事ないし!! がっはっは!


「アル君、ありがとね」


「ん? ああー気にするなよ。俺も歩きっぱなしで疲れてたから」


 ユンユにお礼を伝えられたので、軽く手を振る。

 すると彼女は不思議そうな表情を浮かべると、


「でも、さっきのアル君の喋り方、なんだかお爺ちゃんみたいだったね」


「えっ!? 俺、そんな話し方してた!?」


「うん。なんとかじゃ~とか、なんとかのぅ~ってみたいに。だけど、しっくりきているというか全然違和感がなかったんだよね」


 あっかん……真面目に話したらつい素が出てしまったみたいじゃ。


「いや、ほら、老人っぽく話せばクリスも聞いてくれると思ったからさ!」


「そうなんだ。ふふ、アル君って面白いよね」


「ま、まあね~」


 ふぅ、なんとか誤魔化せたみたいじゃな。

 わしが本当はアルバート・ウェザリオだという事がバレたらマズいし、マジで気をつけんといかんのぉ……。



 ◇◆◇



「ほら、飲みなさい」


「あ、ありがと……ステラちゃん」


 ステラが水筒からコップに水を注ぎ、座って休憩しているユンユに渡す。


(へぇ……)


 さっきユンユを庇った時も意外に思ったが、ステラも優しい所があるんじゃな。

 その優しさを、ちっとだけでもわしに分けてくれんかのぉ。とほほ……。


「なぁクリス、中継地点まではあとどれくらいなんだ?」


 少し離れた場所で休んでいるクリスに聞いてみる。

 班には僅かな水と食料が人数分支給されているが、それとは別にリーダーには地図と指定された採取物が書かれた紙を渡されておるんじゃ。


 わしの質問に、クリスは地図を見ながら短く答える。


「三分の一といったところだ」


「もうそんなに歩いたのか、意外と短いんだな。お昼過ぎた頃には中継地点に着くんじゃないか」


「僕の考えでしかないが、採取物を探す時間に充てるためだろうな」


「あっそっか。そういえば指定された採取物ってなんなんだ?」


「ドクケシ草とチガサラサラの実の二つだ。ドクケシ草に関しては歩いている最中に見つけたから僕が採取しておいた。チガサラサラの実はもっと深い所にいかないと見つからないだろうな」


「ほう、さっすがリーダー! 頼りになるぅ!」


 いつの間に採取したんじゃろう。ステラに夢中になっておったから全く気がつかんかった。


「くだらん世事はよせ。もう時間だ、行くぞ」


「俺は大丈夫だけど……」


 ちらりとユンユの様子を窺うと、彼女は力強く立ち上がって、


「わ、私ならもう大丈夫だよ。行けるよ」


「ふん、言われなくてもそのつもりだ」


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