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大賢者、若返る

 


「あれ、わし生きてる」


 目が覚めて「ここがあの世かのぉ」と呑気に思っとったら、なんか知らんが生きておった。

 あの世というか、なんもない草原に寝転がっておった。


「どうなっとるんじゃ、確かに死んだ気がするんじゃが……」


 自分が生きていたことに困惑してしまう。

 異神から道連れにと『死』の呪いを受けたわしは、苦しくなって全身に力が入らなくなり、そのまま死んだはずじゃ。


 あの苦しみは、自分でも「あかん、これはもうどうにもならん」と死を覚悟していたんじゃが、なんでかこうして生きておる。


「なにがどうなっとるのじゃ? 呪いが効かなかったのかの?」


 疑問に思いながら、自分の身体におかしなところがないか確認してみる。

 最初に手を調べたところで、わしは「ん?」と疑問を抱いた。


「あれ、わしの手ってこんなにスベスベだったかのぉ?」


 わしの手は皺だらけのヨボヨボな手ではなく、皺一つない若々しい肌をしておった。

 いや、手だけではない。顔もぺたぺた触ってみると、肌は瑞々しく張りがあった。


 もしやと思い、わしは魔法を使った。


「創造魔法・クリエイト」


 魔法を使用すると、目の前に大きな鏡が出現する。

『創生魔法・クリエイト』。これはわしが独自に編み出した物質を創造する魔法じゃ。


 一から想像するのではなく、魔力を材料にしてコピーするといったイメージかの。じゃからわしが触れたことがない物質は造り出すことはできんが、鏡のようなものなら造ることができるのじゃ。


「どれどれ、今のわしはどんな姿なんどひゃ~~~~~!?」


 鏡に映る己の姿を見たわしは悲鳴をあげてしまった。

 そこにいるのはよぼよぼな六十歳の爺ではなく、若々しい少年だったからじゃ。


「わし、若返ってる~~~~~~!?」


 鏡に映る少年は、十代ぐらいの若い頃のわしにそっくりじゃった。

 ど、どうなっとるんじゃ!? なんでわし、若返っておるんじゃ!?


 あり得ない現象に信じられず、じっくりと鏡に映る自分を見て、確かめるように顔を触っていく。


「う~む、やはり若い頃のわしじゃ。ていうか、わしってこんな顔じゃったっけ? なんかイケメンじゃね? かっこよくない?」


 じっくりと確かめていると、自分の顔が中々にイカしておることに気付いてしまう。


 やっべ、わしイケメンじゃね?

 わしってこんな顔じゃったんじゃな……若い頃は今よりも魔法に没頭しておったから、自分の顔とかち~っとも興味なかったんじゃよなぁ。


「ふん! ふん! ん~筋肉はやっぱりないの。しかし、身体の方も若くなっておる」


 調子に乗って魔法着を脱ぎ捨て、上裸になってマッスルなポージングを取ってしまった。こんなお馬鹿なことをしているのも、きっと若くなってテンションが上がってしまったからじゃろ。じゃから許しておくれ。


 わしはマッスルポーズをやめて、顎に手を添えながら熟考する。


「問題は、どうして若返ったのか、なんじゃよな。それも異神から『死』の呪いを受けたのにも拘らず生きていることも不思議じゃ。考えられるとしたら、神から授かった祝福ギフトと呪いが反発した……とかかの」


 鏡に映るわしの左肩には、神から授けられた(一方的に押し付けられた)ギフトの刻印タトゥーが白く刻まれておる。

 そして反対側の右肩には、恐らく異人から受けた呪いの刻印タトゥーが黒く刻まれておる。


 わしが呪いによって死ななかったのは、ギフトによって呪いの力を打ち消したから。若返ったのは、ギフトと呪いが反発し合った副産物によるもの……と考えられるかもしれん。


「まっ、どうでもいっかの!!」


 考えても答えが出るわけでもないので、わしは考えるのをやめた。


 あの時はもう死を覚悟しておったし、生きていただけで儲けもんじゃ。というか、身体が若返るというラッキーまで起こったしの。


 それに、若返ったのは身体だけで魔力量のほうは爺の時となんも変わらん。

 あっそれも違うか。わしの今の魔力量はギフトの『無限』の恩恵によって魔力量が無限なんじゃった。


 ギフト無しでも超強い魔法を連発できるほどの魔力量じゃったが、今となっては無限に魔法を使うこともできる。とはいっても、魔法を使う度に体力スタミナや精神力がすり減るから無限に使える訳でもないんじゃがの。


 じゃがそれも、若返ったことで爺だった時よりも体力が戻っておるから、結構むちゃくちゃできるじゃろ~な。


 あれ? わしってもしかして最強なんじゃね?


「とまぁ冗談はさておき、これからどうしたもんかのぉ~。一応異神はぶっ殺して神の使命は果たしたし、また魔法の研究に戻るかのぉ~。な~んて、そんなもんもうどうでもええわ! 折角若返ったのに、ヒキこもってネチネチと魔法の研究なんかやってられんわい!」


 自分の考えを即座に否定する。

 だってそうじゃろ? 若返ったのに、また魔法の研究をするとかアホかて。


 そりゃあ爺のままじゃったら研究の続きをしてもよかったんじゃが、若返った今ではもっと他のことがしたい。


 他のこととは、すなわち青春じゃ!


「空間魔法・ボックス」


 わしは魔法を使い、異空間に仕舞っていた一冊の本を取り出す。

 その本の表紙には二人の少年少女と、『最強の力を手に入れた俺は魔術学園で無双してハーレムになる』というタイトルが描かれておる。


 本をめくると、人や台詞や背景が描かれており、可愛い女の子と少年が戦っておる。

 これは“漫画”という古代遺物アーティファクトで、文章ではなく絵が描かれておるイカした本なのじゃ。


「これを発見した時は興奮したのぉ」


 あれは五十代の頃じゃったか。

 古代遺跡を探索していた時にたまたま書室を見つけたら、沢山の漫画が保管されておった。


 どんな本か気になって見てみると、なんと本には文字ではなく絵が描かれておったんじゃよな。


 文字は読めなかったものの、絵だけで内容をなんとなく理解したわしは、読み進めていくと面白くてドハマりしてしまったんじゃ。

 それからわしは書室にあった本を全てボックスに入れて持ち帰り、文字を解読して読めるようになった。


 漫画にはバトル・SF・恋愛・ラブコメ・ファンタジーなど様々なジャンルがある。その全てが面白くて、わしは漫画の虜になってしまったんじゃ。


 持ち主が男性じゃったのか、主人公が男性なのが多かったの。それで物語を紡ぎながら女の子と恋愛を深めていくんじゃ。


 ドキドキしてページをめくれなかった時もあったの。今思えば我ながらにキモかったの……。


 五十のじ~さんが「うわぁあああ」と叫びながら悶えておったんじゃから。はたから見たら気持ち悪くて仕方ないわい。


 漫画はあるもの全部、何回も読んだ。

 凄く楽しくて幸せなひと時じゃったが、それと同時に一抹の寂しさを覚えたんじゃよな……。


「わしも漫画の主人公のように青春を送っておけばと後悔してしまったんじゃ。魔法だけに人生を費やさず、もっと楽しく生きていればと。それに気付いたのが五十の頃じゃ、気付くのが遅すぎたの……」


 わしはぱたんっと漫画を閉じて、


「とか思っておったら、若返ってもうた! がっはっは! わし、大勝利! いえ~い、ひゃっほ~い!」


 嬉しくてばんざ~いと手を上げる。

 魔法の研究? なにそれオイシイんかの?


「青春するぞ~い! めんこい女の子と手を繋ないで帰り道を歩くんじゃ~! 魔法なんてもうどうでもええわ~い!!」


 なんかようわからんが、折角十代の頃まで若返ったんじゃ。

 この機会を逃すのはもったいない。漫画の主人公のように学校に通ってアオハルをしてやるんじゃ!


『……アル……聞こ……るか』


「わ~いわ~い! 彼女作っちゃうぞ~!」


『おいアルバート、聞こえるか?』


「誰じゃよこんな時に念話なんてしてくる奴は。折角の気分が台無しじゃ」


 これからのウフフな未来の妄想――ではなく明るい未来の想像をしておったら、突然誰かがわしに念話魔法を送ってきた。


 わしに念話魔法を送ってこれるやつって結構限られているんじゃが、いったい誰じゃろ~か。


『オレだ、バオウだ』


「お~バオウか!? なんじゃ久しぶりじゃな、元気にしておったか!?」


 念話の相手は、かつての戦友じゃった。

 わしが若い頃に戦った奴なんじゃが、まさかバオウから念話を飛ばしてくるとはの。


「突然どうしたんじゃ?」


『アルバート、お前に頼みたいことがある』


「頼み? お主ほどの奴がわしにか?」


『ああ。悪いが時間がない、こっちに来てもらえるか』


「かなりの急用なようじゃの。わかった、今そっちに行ってやる」


『すまない』


 バオウは申し訳なさそうに一言謝ると、念話を切った。


「ふぅ……すぐ学校に入学しようと思っとったが、それはまた後じゃな。どれ、バオウのもとに行ってやるか。転移魔法・テレポート」


 わしは空間を移動する魔法を使い、かつての戦友のもとに馳せ参じたのじゃった。


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