大賢者、幸せを感じる
「この勝負、アルの勝利」
「「おおおおおおおおおおっ!!」」
ジョセフ氏が勝利宣言を唱えると、フェニックスの生徒達が飛び上がった。
クラスメイトから「やったな!」「見ろよ、バジリスクの奴等の残念そうな顔ったらねぇぜ!」「アルのお蔭だな!」と暖かい声をかけられたり、身体をバシバシ叩かれる。
痛い、痛いって。
褒めてくれるのはええけど、叩くのはやめておくれって。
「やったなアル! 不意打ち喰らった時はどうなるかと冷や冷やしたけど、あの状況からよく勝ったもんだわ」
「ふん、僕に勝ったんだ。ショウ程度に負けてもらっては困る」
レオンとクリスからも声をかけられる。
魔箒に雷の矢が当たった時は少々焦ったわい。なんとか持ち直して挽回したが、運が悪ければそのまま負けておったじゃろう。
戦いで侮るのはよくないと再認識したわい。
異神やエンペラードラゴンといった強敵と戦う時は砂粒ほどの油断もせんかったから、まともなダメージは受けなかった。
じゃがさっきは魔箒のレースで突然魔法を使われたために、つい焦ってしもうた。
わしは大賢者なんて持て囃されておるが、ただの人間、ただの魔法使いである事に変わりない。意識の外から不意打ちをされればやられる事もある。
今回は良い教訓になったの。
でもまぁ、実に楽しい勝負だったわい。昔を思い出してつい張り切ってしもうた。
(そういえば、ステラはどうなんじゃろ。わしの雄姿を見ててくれたんかの)
声をかけてくれるクラスメイトの中にステラの姿はない。
きょろきょろと周りを見渡すと、ステラは一人で魔箒の練習をしておった。
が~ん……。
せっかく良い所を見せたというのに、わしには興味無しなんかい。とほほ……どうしたら彼女の好感度が上がるんじゃろ。
漫画のように上手くはいかんの~。
「おいショウ、大丈夫か?」
「お前が負けるとは思わなかったぜ……」
「う、うるせー! ちょっと油断しただけだっつうの!」
魔箒に乗って戻ってきたショウが怒声を上げる。セゲール氏が近くにおることから、空から落っこちるショウを助けたのは彼だったんじゃな。
手下達に慰められるショウは、わしの事をビシッと指してきて、
「おいお前、今ので勝ったと思うなよ!」
「いや、どっからどう見ても俺の勝ちだろ。なぁ?」
ショウが言い掛かりをつけてくるのでクラスメイトに問うと、彼等は即座に頷いた。
「ほら」
「うるせ~うるせ~! 俺は認めねーからな! もう一回勝負しやがれ!」
「えぇ……」
面倒臭いのぉ。もうやりたくないんじゃが。
再戦を申し込んでくるショウに困っておると、ジョセフ氏がパンと手を叩き、
「そこまでだ。潔く負けを認めろ、ショウ」
「で、でも先生!」
「少なくとも、クリスはそうであったぞ」
「――ッ……」
ジョセフ氏が鋭い眼差しで告げると、ショウは悔しそうに黙ってしまう。
おお……やっぱジョセフ氏はおっかないのぉ。
「これで魔箒の訓練は終了する。解散」
「ちっ……テメエ覚えておけよ。このままじゃ終わらせねーからな」
生徒達が教室に戻っていく中、ショウがわしに向かって捨て台詞を吐き捨てる。取り巻き達を連れて去っていくショウに、わしはべ~と舌を出した。
可愛い女の子に付きまとわれるのは嬉しいが、野郎の相手をするのは勘弁じゃ。
「やるじゃんアル、流石あーしが認めただけはあるね」
「えっ!?」
腕に柔らかい感触が当たっていると思ったら、キララに腕を捕まえられていた。
うひゃ~~~~!?
お、おっぱいが……おっぱいが当たっとるんじゃけども~~~~!?
な、なんて破壊力なんじゃ! おっぱいってこんなに柔らかいもんなんか!?
ふぁ~幸せじゃ~。わし、もういつ死んでもええかもしれん。
あっかん、頭に血が上ってきた……また鼻血出そう。
「キララ~行くよ~」
「うーん今行くー。じゃあアル、また話そうね。バイバ~イ!」
「ば、ばいば~い……」
わしの腕から離れていくステラに、鼻の下を伸ばしながら手を振る。
うむ。ギャルって……ええのぉ。
◇◆◇
「へぇ、あのバーバリアンと勝負して勝ったんだ。凄いじゃないか」
「まぁな。って、リアムはあいつのこと知ってるのか?」
「うん、バジリスクとは一度合同授業をやったからね。まぁ、そうでなくても彼は目立つから、ボクだけじゃなくて皆知っているんじゃないかな~」
「そうなんだ……(多分悪い意味だろうけど)」
その日の夜。
わしは男子寮の自室で、ルームメイトのリアムと談笑していた。
リアムは大らかな性格で、話していてとても楽しい。馬が合うというか、結構気が合うんじゃよな。
わしが今まで会ってきた者達の中でも、群を抜いて良い人間なのは間違いないじゃろう。
余りにも美男子なので、対面で話していると自信を失われるのがちょいとアレじゃが……。
彼とはよく話していて、その日にあった事を報告し合ったりと他愛ないの話や、魔法について談義したりしておる。リアムは頭も良く優秀で、魔法についても勤勉なんじゃよ。
未来ある若き魔法使いと魔法の話ができて、わしは幸せを感じるんじゃ。それと同時に後悔もある。
あ~、あの時一人で研究なんてしてないで、もっと他の魔法使いと色んなことを沢山話しておればよかったな~とな。
でもあの時できなかった青春を、何の運命か知らんが今できていて、わしは今すっごく楽しいんじゃ。
リアムには感謝しなければならんの。わしが楽しくしておれるのも、優しくて気のいい彼のお蔭じゃ。
これからも良きルームメイトであってほしいの。いや、ズッ友ってやつじゃな。
ただ、未だに一緒に風呂に行ってくれないのには納得いかんがの。
「ボクも早くアルと合同授業したいな」
「ユニコーンとはまだだもんな。そういえば、そっちのクラスはどんな奴等がいるんだ?」
フェニックスとバジリスクの生徒は知っておるが、ユニコーンの生徒はリアムしか知らん。気になって聞いてみると、彼はぽりぽりと気まずそうに頬を掻いて、
「アルのクラスやバジリスクと比べれば普通だと思うよ。少し変わった子もいるけどね……」
「へぇ、リアムのクラスとも一緒に授業したいな」
「合同授業じゃないけど、今週末に特別試験があるから、そこでは会えるね」
「特別試験?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げていると、リアムは驚いて、
「えっ? 聞いてないの?」
と聞いてくるから、
「うん、聞いてない」
と、わしは答えたのじゃった。