大賢者、ギャルに会う
「おい見ろよ。フェニックスクラスの奴等、パッとしなそうなのばっかだぜ」
「ぷくく、見てあれ、ダッっさいわよね~」
「バジリスククラスって柄悪いよな」
「うわ~、スカート短か……はしたないわね、パンツ見せたいのかしら」
(雰囲気悪いのぉ~)
今日は魔法訓練場で飛行訓練の授業をするんじゃが、バジリスククラスと合同で授業を行うらしい。
それ自体は別に問題ないんじゃが、バジリスクの生徒がフェニックスの生徒を馬鹿にしている様子なんじゃよな。何故だかは知らんが。
(とゆ~か、バジリスクの生徒柄悪くない?)
バジリスクの生徒は、制服を着崩しておったり髪型が派手だったりと、著しく風紀が乱れておった。漫画で例えるなら、ヤンキーとかチャラ男といった感じじゃの。
(あ、あれはまさか!? ギャルというやつか!?)
バジリスクの女子を見たわしは、目を見開いて昂ってしまう。
ほとんどの生徒が化粧をしておったり、髪がクルクルしておったり、アクセサリー(多分魔法的なもの)を着けておったりと、かなり派手な格好をしておる。
さらに言えば、胸元を大きく開けておったり、パンツが見えてしまいそうなほどスカートが短かった。
けしからん! 全くもってけしからんぞい!
なんであんなけしからん格好をしておるんじゃ! いいぞもっとやれ!
(しっかし、現実でギャルを目にすることができるとはのぉ……長生きしてみるもんじゃ)
ギャル。それは見た目が派手なおバカで、常時テンションが高く「マジ卍~!(もう死語)」とか「テンション爆上げっしょ!(もう死語)」といった謎言語で会話する若い女性のことをいうらしい。
ギャルは恋愛漫画によう出てくるが、大体は主人公(女性)をいじめたり恋愛の邪魔をしてきたりと敵役で出ておる。
しかし、中には主人公(男性)に恋するギャルの恋愛漫画もあったりするんじゃ。わしが見つけた漫画には、“オタクに優しいギャル”みたいな話が結構あったの。
数あるギャル物の中でも、わしは『早乙女さんはイジりたがり』という漫画が大好きで、ヒロインの早乙女心亜ちゃんに恋してしまったんじゃ。
いつもは主人公のことをえっちぃ感じでイジってくる心亜ちゃん。しかし押しに弱くて、いざ主人公が反撃すると、「あ~もうちゅき!」と乙女な所を見せるんじゃよ。
それがもう可愛くて可愛くて、見てるこっちがキュンキュンしてしまうんじゃ。
わしもギャルと一度だけでいいから会ってみたいと思っとったが、まさかその望みが叶うなんての。
あっかん、マジ卍って感じでテンション爆上げしてまう!
「おいそこの陰キャ、エロい目でジロジロ見てくんじゃねーよ」
「あ、すみません」
ふぇ~~、ギャル恐いよぉ~~~。
(あれ、ちょいと待てよ。あの子、心亜ちゃんに似てるくない?)
睨みつけながら注意してきたギャルは、わしが大好きな心亜ちゃんによく似ておった。
まさかギャルだけではなく、生心亜ちゃんにまで会えるとは!
やっべ、ちゅきになりそう。
いや~いかんいかん! わしには既にステラがおるんじゃ! 浮気はダメなんじゃ!
けど、名前ぐらいなら聞いてもええかのぉ。
「はっ! フェニックスの奴等と授業なんてやってらんねぇな」
「こっちこそ、お前等となんて願い下げだっての!」
フェニックスクラスの生徒とバジリスククラスの生徒が睨み合い、険悪なムードが漂っておる。
ろくに話したこともないバジリスクの生徒と、どうしてここまで仲が悪いのか気になったわしは、情報通のレオンに尋ねてみた。
「なぁレオン、どうしてフェニックスとバジリスクは仲が悪いんだ?」
「なんだよアル、そんなことも知らねぇのか?」
「知らない」
「はぁ、しょうがねぇな。バジリスクに入る奴は、試験で優秀な成績を収めた生徒や、家柄が良い生徒が入るクラスなんだよ」
「へぇ……」
“あれ”で?
あんな柄が悪くてアホそうな者達が優秀なんか。そりゃ驚きじゃ。
「バジリスクは自分達より劣る他の生徒を見下すし、俺らはバジリスクが鼻につくっていうか毛嫌いしているんだ。実際、食堂で飯食ってる時や廊下ですれ違う時とかも、あいつ等は横柄な態度で接してくるしよ。騒ぎにはなってないが揉め事もあったそうだぜ」
「へぇ……」
全く知らんかった。
わしが知らない所でいざこざがあったんじゃな。そうなると、バジリスクとフェニックスの仲が悪いというのも頷けるの。
訳を聞いて感心していると、レオンは「それによ」と続けて、
「昔っからフェニックスとバジリスクはそりが合わないっつーか、犬猿の仲なんだよ。それが今の世代にも引き継がれているのもあるだろうな」
「へぇ」
そうだったんかぁ。
わしの頃はどうじゃったかなぁ。
揉め事というか、毎日のように色んなところで魔法が飛び交う事はしょっちゅうあったが、魔法の研究であーじゃないこーじゃないと互いに意見を押し通す為のもので、成績の優劣だとか家柄だとかの確執はなかったと思うんじゃがなぁ。
時代が変われば風習も変わるもんなんかのぉ。
「おいクリス、フェニックスはどうだよ、才能の無い奴等と一緒に居て楽しいか?」
「あまり吠えるな、耳が腐るだろ」
「ちっ、相変わらずいけ好かねぇ奴だな。どうしてお前がフェニックスに入れられたか分かるか? お前がブラッドリー家の落ちこぼれだからだよ。優秀なお兄様とは違ってなぁ、はっはっは!」
バジリスクの男子が馬鹿にした態度でクリスに突っかかる。
クリスとはどうやら知り合いらしいが……なんじゃあいつ、態度といい話し方といい、ムカつくガキじゃのぉ。
「なぁレオン、あいつは誰だ?」
「あ~、あいつはショウ・バーバリアンだよ。ブラッドリー家と同じで、優秀な魔法使いの家柄なんだ。そんでブラッドリー家とバーバリアン家は互いに意識し合うライバルのような関係でな、ショウも同年代のクリスを敵視してるっつー訳だ」
「なるほどな~」
だからクリスに絡んでおるのか。
そういう柵を学校に持ってくるのは良くないと思うがのぉ。
漫画の展開にも貴族だ貴族じゃないといったしょーもないキャラがおったし、ショウみたいな人間はどこの時代にもおるんじゃの。
見栄を張るようなくだらん事よりも魔法の研鑽を積んだ方が自分の為になると思うんじゃがの。
ショウに馬鹿にされたクリスは、はぁと小さなため息を吐き毅然とした態度で口を開いた。
「これからも貴様に絡まれ続けるのは面倒だから、一度だけ言ってやる。僕はブラッドリー家や兄様のことなんて心底どうでもいい。僕は僕自身の力で魔法を極める、貴様のように家の力に頼ったりはしない」
「――ッ!?」
「それともう一つ。貴様はフェニックスを見下しているようだが、僕はこのクラスになれて光栄に思っている。僕が尊敬してやまない、偉大なる大賢者アルバート・ウェザリオ様と同じ場所で魔法を学べるんだからな」
(惚れてまうやろーーーー!!)
あっかん、つい心の中で叫び倒してしもうた。
それにしてもクリス、お主そこまでわしの事を尊敬してくれていたんか……っ!!
なんて可愛い奴なんじゃ。イケメンなのがムカついておったが、お主のことちゅきになったぞい。
「いいぞクリス~もっと言ってやれ~」
「そうだそうだ!」
クリスに感化され、フェニックスの生徒が盛り上げる。まぁ、囃し立てのはわしの隣にいるレオンなんじゃがな。
敵視しているクリスから眼中にない宣言されたショウは、ギリリと歯を噛み締めて、
「落ちこぼれの癖に言ってくれるじゃねぇか!! なんなら決闘で分からせてやろうか!!」
「望むところだ」
「何を騒いでいる」
「「…………」」
鶴の一声とはこのことじゃろう。
突然現れたジョセフ氏の発言に、騒々しかった空気が一瞬にして静まり返った。ここにいる皆が口を閉じ、目を合わせないように視線を彷徨わせている。
どんだけ生徒に恐がられておるんじゃ、ジョセフ氏は。
「セゲール先生、いったい何を騒いでいたのですか?」
「いや~それがですね~」
生徒は口を割らないと判断したジョセフ氏は、眼鏡をかけた男性に説明を求める。
えっ? あの人先生だったんか?
てっきりバジリスクの生徒だと思っとったんじゃが。存在感の欠片もないのぉ。
「ジョ、ジョセフ先生! お聞きしてもいいですか!?」
「なんだね」
「ジョセフ先生はこれまでバジリスクの担任をしていらしたんですよね!? なのに何故、今年からフェニックスの担任なのでしょうか!?」
「そうですよ! なんで俺達が新任の先生に教えられなきゃならないんですか。俺達はジョセフ先生に授業をして頂きたいです!」
「今からでもセゲール先生と変われませんか!」
バジリスクの生徒達から詰め寄られるジョセフ氏。
お~お~、ジョセフ氏は凄い人気じゃのぉ。
それに引き換え、あのナヨっとしているセゲール氏とやらは生徒から嫌われておるの。ちょいと可哀想じゃ。
生徒達からの申し出に、ジョセフ氏は表情を崩さず淡々とした声音で口を開く。
「我がフェニックスの担任になったのは学校が決めたことだ。我に言ってもどうにもならん」
「そんなぁ……」
「それに、セゲール先生も優秀な魔法使いである。先生から学ぶ事も多いだろう。セゲール先生」
「は、はい」
「初めての教師は大変でしょうが、生徒に舐められてはこの先やっていけませんぞ。もっとしっかりしていただきたい」
「はい……すいません」
ジョセフ氏に叱られ、しゅんと落ち込むセゲール氏。
なんと、彼は新任の教師じゃったんか。そりゃ~ナヨっているのも頷けるの。
「噂で聞いたんだけどよ、本当はセゲール先生がフェニックスの担任だったらしいぜ。セゲール先生も可哀想だよな。初めての担任がバジリスクなんてよ」
「へぇ」
レオンはどっからその噂を聞きつけてくるんじゃろ。
「無駄話はお終いだ。授業を始める」
色々あったが、ジョセフ氏の一言でようやく授業が開始されるのじゃった。
今のギャル用語がわからない…