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大賢者、驚く

 


「みなさんおはようございま~す。ワタシは魔法薬学を教えているマリアンヌで~す、これからよろしくね~。あっ、因みに永遠の十八歳で~す! いえ~い!」


((キャラが濃ゆくてどこから突っ込めばいいのかわからない……))


 わし等フェニックスクラスの生徒は、魔法薬学の授業を行うために魔法薬学庭園に訪れていた。


 庭園の教室はいつも使っているものとは違い、教室の周りには色とりどりの花や草が飾られ、調薬に使うフラスコなどの道具が置いてある。


 いつもと違う風景の教室に生徒はワクワクドキドキと興奮しておったが、魔法薬学を教えてくれる先生の自己紹介に度肝を抜かれてしまう。


(マリアンヌって……あのバーさん、ま~だここの学校に居ったんか!?)


 マリアンヌ氏を目にして腰が抜けそうなほど驚いてしまう。

 何故かというと、あのバーさんはわしがこの学校の生徒だった時から居た先生だったからじゃ。


 あれからもう四十年以上も時が経っておる。なのに、マリアンヌ氏の外見はあの頃と全く変わっとらんかった。


 その理由とは――、


「はい、マリアンヌ先生はエルフなんですか~?」


「そうよ~。ワタシは人間ではなく珍しい種族のエルフで~す」


「「おお~!」」


「ワタシ、エルフって初めて見た」


「おとぎ話の中だけの存在しか知らなかったけど、本当にいるんだな……」


 彼女が人間ではなく、エルフという亜人だからじゃ。

 そもそも亜人ってなに? というのを説明すると、人間と他の種族が結ばれ生まれてきた混血を亜人と呼んでおる。


 人間と竜は竜人、人間と狼は獣人、といった感じじゃな。


 人間以外の他種族同士での混血も亜人と呼ばれておるの。中には亜種と呼ばれることもあるが。


 え? 人間と竜がどうやって子を宿すかって?

 やり方は様々じゃが、人間の身体に擬態して普通にエッチしたり、ちょいと生々しいが精子を擦りつけたり、精子の代わりに血を飲ましたりしていたらしいぞい。


 といってもそれは遥か古代の話で、今は人間と亜人が普通にエッチしており、純粋な他種族と子を宿すことははほぼないの。


 脱線した話を戻すが、エルフは精霊と人間とのハーフと云われておる。


 エルフは一見人間と変わらない外見じゃが、人間よりも耳が長いことが特徴じゃな。そんでめちゃんこ美人で、人間よりもかなり長生きする。


 能力的なものでいえば、人間よりも保有する魔力量が遥かに多く、精霊と心を通わせることができるといった感じじゃの。

 精霊については、また機会があったら詳しく説明しようかの。


 エルフは希少種で、昔よりも数が少なくなっており滅多にお目にかかれん。

 子を宿しにくいとか、寿命の長さが違う他種族との悲恋が嫌だからといった理由のせいともいわれておるの。


 そんでこの世界のエルフは、わしが持っている古代遺物アーティファクトのファンタジー系漫画に出てくるエルフとほぼ同じ設定なんじゃ。初めて漫画でエルフを見た時はマジでビックリしたわい。


 古代人すげ~! って興奮したの。


 マリアンヌ氏の外見は、三十代ぐらいの美女。

 新緑の長髪にウエーブがかかっており、細目でおっとりした感じの顔立ちじゃ。

 わしが学生の頃から、彼女の外見が全く変わっていないのもエルフだからである。


 しっかし四十年以上も経っておるんじゃから、少しぐらい老けていてもええんじゃが……。

 あと、まだこの学校の先生じゃった事にも驚いたわい。


(変わっとらんの~、あの先生は……)


 外見もそうじゃが、意味わからんノリも当時のままじゃ。

 もしかしてあの寒いノリ、今までずっと続けておるんかの? 精神メンタルが強いというか、ドン引きなんじゃが。


「はい先生~、質問いいですか~?」


「はい、そこの金髪の子」


「先生の本当の年齢って幾つなんですか~?」


(あっかん……)


 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 手を上げたレオンが好奇心で問いかけた刹那、マリアンヌ氏の身体から重厚な魔力が迸る。

 ガタガタと机が揺れ、草花や調薬道具が物置から落ちて割れてゆく。


 生徒達が恐怖に顔を青ざめさせる中、マリアンヌ氏は閉じている目を薄っすらと開眼し、人を殺しそうな恐い目つきでレオンを睨みつけた。


「おいこらクソガキ、ワタシは十八歳って言ってるだろぉがよ。ぶっ殺されてぇのか? そんなに死にたいんか? あ? ふざけた事抜かすその口を縫い付けて森の中に吊るしてやろ~か」


((ひぇぇえええええええええええええ!!!))


「す、すいませんでした!! マリアンヌ先生は十八歳です! 美しいです! はい!」


 レオンが光の速さで土下座して謝ると、マリアンヌ氏は目を閉じて魔力の重圧を解除する。

 そんで何事もなかったかのように笑顔を浮かべて、


「やだも~美しいなんてお世辞言わなくていいのよ~照れちゃうわ~」


((こ、恐ぇええええええええええ……))


 ふぅ、なんとか収まったか。レオンはラッキーじゃったの、手を出されなくて。


 あのバーさんは見た目通りおっとした性格で生徒にも優しいが、年齢と貧乳のことについて言うと人が変わったかのようにブチ切れるんじゃ。


 学生の頃、わしの同期が彼女に「先生って美人だけど、年齢詐欺だし貧乳だよな!」とふざけて言ったら、三日三晩身体が痺れて痒くなる薬を飲まされた挙句、森の中の木に吊るされてしまったんじゃよ。


 その後同期はトラウマになり、マリアンヌ氏の授業を受ける度に行きたくないと泣いておったな。まぁ、記憶消去の薬を飲まされて元通りになったんじゃが。


 あ~はなるまいと、わしと同期達は心に固く誓ったんじゃ。

 マリアンヌ氏に対して、年齢と貧乳に関しては絶対に口にしてはいけないという誓いをの。


 えっ、体罰にしてもやり過ぎだって?

 昔はそんなん当たり前の時代じゃったよ。流石にマリアンヌ氏の体罰は他の先生と比べても度を過ぎておったがの。


 そんな感じで、マリアンヌ氏に対して『年齢』と『貧乳』のワードは禁句タブーなんじゃ。

 今回はレオンが虎の尾を踏んでしまったが、手を出されないだけマシじゃったの。


「は~い、皆さん改めてよろしくね~。じゃあ、気を取り直して魔法薬学についてお勉強していきましょうか~」


 マリアンヌ氏は手をパンッと拍手し、授業に取り掛かる。


「今日はすっごく簡単な魔法薬を作ろうと思うんだけど、その前に皆は魔法薬のことについてどれくらい知っているのか聞かせてもらおうかな~。じゃ~そこのパッとしない顔の生徒」


 彼女はびしっとわしを指名してくる。

 おいババア、パッとしないって失礼じゃろ。わしは十分イケメンじゃ。


 仕方ない、指されたからには答えるかの。わしは立ち上がり、魔法薬について話す。


「魔法薬とは、薬の材料と魔法を調合して作る薬のことです」


「正解! この世界には沢山の病気や毒があるけど、普通の薬じゃ治らないものがあるのよ。魔法生物の中には、毒を吐いたりするものや触ったら痺れる草があったりするの。それを治すのに必要なのが、魔法と材料を調合して作る魔法薬なの」


 漫画で例えると、ポーションやマナポーション、状態異常を治す薬といった感じじゃの。


「それじゃあ早速簡単なお薬を作ってみましょうか。最初にワタシがやり方を見せるから、よ~く見ていてね」


 そう言うマリアンヌ氏は、机の上に材料を用意して調合を行っていく。


「まずはこのネムネム草とゲンキ草を細かく千切って、擦り潰すていきます。少しずつお湯を入れながら混ぜていき、ざるでしながらガラス容器に移し替えていきます」


 テキパキと淀みない手つきで調合していくと、細いガラス容器に緑色の液体が入っておる。

 ここまでは一般的な薬の調合と変わらんが、魔法薬はここからが本題じゃ。


「さぁ、容器に入れた液体これに魔法をかけていくわよ~。睡眠魔法・スリープ」


 睡眠魔法・スリープは、生物を眠らせる第二階位の魔法じゃな。

 マリアンヌ氏が液体にスリープをかけると、液体の色が濁った緑から透き通った青緑に変色していく。


「はい、これで睡眠薬の完成~!」


「おお……」


「すげぇ……」


「この睡眠薬には、熟睡と疲労回復の効果があるのよ。だからといって乱用はダメよ、中毒になっちゃうからね。さぁ、みんなも作ってみましょう」


 手順を教えてもらった生徒達は、道具を用意して早速調合に取り掛かる。


 わしもやってみるが、簡単に作り終えてしまった。

 まぁ、今回の調合は超簡単なもんじゃからの。お店で売られているようなものは、もっと調合がシビアで、魔法の加減も難しいものとなっておる。


「あら~、もうできたの?」


「あっはい」


 一早く終わってしまったので他の生徒でも見物していようかと思っとったら、マリアンヌ氏に声をかけられる。

 彼女はわしが作った睡眠薬を確認すると、


「うん、完璧な配合ね。アナタ、顔はパッとしないけど魔法薬の才能がありそうだわ」


 パッとしないは一言余計じゃよババア。

 それにわし、魔法薬学にはあまり興味が無いんじゃよな。大して面白くもないし。


「あれ~、あなたの顔どこかで見た覚えがあるんだけど~」


(げっ!?)


 マリアンヌ氏がジロジロとわしの顔を見ては首を傾げる。

 そういえばこのバーさんは、若い頃のわしの顔を知ってるんじゃった。マズい……バレんように誤魔化さんと!


「き、気のせいじゃないですか!? ほら、俺ってどこにでも居そうなパッとしない顔だし、へへ……」


「う~ん、そうねぇ。きっと気のせいね。それじゃあ、今日のところは他の生徒を手伝ってあげてちょうだい」


「はい」


 ふぅ、バレずに済んだか。

 安堵するわしは頷くと、席を離れて他の生徒の所に向かう。その生徒とは勿論――、


「調子はどう? 上手くいってる? なにか手伝おうか?」


「……」


 わしが一目惚れしたステラじゃ。

 この際に手取足取り教えて少しでも仲良くなろうかと企んだったのじゃが、彼女は鋭い目つきで睨んでくる。ふぇ~~恐いよぉ~~。


「もうできたの?」


「う、うん。マリアンヌ先生から他の生徒を手伝ってと言われたから、ステラはどうかなって」


「あっそ。私はいいから、他にいったら」


「あ、はい」


 わし、撃沈!


 うぅ……またフられてしもうた。何がいけなかったんじゃろ。恋愛漫画『恋は夕焼け空』に出てくる主人公をイメージして声をかけたんじゃが、失敗してしもうた。


 恋愛って難しいのぉ。漫画のようには上手くいかんわい。

 でも、わしは諦めんぞ! これからもっともっとアピールしてやるわい!


 ――ボンッ!!


「うぎゃ!?」


 突然、他の席から爆発音と悲鳴が聞こえてくる。気になってそちらを窺うと、レオンが気絶しておった。


「あらあら、魔力込め過ぎたみたいね。それに調合も雑だわ。いい加減に調合すると彼のように失敗してしまうから、皆も気をつけてね」


「「は、は~い……」」


 レオンはバカというか面白いというか、一緒に居て飽きないのぉ。


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