大賢者、授業を受ける
わし等は早速、魔法の座学を受けておった。
「そもそも魔法とは何か。クリス、答えてみろ」
「はい」
ジョセフ氏が指定すると、クリスはしゃきっと立ち上がって答える。
「魔法は、自分の魔力を媒体にして発現する超常現象です。それぞれの魔法には陣式が設定されおり、魔法陣を構築することで任意の魔法を発動できます」
「よろしい、模範的な回答だ。座ってよし」
「ありがとうございます」
ジョセフ氏から褒められると、クリスは満更でもなさそうな顔を浮かべて着席する。
今クリスが言ったように、魔法を使う時は基本的に魔法陣を構築せねばならん。
順番で言うと、魔法陣を構築する→魔力を魔法陣に注ぐ→魔法が発動するといった感じじゃの。
因みに何故一々「第〇階位魔法・○○」と口に出しているかというと、言葉にする事で魔法陣の構築がイメージし易くなるからじゃ。
なので、別に言葉にせんでも魔法自体は発動できるぞい。
魔法はそれぞれ陣式が異なるんじゃが、じゃあそもそも誰が陣式を作ったのかというと、遥か昔の魔法使い達なんじゃ。
火を出す魔法も、物を浮かせる魔法も、全て先人達がゼロから作り出したもの。
彼等が流した血と汗と涙による努力と研鑽のお蔭で、わし等のような現代の魔法使いは簡単に魔法を使うことができるのじゃ。
ゼロから陣式を作るのはそら~もう大変なんじゃよ。
わしも結構な数の新しい魔法を発明したが、一つ完成させるのに数年かかることもあった。
挫折や苦労はあるが、完成したら嬉しいし、誇らしくなるんじゃよなぁ。
「では次。魔法はそれぞれ魔力を込める総量や陣式の難易度によって階級が別れている。階級は全部で一から十まであるが、その難易度をなんと呼んでいる。レオン、答えろ」
「ぐ~か~……」
((あいつ寝てやがる!?))
ジョセフ氏に言い当てられたレオンだったが、あろうことか眠りこけておった。
マジであいつこの学校に何しに来たんじゃ……。クラスメイト全員ドン引きじゃぞ。
ジョセフ氏は眉間に皺を寄せると、浮遊魔法・フロートで教科書を飛ばし、レオンの頭に思いっきりぶつけた。
「あたー!?」
「我の授業、それも初日で居眠りするなど度胸があるじゃないか、レオン。お前は授業が終わるまでそのまま立っていろ」
「ふぁ~い」
注意されるレオンは、欠伸を噛み締めながら返事をする。
あいつ……ある意味大物じゃな。それにしてもジョセフ氏も厳しい指導じゃの。恐くて厳しいと先生とは本当だったんじゃな。
「やる気のない馬鹿の代わりだ。ステラ、答えよ」
「はい」
レオンの代わりに当たられたステラは、すっと立ち上がって答える。
「第一階位から第三階位魔法が初級。第四と第五が中級。第六と第七が上級。第八と第九が超級。第十が神級に区別されています」
「よろしい、座りたまえ」
「はい」
魔法にはそれぞれ陣式の難易度と注ぐ魔力の総量で階級が分かれておる。
例えば『第一階位魔法・火炎の玉』は、陣式をささっと書いて十の魔力を注げば発動できるんじゃが、『第五階位魔法・火精の戯れ』を発動するには陣式をごちゃごちゃっと書いて百の魔力を注がねばならん。
階級が上がれば上がるほど、魔法を発動するのが難しくなるんじゃ。
「ここにいる者は全員、第三階位までは使えることだろう。中級魔法を使えれば優秀といえるな。卒業試験では上級魔法を一つ使うのが最低条件なので、それは頭に入れておくんだな」
「「はい((はぁ……大変だな))」」
「これは余談だが、超級魔法を使える魔法使いはこの国でも極僅かだ。賢者と呼ばれる五人と他の数名しか確認されていない。それほど上級と超級では難易度の差が桁違いである。神級ともなれば、かの大賢者アルバート・ウェザリオしか使えないと言われているな」
「「おお~」」
「流石大賢者様だな」
「憧れるよねぇ……」
えっ、そうなん? 神級ってわししか使えんの?
それは流石に盛り過ぎじゃろ~。確かに神級は難しいが、わし以外にも使える者はおるじゃろうて。
神級魔法だって、元々は先人が開発したもんじゃしの。
「魔法の中には属性が付与されているものもある。アル、分かるか?」
お~、今度はわしか。
どれ、ここはいっちょスムーズに答えてイケてるところをステラにアピールしようかの。
わしは立ち上がり、魔法の属性について回答していく。
「魔法の属性は自然に関するもので、火・水・土・風の四大精霊に準じており、四大属性と言われています。それとは別に、水から派生した氷、火から派生した光、風から派生した雷などがあります」
「よろしい、座れ」
ふふん、どんなもんじゃい。これくらい朝飯前じゃ。
ドヤってみたが、こんくらいの事は魔法使いならば誰もが知ってることじゃな。
因みに属性には優劣の相性がある。
火は風に有利で、水に不利。
風は土に有利で、火に不利。
土は水に有利で、風に不利。
水は火に有利で、土に不利。
必ずしもそうではないが、大体こんな感じじゃの。派生の属性を加えたらもっと細かくなるんじゃが、全部説明するのは面倒なんで使う時があったら説明しようかの。
「座学はここまでにする。次は実技の授業を行う。全員魔法訓練場に来るように」
◇◆◇
わし等は実技の授業のために、魔法訓練場に集合していた。
ジョセフ氏は生徒達を見渡すと、早速授業を開始する。
「まずは基本的な浮遊魔法からだ。浮遊魔法は浮かせる物によって魔力を込める量が異なるが、その違いはなんだ。ユンユ、答えろ」
「ひゃい! ふ、浮遊魔法は浮かせる物の大きさや重さによって異なります」
「よろしい。ではユンユ、そこにある石を浮かせてみろ」
「ひゃ、ひゃい!」
ジョセフ氏が指名すると、ユンユという名前の小柄な女子生徒が一歩前に出る。
めちゃくちゃ緊張しておるの。大丈夫かの~。
「ふ、浮遊魔法・フロート」
心配する中、緊張した様子のユンユは石に向けて手を翳し、魔法を発動させる。
石はカタカタと音を鳴らして、やがてふわりと浮き上がった。
「よし、もういいぞ」
「は、はい」
無事魔法が発動したことで、安堵の息を吐くユンユ。
よしよし、よぉやったぞ! なんか知らんが、孫娘を見守っている気分じゃな。わし、孫どころか子供さえおらんけど。
「浮かせることはできたが、まだまだ安定していないな」
「うぅ……ごめんなさい」
おいこら陰気教師! 頑張ったんじゃから少しは褒めらんかい!
星の彼方まで吹っ飛ばすぞ!
「浮遊魔法は第一階位の簡単な魔法ではあるが、浮かせた物を操って飛ばすことも引き寄せることもできる。扱い方次第では便利で有用な魔法である。よって、君達一年生にはこの一年で完璧にマスターするまで浮遊魔法を磨いてもらうぞ」
「「はい!」」
「訓練用の石は大きいのから重いのまで揃えてある。各自、自分に合ったサイズの石で訓練を行いたまえ。我は少し席を外す、くれぐれも危険な真似はしないように」
そう言って、ジョセフ氏はどこかへ行ってしまった。
先生が居ないからって生徒達はサボることをせず、それぞれ自分にあった大きさの石を浮かせていく。わしもその辺にある石ころを浮かせるんじゃが……。
(う~ん、つまらんの~)
一瞬で飽きてしもうた。今更浮遊魔法の訓練をしたところでって話じゃし。
これはちょっと困ったの。
わしは当時できなかった青春を送りたくて学校に入学したんじゃが、そもそも学校とは魔法を学ぶための場所。女の子とキャッキャウフフする場所ではなかったんじゃ。
とは言っても、学校で学ぶレベルの魔法は全部できるし、すんごく退屈じゃの。
しょうがないから、他の生徒でも見物して暇つぶしをしてようかの。
やはり一番に目が行ってしまうのはステラじゃな。
彼女は人間ほどの大きさの石を完璧に浮かせておった。見た目が良いだけではなく、魔法の技量もそこそこあるんじゃな。
ついでにレオンの方を見てみると、複数の小石でジャグリングをしておった。
な~にやっとんのじゃあいつは。しかし、複数の小石をしっかりと制御できておるし、練度はかなり高いの。少し驚いちゃったぞ。
「凄ぇ! あんな大きな岩を浮かせられるのか!」
「流石クリスだな!」
「ふん、このくらい当然だ」
なにやら生徒達が騒いでいるのでそちらに視線をやると、クリスが大岩を浮かせておった。
口ではスカしているが、クラスメイトに褒められて満更でもない顔を浮かべておる。あ~いうところは可愛いんじゃよな。
あれ、やっぱあいつツンデレじゃね?
「おい愚民、僕に勝ったくせにそんな小石しか浮かばせられないのか?」
わしが見ている事に気が付いたのか、クリスは煽るような言葉を送ってくる。
かっち~ん。
ああ、そういうこと言っちゃう? わし、煽られたらやり返さないと気が済まないタイプなんじゃよ。
今はどうか知らんが、わしの頃の魔法使いは“舐められたら負け”みたいな血の気が多い者ばっかりじゃったんじゃよな。
よ~し、少しだけ本気出しちゃうぞい!
「浮遊魔法・フロート」
――ゴゴゴゴゴゴゴッ。
わしが魔法を発動すると、突然地面が揺れ出す。
すると数秒後、訓練場の周りの地面にビシビシッと亀裂が走った。
「きゃぁあ!」
「じ、地震か!?」
「おい愚民、いったい何をした!?」
恐い顔で問うてくるクリスに、わしはにやりと笑いながらこう答える。
「何をしたって……浮かせたんだよ」
――地面をな。
揺れが収まった刹那、ふわりと地面が浮かび上がる。
わしらの目線が少しだけ高くなったところで、わしは元の常態に戻してから魔法を解除した。
「な、なんだったんだ……今の揺れ」
「ちょっと浮かんだような……気のせいか?」
「なにを騒いでいる」
生徒達が困惑していると、戻ってきたジョセフ氏がおっかない顔で尋ねてくる。生徒達は怪訝そうに、
「えっと、今地震があったんですけど……」
「先生は気付きませんでしたか?」
「なに、地震だと?」
生徒達の話に、ジョセフ氏は眉間の皺を寄せる。
何かを確かめるように地面を観察した後、何故かわしを見てきた。
「ひ、ひゅ~」
罰を受けたくないので完璧な口笛で誤魔化していると、ジョセフ氏は小さいため息を吐いて、
「気にするな。訓練に戻りたまえ」
「わ、わかりました」
ほっ、わしがやったとバレずに済んだの。
それにしても、地面ごと浮かせるのはちとやり過ぎたようじゃな。
昔を思い出して血が騒いでしもうた。反省反省。
「「……」」
そこでわしは気付く。
生徒達が浮遊魔法の訓練を再開する中、三人の生徒が疑わしい眼差しでわしを見ていることに。
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