大賢者、ナンパする
「おはよう」
「おはよ~」
「アル君おはよう」
「おはよう、寝癖凄いことになってるよ」
二回目の学校生活二日目。
教室に入って挨拶すると、クラスメイトから挨拶を返される。
うむ、こういうのも青春っぽくていいのぉ。わしの頃の生徒は本に齧りついており「話しかけてきたら殺す」みたいなオーラを常に纏っておって、挨拶なんか誰もしとらんかったからの。
今の子供は純粋で良い子ばかりじゃ。
「よぉアル、良い夢見れたか?」
「レオンか。おはよう」
後ろから肩を組んで話してくるレオン。ふと思ったんじゃが、お主ちょっとボディタッチ多くない?
陽キャって皆こんな感じなのかの? わしのこと好きとかじゃないよね?
「良い夢を見れたかわからないが、ぐっすり寝れたよ」
「大物は言うことが違うねぇ。初日はほとんどの奴が緊張して眠れないっていうのによ」
「五月蠅いぞ。朝から人の前で騒ぐな」
レオンと話しておったら、近くにいた生徒に怒られてしまう。
わしらに注意をしてきた者は、一番前のど真ん中の席に座っているクリスじゃった。
自分から一番前の席を取るとは、勤勉な奴じゃなぁ。
「すまない」と謝っていると、レオンがわしの耳に口を近づけ小声でこう言ってくる。
「クリスの奴、決闘の後ジョセフ先生に退学届けを出したそうだぜ」
「ほう……それで?」
「ジョセフ先生は受け取らなかったみたいだ。説得されたのか知らねぇけど、ここにいるってことは考えを改めたみたいだな」
なんとまぁ律儀な奴じゃな。
昨日の決闘は無効じゃと言うたのに、自分から自主退学を申し出たのか。中々できる事ではないのぉ。
頑固というかプライドが高いというか。しかし退学せずに済んでよかったの、ナイスじゃジョセフ氏。
それとレオンは何でそんなことまで知っておるんじゃ?
わし、久々に恐怖を覚えたんじゃが。こいつに隠し事とかできんくない?
「こそこそ話してないで直接言ったらどうだ。言っておくが、決闘は負けたが僕は貴様を認めていないからな」
クリスはわしをひと睨みし、「ふん」とそっぽを向く。
なんかこいつ、ツンデレのような性格で可愛いの。いつデレてくれるんじゃろか。
さて、わしはどの席に座ろうかのぉ。
そう思って教室を見渡すと、一番後ろの端のほうに一人だけぽつんと女子が座っており、周りには誰も座っておらんかった。
明らかにハブられておるの。確かあの女子は、呪い子と言われておった子じゃったよな。
(待てよ? この展開漫画で見た覚えあるぞい!)。
ピキーン! と、わしの青春センサーが反応する。
一人の女子が避けられている。それで主人公が取った行動は確か……。
とある漫画を思い出したわしは、その主人公が行ったことを模範する。
「ここの席、いいか?」
わしは女子の隣に座り、軽い印象で問いかける。
どうじゃ! わしの愛読しておる恋愛漫画、『黒オオカミ君と白ウサギちゃん』の第一話に出てくる展開と全く同じようにしてやったぞい!
うわ~、実際にやってみるとこっ恥ずかしいぃ~~!
でも青春っぽくてなんか楽しい~~! テンション上がるぅ~~!
さて、羞恥心を犠牲にしたわしの渾身の演技はどうじゃ?
漫画の場合じゃと、ヒロインが「ふぇ!?」と驚いて顔を赤く染めるんじゃが……。
「……」
「……(えっ、反応なし?)」
女子は全くの無反応。顔を赤く染めるどころか虫を見る目つきで一瞥しただけじゃった。
あれれ~おっかしいのぉ。どうして漫画のようにいかないんじゃ?
あっ、そうか……わしがイケメンじゃないからか……。そういえば恋愛漫画の主人公って、学年で一番のイケメン設定じゃったな。通りで上手くいかない訳じゃ。
……自分で言ってて悲しくなるわい。
「アル、ちょっとこい」
「えっなに?」
自分がイケメンでないことに気付いて悲しんでいると、突然レオンに腕を引っ張られてしまう。
離れた場所まで連れて行かれると、彼は険しい表情を浮かべてこう問いかけてきた。
「今のあれ、どういうつもりなんだよ」
「どうって何が?」
「ステラの隣に座ったことだよ。あいつは呪い子なんだぜ」
「だから?」
「だからって……呪い子だから誰も近寄らなかったのに、なんだって自分から隣に座ろうなんて真似すんだって言ってんだよ。このままじゃアルまでハブられちまうぞ」
あ~そういうことか。レオンは本気でわしを心配してくれているんじゃな。
こいつ、やっぱり良い奴じゃの。
「俺を心配してくれるのは嬉しいぞ。でもな、俺がそうしたいと思ったから隣に座ったんだ。例えそれでクラスメイトからハブられようとも、一向に構わない」
「お前……」
「それに、俺があの子といてもお前なら気にせず接してくれるだろ?」
「アル……」
わしは笑顔を浮かべながら、レオンの肩に手を乗せる。
確かに他の生徒達は女子に対して脅えており、できるだけ関わろうとはしない。別にそれが悪いという訳じゃない。
呪い子とは、それだけ危険な存在だと認知されておるからじゃ。
しかし、あの子が呪い子であると学校側が知っていないということはないだろう。
学校が入学を許しているということは、何か対策をしているかそれほど危険な呪いではないという事じゃ。
だからわしは、あの子と関わることに躊躇はしない。
それに、もしわしがハブられてもレオンだけは変わらず接してくれると信じておる。
そう確信して告げると、レオンは頭をガシガシ掻いて、大きくため息を吐いた。
「ははっ……やっぱお前も魔法使いだわ」
「おう、ありがとう」
「ばっか、誉め言葉じゃねぇよ。まぁでも、お前からそう言われるとは思ってなかったぜ。安心しろ、もしハブられても俺はお前の味方だ」
「そう言ってくれると思ってた」
「なんで俺に対する信頼度が高いんだよ……。にしても、俺はてっきりステラが可愛いからちょっかいかけてるのかと思ってたぜ」
ぎく!!
「え、え~なんの事かな~」
「わっかり易い奴だな~お前……」
ジト目で見てくるレオン。
だってしょうがないじゃん! 本当のことだもん!
ステラという名の呪い子は、つい目を奪われてしまうぐらい容姿が整っておる。
腰まで伸びる銀色の長髪は、キラキラと宝石のように輝いておる。真紅の瞳の目は力強く、可愛いよりというより綺麗な顔立ち。そんでスタイルも抜群に良い。
簡単に言うとめちゃんこ可愛い美少女なんじゃ。
それに彼女は、わしが大好きなロボット漫画『銀翼のガルバリオン』に出てくるヒロインの綾辻奏たんに凄く似ておる。
奏たんはわしが大好きな推しヒロインで、「奏たんはわしのヨメ!」とよく叫んでおったもんじゃ。
わしが彼女に関わろうとしたのも、是非とも奏たん似の女子と仲良くなりたいという下心によるもの。
ぶっちゃけ、入学式の日に声をかけた理由もそれじゃしな。冷たく返された時は泣きそうになったが……。
それ以外にも呪いとか気になる点も少々あるが、ただ純粋にステラと仲良くしたいだけなんじゃよ。
「でもよ、お前見る目あるぜ」
「何が?」
「ステラは一年生の中でも、三本の指に入る可愛さだからな」
「へぇ~」
お主、もしやもう一年生の女子生徒全員をリサーチしたのか?
凄い通り越して恐いっていうか、レオンはいったい何のために魔法学校に来たんじゃろ。超謎なんじゃが。
「けどよ~アル、ステラはやめておいた方がいいぜ。呪い子っていうこともそうだが、性格も知っての通りキツそうだ。彼女には向いてね~よ。あと単純にお前とステラじゃ釣り合わねぇ」
「おい」
「はは、嘘嘘冗談だよ。まっ、アルが面食いな所があるってのは意外だったぜ。無理だとは思うが、応援はしてやるよ」
あははと笑ってわしの肩を叩くレオン。
やっぱりこいつ良い奴じゃの。レオンみたいな気の良い男はわしの人生でいなかったから、新鮮で楽しいわい。
それからわしはレオンに勇気を貰うと、再びステラの隣の席に座りってもう一度アタックする。
「俺はアル、よろしくな」
「気安く話しかけないで」
「……」
ぐすん、漫画の主人公のようにはいかんな。
わし、ちょっと心折れそうかも。