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大賢者、教える

 


決闘開始デュエル


 立会人であるジョセフ氏により、わしとクリスの決闘が始まった。


「第三階位魔法・火炎の槍(フレイムランス)ッ!!」


「おいおいクリスのやつ、初っ端から初級上位の魔法かよ!?」


「容赦ねぇな!」


 開始早々、クリスが先手を打ってくる。

 魔法を発動すると、魔法陣から燃え盛る槍が一直線にわしへと飛来してきた。それに対しわしは、とりあえず魔力障壁を展開して攻撃を防ぐ。


「――っ!?」


「「えっ……?」」


「あいつ今……何をしたんだ?」


「わからないわ……魔法を使って防いだと思うだけど、何を使ったかは……」


(さてはて、どう戦おうかのぉ)


 クリスと決闘するにあたって、わしは始まってから悩んでおった。

 普通に勝利するか、大人げなく完膚なきまでに叩きのめすか。


(後者を選んだら目立っちゃうよな~。うん、そっちは無しにしよう)


 既に色々とやらかして悪目立ちをしてしまっておるが、わしとしてはこれ以上目立つようなことはしとうない。

 あくまでわしは普通の学生として青春を送りたいんじゃ。


 なので今からでも普通の学生を演じたいんじゃが、困ったことに普通がどれほどのもんかわからん。


 今の学生って、どんくらいの魔法を使えるんかの? クリスが使ったのは初級上位の魔法じゃったが、その程度の魔法しか使えんのか? 

 そうであると、ちょっとがっかりなんじゃが。


 ……よし、ここは一先ず様子見じゃ!


「もう終わりか?」


「……今のはただの小手調べだ。調子に乗るなよ愚民が!」


 わしが挑発すると、クリスは露骨に顔を顰めて魔力を高める。

 おっ、さっきよりは強そうな魔法が出てきそうじゃな。


「防げるものなら防いでみろ! 第五階位魔法・火精の戯れ(フレイムダンス)!!」


「マジかよ、あんな強い魔法まで使えんのか!?」


「避けねーと死んじまうぞ!!」


 ほう……やるじゃないか。

 彼が次に使ってきたのは、中級上位の魔法。入学試験の時にわしが使った魔法じゃ。


 フレイムランスの次はフレイムダンスか……どうやらクリスは火属性の魔法を得意とする魔法使いのようじゃな。


「第二階位魔法・水の壁(アクアウォール)


 わしは眼前に水の壁を発現して、“真っすぐ”に襲い掛かってくる火炎の閃光を防御する。

 二つの魔法は衝突すると、相殺し蒸発した。


「ば、馬鹿な……僕の魔法が防がれただと!?」


「嘘だろ……初級中位の魔法で中級上位の魔法を防いだのかよ」


「信じられねぇ……あいつ何者なんだ?」


 自分の攻撃魔法が防がれて驚愕するクリス。それは観戦している生徒達も同じじゃった。

 はて、生徒達は何をそんなに驚いておるんじゃ?


「大して驚くことはないだろ。水属性は火属性に優位なんだからさ」


「そんな事はわかってる!!」


 あれ、知っておったの? なら何故彼等は驚いておるんじゃ?


「いくら属性的に有利だからって、階級が離れ過ぎてるだろ」


「そうだよね。同じくらいの階級の魔法なら優位の属性に分があるけど、初級と中級じゃ全然違うよ」


 ああ、そういう事か。話を聞いて理解したわい。

 属性に有利不利はあるが、階級の差が大きいと属性の有利は無いに等しい。それは最もなことじゃ。


 わしとした事が、その事をすっかり忘れておったわい。魔法使い同士の戦いを久しくやってなかったから仕方ないかの。

 大賢者とか恥ずかしくて名乗れんな。


 でもな、階級の差など魔法使いの技量でなんとでも覆る。

 結局のところ、弱い魔法だろうが魔法使いの実力次第では強い魔法を凌駕する事は可能なんじゃ。


 どれ、それを少し教えてやろう。


「なぁクリス、お前今の魔法フレイムダンスを完璧に使い熟してないだろ?」


「なっ!?」


「使い熟していれば、俺のアクアウォールに防がれることもなかっただろうぜ。本当のフレイムダンスというのはこういうものだ。第五階位魔法・火精の戯れ(フレイムダンス)


 わしはクリスと同じ魔法を発動する。

 魔法陣から放たれる幾つもの熱線。その軌道は不規則で、四方八方唸りながらクリスに襲い掛かった。


「くそっ!」


「無駄だ」


 クリスはその場から逃げて回避しようとするが、わしがひょいと手を動かすと、火炎は軌道を変えてクリスを追尾する。


「ぐぁああああああ!!」


 わざと直撃させず地面に着弾させるが、衝撃の余波によってクリスが吹っ飛ぶ。

 這いつくばるクリスを見下ろしながら、わしは魔法について説明をしてやった。


「フレイムダンスは火炎の軌道を自分の意思で動かせるのが強みの魔法だ。お前がやったのはただ強い火炎を放つだけの不完全なものなんだよ。身の丈に合っていない魔法を実践で使うほど愚かなことはないぞ」


「ぐっ……くそ」


「それとも、子供のように見せびらせたかったのか?」


 そう問うと、クリスは悔しそうに歯噛みする。


 あれ、もしかして図星だったのかの? それは悪いことをしてしまったな。じゃが魔法使いの端くれとして、誤った魔法の使い方は見過ごせんかった。


「凄ぇ……あのブラッドリー家のクリスを圧倒してやがる」


「しかも、あいつまで中級の魔法を使えるのかよ。マジで何者なんだ」


 あれ、なんか生徒達が騒がしいの。わし、また目立つようなことしちゃった?

 まっ、そんなに気にしなくてええか。クリスも第五階位魔法を使っておったしの。


「もうおしまいか?」


「はぁ……はぁ……負けてたまるか。貴様のような奴に、僕は負けるわけにはいかないんだ!! はぁああああああああああ!!」


 クリスは踏ん張って立ち上がると、体内に残っている魔力を搔き集めるように練り始めた。

 まだやる気みたいじゃな。いいぞ、そうではくてはな。


「第六階位魔法・業火の巨人(ブレイズジャイアント)!!」


「「じょ、上級魔法!?」」


 クリスが魔法を発動すると、火炎の巨人が顕現する。

 ほう、やるじゃないか! まさか上級の魔法を使えるとは思っとらんかったぞ。


 フレイムダンスのようにまだまだ粗削りではあるが、その歳で上級魔法を会得しているのは素晴らしい才能じゃ。


「焼き尽くせ!」


 クリスが指示を下すと、火炎の巨人はわしに向かって猛進してくる。


 よろしい。

 お主の才能に敬意を表し、わしも少しだけ本気を出そう。


 わしは右手を掲げ、魔法を発動する。

 魔法陣から放たれたのは、吹けば飛ぶような小さな火の玉。じゃが火の玉が巨人と衝突すると爆発を起こし、けたたましい轟音が決闘場に響き渡った。


「なんだ、何が起こったんだ!?」


「どっちが勝ったんだ!?」


 生徒達が勝負の行方を気になる中、爆風によって吹き上がった煙が晴れる。

 そこには魔力切れで這い蹲るクリスと、無傷のわしの姿があった。


「クリスの上級魔法が負けたのか……?」


「ってことは……あいつも上級魔法を使ったのかよ。嘘だろ……信じられねぇ」


(残念、外れだ)


 上級魔法ではない。ただの第一階位魔法ファイヤーボールじゃ。

 まぁ、かなり魔力を込めたファイヤーボールじゃったがの。


 わしが使った魔法がなんなのか、残念ながら生徒達はわからなかったようじゃな。

 ジョセフ氏は気付いていると思うが。


 さて、決着はついたの。

 クリスは今の魔法に全魔力を込めたのか、立ち上がることさえできそうにない。


 わしがジョセフ氏に視線をやると、わしの意図を汲み取った彼は静かに口を開いた。


「双方そこまで。この度の決闘の勝者は、アル!」






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