1か月後の夜
「星が、きれいですね」
ルーナが空を見上げて声を漏らす。イリューもルーナの声に導かれるように空を見上げる。
「本当だな」
光のない森から見る夜空は、星の光が落ちてきそうなくらい溢れている。
泉には、星が写し取られている。
二人はあのまま、泉の傍で、夜が更けるまで過ごしていた。
空の色が変わって行くのを、二人より添いながら、ぼんやりと眺めて過ごしていた。
何もない時間。
でも、幸せな時間。
二人は幸せな気分に満たされていた。
星が一つ、空を横切って行く。
「そろそろ、帰りましょう?」
ルーナの言葉に、イリューが頷く。
立ち上がったルーナを、イリューが横にして抱きかかえる。
「イリュー様、歩けます」
拗ねた様子のルーナに、イリューが微笑む。
「夜道は危ないからね」
イリューの目は優しくルーナを見る。
「子供じゃありませんよ?」
「子供じゃないのは、よく知っているよ?」
ふふ、と微笑むイリューに、ルーナの顔が赤らむ。
「今日は、どちらの姿で寝ればいいのかな?」
たずねるイリューに、ルーナがふい、と顔を背ける。
「知りません」
ククク、とイリューが笑う。
こんな些細なやり取りも、幸せで仕方ない。
ふいに、イリューに、また一つ呪いが発動したことが伝わって来た。
これはたぶん、ルーナの叔母だろう。夫を処刑された後に、何か悪いことを考えてしまったらしい。
愚かだ。
大人しく自分の持てる範囲で生きようとすればいいのに。
「イリュー様? どうかされましたか?」
「いや、何も」
イリューは首を横にふる。ルーナには知らせる必要のないことだ。
「いや、何も、ってわけじゃなかったな」
「何ですか?」
「ルーナは、人型のときと、狼の時の私のどちらが好きなのかな、と」
ルーナが首を傾げる。
「どちらのイリュー様も、好きですよ?」
「じゃあ、今日は両方かな」
イリューの艶のある笑顔に、ルーナの顔が真っ赤になる。
「そういうことじゃ、ありません!」
アハハ、とイリューの笑い声が、静かな森に響いた。
完




