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「魔の森? 殺した? どいういうことだ?」
真っ先に反応したのは皇太子だった。
「滅相もございません、皇太子様! この者が変なことを言い出しただけです! ルーナ、よくぞ生きて帰ってきた!」
我に返ったメソフィス伯爵が、ルーナに近寄ろうとすると、美丈夫がその腕をギリッと掴んだ。
「私の大事な番に近寄るな」
「な、何をする!?」
メソフィス伯爵が悲鳴に似た声を出す。
「番?」
だが、皇太子はそう呟いたあと、ハッと表情を変える。そして、跪いた。
皇太子が突然床に膝をついた姿に、人々は息を呑む。
「皆も跪け!」
皇太子の命令に皆は黙って床に膝をついていく。ルーナに抱きついていたヴィアンカもハッとした表情をして膝をつき頭を垂れた。
先程まで騒然としていた会場は、シンと静まり返った。
「申し訳ございません、森の王よ。我が民が森を荒らしてしまったという罪を疑う余地はございません。罪のある者たちを教えてくださいませんでしょうか。王の気が済むのであれば、我が国の法で裁きたいと存じます」
頭を垂れる皇太子に、森の王と呼ばれた美丈夫が、首をかしげる。
「お前たちの国の法でか。……どうするのかを聞いてから決めよう」
「そうしていただけると、幸いです」
「皇太子殿下! ですが私はなにもしておりません!」
メソフィス伯爵が、顔をあげる。だが、殺意のこもった美丈夫の視線と、侮蔑の混じった皇太子の視線に、メソフィス伯爵は口をつぐんで頭を下げた。
「ルーナ、口にしたくないのであれば、私が言うが?」
美丈夫の言葉に、ルーナが首を横にふった。
「この時を待っておりましたので」
ルーナが床に膝をつく人々の頭を、冷たく見据える。
「まず、私の両親を亡き者にしたのは叔父上であるはずのメソフィス伯爵のおぞましい計画によるものでした」
「そんなこと、私はやってはいない!」
顔をあげたメソフィス伯爵を、皇太子が冷たく見やる。
「メソフィス伯爵、次口を開いたときには、命で償うがいい」
絶対零度といえるその口調に、メソフィス伯爵の顔色が一気に白くなる。
呆然としたメソフィス伯爵に、ルーナはにこりと笑いかける。
「私たちの命を軽々しく扱ったあなたでも、自分の命は大切なのね。本当に面白いわ。私の両親には毒を飲ませ、私を魔の森に捨て置いたというのに」
メソフィス伯爵が必死に首を横にふる。それを見て首をふったルーナが、メソフィス伯爵夫人を見る。
「叔母上は、お金に意地汚かったわね。私の財産すらも惜しくて殺そうとするんですものね」
メソフィス伯爵夫人も必死に首を横にふった。