2か月半後
「ごめんなさい。なんだか気分が悪くて」
青ざめたルーナの頭を、イリューが心配そうに撫でる。
「ここのところ、調子が悪いね」
イリューの言葉に、ルーナがそっとお腹を撫でる。
「こどもが、できたかもしれないの」
イリューの顔に笑みが浮かぶ。
「本当に?」
「たぶん……それで、つわりなのかも知れないって……」
イリューがルーナに覆い被さるように抱き締める。
「嬉しい」
その言葉が、じんわりとルーナに染み込んでいく。
「私も」
ふ、とイリューに呪いが発動した感覚があった。
このタイミングで、とは思ったが、嬉しいからいいのか、と思い直す。
ルーナの元婚約者だろう。あの男が一番ルーナを悲しませた元凶だ。
ルーナの信頼を裏切ったのだから。
些細な悪事にでも反応するようにはしていたが、今の今までは身を縮めて暮らしていたのに、何をしでかしたのか。
イリューは、この幸せな気持ちを大事にできない人間の欲深さが悲しかった。
目の前にある幸せに気づけないとは、なんと愚かなことか。
「ルーナ、愛しているよ」
イリューに抱き締められているルーナが微笑む。
「幸せね」
イリューは、心がぎゅっと締め付けられて、涙をこぼした。
ルーナがこれからもずっとずっと幸せだと感じられるようにと、願わずにはいられなかった。
完




