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私の可愛い子犬さん(アイラ視点)

アイラは子供の頃から小さくて可愛いものが好きだった。まだ侯爵家に引き取られる前は、こっそり捨て犬を飼っていたくらいだ。その子犬は賢く、『待て』も『お座り』もよくできた。アイラは子犬の前に餌を置いては『待て』をして、時間が経つにつれて子犬がどんどん切ない表情になるのを眺めるのが大好きだった。


「アイラちゃん、そんなに待たせたら可哀想だよ」


友人の言葉にアイラは花が咲いたような笑顔で返した。


「可哀想なのを見るのが楽しいんだもん!」


アイラは生粋のドSだった。


***


「初めまして、リリーと申します」


突然侯爵家に引き取られることになったアイラは公爵家に着いたその日に、自分の姉と初めて対面した。

栗色の髪に大きなオレンジ色の瞳。一つ年上のはずなのに、アイラよりも小柄でとてもか弱く見えた。


(可愛い!子犬さんみたい!)


「よろしくね、お姉様!」


アイラは一目で新しい姉が気に入ってしまった。

リリーはそのか弱そうな見た目に反してしっかりとした少女だった。服やアクセサリーを取っても、怒りも泣きもしない。最初こそ少し悲しそうな顔をしていたが、数回繰り返すうちに慣れてしまったらしく、表情すら変わらなくなってしまった。


(つまんないの…)


この可愛い姉がどんな顔をして泣くのか見てみたくて、ひたすらちょっかいをかけていたのに、一向に成果が見られないのでアイラは少しイライラしていた。

そんなある日、アイラは姉の部屋で少しくたびれた空色のリボンを見つけた。


(お姉様にはもっと暖かい色の方が似合うわ)

アイラはリボンを手に取り姉に声をかけた。


「お姉様、このリボンとっても可愛い!私欲しいわ」

「それは、ダメよ。とっても大切な人から貰ったものだから」


珍しく姉が嫌がったので、面白くなったアイラはついやり過ぎてしまった。結果的にリリーは何も悪くないのに物置に閉じ込められてしまい、アイラは母に叱られた。


さすがにやり過ぎたと反省したアイラだが、姉にちょっかいをかけるのを辞める気は無かった。


(あの空色のリボン。誰にもらったものなんだろう?)


最初は亡くなったリリーの実母かと思ったが、リリーの幼少期の絵や部屋の内装を見る限り、リリーの実母はピンク色やオレンジ色のものを好んでリリーに贈っていたように思える。

考え事をしながら庭園を歩き回っていると、庭の茂みに隠れるようにして立っている姉を見つけた。


「お姉様?何してるの?」


パッとこちらを振り向いた姉は顔を真っ赤にして「何でもない」と言うと早足で逃げてしまった。

姉が見ていた方向を見ると、姉と同じ歳くらいの庭師見習いらしき少年が立っていた。


「こんにちは」


アイラは少年に声をかける。


「…お嬢様、こんにちは」


少年は軽く頭を下げる。何の変哲もなさそうな少年なので、見ていたのは薔薇の方がと思って薔薇の木を見たが、何の花も咲いていなかった。


「これは薔薇の木でしょう?どうして花が咲いていないの」


今はちょうど薔薇が見頃な時期のはずなのに。


「これは品種改良中なんです。空色の花を咲かせたくて」


そう言って薔薇の枝を見つめる少年の瞳は綺麗な空色をしていた。その姿を見て、アイラはリボンの贈り主が少年だと直感した。

その日からアイラは姉が少年を見つめているのを見計らっては彼に話しかけるようにした。アイラと少年が話した後にリリーに話しかけると、少し拗ねた様子でいつもよりそっけなく返答してくる。アイラがおふざけて少年に抱きついたりすれば、リリーは半泣きでそれでも平静を装って止めに入ってきた。


「ア、アイラ。そんな風に年頃の女の子が男の人にくっついちゃ駄目よ」


リリーは声を震わせながら、アイラと少年を一生懸命引き剥がす。圧倒的に力のないリリーはアイラを引き剥がすにも一苦労で、大型犬に立ち向かう子犬のようだった。


(あー、可愛い。これが見たかったのよ!)


リリーの泣きそうな顔は思った通りとても可愛らしく、アイラはリリーの反応を伺うのが楽しくてしょうがなかった。


「アイラ、リリーの前でやたらとアランにベタベタするのはやめなさい。アランのこと好きなわけじゃないんでしょ?」

「だって、やきもちやいてるお姉様が可愛いんだもの」


母親のマリーに注意されてもケロッと答えるアイラにマリーは頭を抱えた。


しばらく(アイラにとって)楽しく平和な日々が続いた訳だが、リリーが16歳になるとその日常は少し変化した。リリーの婚約者である王太子のアルバートが頻繁に侯爵家にやってくるようになったのである。

どうやら、いい年齢になってきたので本格的に結婚に向けて交流させようという王家の心算らしい。


「やあ、君がリリーの妹か。とても美しい金髪だね」


キラキラの笑顔を浮かべたアルバートと初めて対面したのは、アルバートが侯爵家に来るようになって数回目のことだった。


「わあ、王太子様ですか?お会いできて嬉しいです」


アイラもとびきりの笑顔をアルバートに向ける。

アイラはアルバートとリリーの関係が気になっていた。二人がうまくいってリリーのアランへの恋心が無くなったら、あの楽しい遊びができなくなってしまうからだ。


「良かったら、アイラも一緒にお茶をしましょう。アイラの好きなレモンケーキを殿下が持ってきて下さったの」


(今のところは全く恋愛感情ないみたい)


自分から邪魔者を誘ってしまうリリーを見てアイラはそう思った。アルバートの方もアイラが茶会に参加すると、露骨にアイラにばかり話しかけてくる。

アルバートの態度に思うところのあったアイラは、お茶会や社交パーティでアルバートの情報を集めた。どうやらアルバートは派手な容姿の女性が好みで、数人の令嬢と噂が立っているらしい。リリーが大人しく文句も言わないため、王家は特にそれを問題視してはいなかったようだ。


(お姉様は知ってて文句を言わないんじゃなくて、殿下に全く興味がないから知らないんだろうな)


アイラはやっぱりリリーを泣かせるにはアランが一番なのだと結論付けた。


***


「もう!また私の負けだわ!」


風が心地いい秋晴れの日、アルバートとリリーとアイラはテラスでカードゲームに興じていた。


「アイラは素直で可愛いね。リリーはポーカーフェイスが得意で負けてくれないんだ」


自信満々の笑顔でアイラに話しかけてくるアルバート。リリーにわざと冷たい態度を取る事で、婚約者に対して自分が優位に立とうとしている傲慢さも垣間見える。リリーは全く気にしていないが。


「本当?アル様にそう言ってもらえると嬉しい!」


アイラは大袈裟に喜んでみせながら考える。

(この自信満々の面を歪ませるにはどうしたらいいかしら?自分が下に見ていた女の子にプライドズタズタにされたら泣いたりするかな?)


アルバートは小さくも可愛くもなかったが、その尊大な態度を見ているとへし折ってしまいたくなるのがサドの心というものである。

(もし、アルバート殿下の婚約者がお姉様じゃなくて私になったら…)

リリーはアランと恋仲になれる可能性ができるし、自分は新しい玩具を手に入れられる。


「次は別のゲームにしてみる?」


負けっぱなしのアイラに気を遣ったリリーが優しく尋ねてくる。


「ううん!次こそ勝つわ!」


アイラは可愛らしく見えるように拳を握りしめてそう言った。リリーは「頑張って」と言うとカードを配り始めた。


(まずは、何から始めようかしら…王家の監視の排除?それよりもアルバートの弱みを先に握るべき?)


アイラは口元に薄く笑みを浮かべると、どのカードを切ろうかと思案を始めた。




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