その5(完結)
「ここはその昔、この地に住んでいたお侍さんが町娘と永遠の愛を誓ったところから、恋愛成就の力があるとされています。二人で桟橋に並んでお堂に向かって願いを心の中で言いましょう。その願いが同じなら、叶うかもしれません。ただし、願いの中身をお互いに言ってしまうと、効力はなくなりますよ」
おお……。なんとコメントをするべきか。
ざっくりした伝説にも、女子中学生が考えたような恋愛成就の方法にも、そして看板の隅っこに書かれている素人タッチ丸出しの侍と町娘のイラストにも、突っ込みどころが多すぎてどうしたものか。
立て札を蹴りたい衝動に駆られるのも、一度目じゃないんだろうな、春日井さんの説を信じるなら。もっと言うなら、叩き割りたい気分だ。春日井さんの説を信じるなら、こんなもののせいで俺達は良い感じで振り回されたことになる。
今の状態で、改めて思うにこれが原因ならば脱出するのは簡単なことだと思う。
「やっぱり、今が解決編よね」
あくまでそういうスタンスなんだな。まあいいか、付き合うとしよう。
「みたいだね」
てか、何で今までこうしなかったのか。
「それは、私達が真相に近づいていなかったからよ」
そういうものなのかね。まあ、そういうものということにしておこう。ちなみに、ここで何も願わずに帰るという手もあるけど……。それは駄目なんだろうな。
春日井さんはもう桟橋の先端まで歩いていっている。
確かに、俺も実はそうしたいと思っていた。考えてみれば、もしもこれが原因だとした場合、俺と春日井さんは同じことをお願いし、なおかつ叶うことを願ってお互いに話を聞かなかったということになる。そのときの春日井さんがどんなだったか思い出せないのは口惜しい限りだが、少なくとも思いは通じ合っているというか、そういう風に考えてもいいんじゃないだろうかと思う。
それを確認しておくのも悪くない。
そんなことを思いながら、俺は春日井さんの隣に並んだ。
「じゃあ、お願いが終わったらせーの、で言うことにしようね。何をお願いしたか」
「うん」
俺が頷くと、春日井さんは顔を真っ赤にしながら笑ってくれた。
それにしてもここの神様というやつは……。
「そ、それにしてもあれよね」
春日井さんが話しかけてきたので、俺は速やかに思考を切り替える。
「え?」
「あのね、私達二人のお願いって、一緒だったわけじゃない?」
「ああ、うん」
だから、それを前提に今から話をするね。
春日井さんはそういって、それからひとつ深呼吸をした。
「意地悪か天然か、どっちかよね。ああいうの、曲解って言うんだと思うわ」
俺は激しい同意の念をこめて、二回ほど首を縦に振っておいた。まったくだ。俺達の心からのお願いをこういう形で解釈されるなんて、まったく思っても見なかった。
「私達のお願いが一刻も早く実現するように、こんな一日からは早く脱出しましょ」
「大賛成だね」
というわけで、ひとまずお願いをしてから、俺達はお互いの気持ちを桟橋の上で確認して、ついでにお堂の神様に見せ付けるがごとく熱いキスなんぞを交わしてから帰途に着いた。その場面の描写は申し訳ないが割愛させていただく。
冷静になるとなんて恥ずかしいんだろうね。
で、肝心要の俺達はどうなったかってことなんだが、まあ端的に言うと春日井さんの説が大当たりだったらしい。
今朝目が覚めると、そこが翌日なんだとすぐに分かった。仕方なく支度して会社に向かう足取りの重いこと。なんだろう、休日を繰り返しすぎて、知らない間に心が完全にオフモードに移行していたのかもしれないな。
休もうかな、なんて考えたりもしたが、昨日「あんなこと」があって休んだりした日には、春日井さんにどんなどやされ方をするか分かったものじゃない。
そういえば帰り際に春日井さんが満面の笑顔でおかしなことを言っていた。
「また、不思議なことに巻き込まれたいね」
その笑顔は飛び切り素敵だったけど、俺は残念ながらゴメンこうむりたい。普通の日常を安穏と過ごすことこそが極上の幸せなのだ。不吉な予感が当たらないことを精一杯祈る。ここで人生の九割方の幸運を使ってもいいから。ループする一日に比べれば、こうして満員電車で寿司詰めになっているほうがまだマシってもんだ。
だから、次回そういうチャンスが巡ってきても俺は全力で抵抗すると硬く心に誓う次第なのである。
もっとも、だからといって春日井さんとは二度と遊びに行かないとかそういうわけではない。指先一つ動かせない朝の時間を有益に消費すべく、俺は現在次のデート先を鋭意思案中なのである。
もちろん、どこであろうと彼女と一緒なら楽しいに違いない。春日井さんだってそう思ってくれているはずだ。
何しろあの時、せぇので口にした二人の台詞は陳腐な恋愛映画のごとくぴったりと重なったのだから。
この幸せな時がいつまでも続きますように……と。
えー、初めて挑戦する雰囲気の作品です。
こういう話を読むのはすきなのですが、書いてみると難しかった。
とりあえずテスト作品ということで、今後も思いつけばこんな不思議な話を書いてみたいなと思います。
最後までお読みいただいてありがとうございました。
感想などいただけましたら幸いです。




