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一方で村人たちも成長する


「ぐるはげんきかなぁ、いつかえってくるかなぁ」


「あの子は大丈夫よ、帰ってくるのはまだ少し先だけれど、マルベルが良い子にしていたら次の春にでもこっちから行っちゃいましょう?お母さんも街に行ってみたいの。ねぇ良いでしょう?アーガット」


「しかし道中は魔物や盗賊が出る可能性がある。もう少し、最低でもグルと同じくらい大きくなってからのほうが……」


「「おねがい!」」


「ぐっ……分かった、ゲイル爺に相談する。」


 一方そのころの村。グルが旅立ってからまだあまり時間は経過していない。しかし、アーガットたち一家はもちろん、家族同然だった村人たちは皆寂しさを覚えていた。特に幼いマルベルは毎日のようにグルはどこ?いつ帰ってくるの?と質問しては悲しそうな顔をする。


 もちろんアーガットもそんな娘の姿に胸を痛めていない訳はない。しかし旅は危険が付き物だ。グルはあっという間に狩りについて来たがあれは特別だ。自衛の手段を持たないマルベルに万が一があればアーガットもランも深く傷つくだろう。しかし愛する娘と妻にあのような頼み方をされるとアーガットは弱かった。


「という訳でゲイル爺、どうにかマルベルを連れて安全にインディゴへ行けないだろうか」


「カッカ、いつかはそう来るだろうと思っていたが…おい坊主、随分と早いじゃねぇか。まだ半年も経ってねぇんだぞ?」


「仕方がないだろう、マルベルとランに同時にお願いをされてしまったのだから」


「そうさなぁ、そろそろ俺も新しい馬が欲しかったし、死ぬまでに海も見てぇ。グルの坊主も気になるからな。次の春ってことは一年近くある訳だな。おいアーガット!お前、魔法を覚えろ」


 言われたアーガットは顔を顰める。何故かこの男は昔から魔法の話をすると逃げ出すのだ。普段は立派な狩人としているだけに、魔法と聞いただけで逃げ出そうとする姿は何とも情けない。


「お前さんは昔っからそうだな、魔法の何が嫌なんだ?」


「昔は……座学がとにかく嫌だったんだ、座っているくらいならば体を動かしていたかった」


「でもよ、今なら魔法が強いってのは分かるだろう?」


「あぁ、強いし便利だろう。きっと狩りの幅も広がる。しかし……」


「うん?」


「グルに、幻滅されないだろうか」


「は?」


「あの子は、グルは俺を尊敬する父と呼んでいた。そして一番の狩人とも。俺は魔力がそんなに無いのだろう?俺がしょうもない魔法を使っていたらどうだ?きっとがっかりするだろう?」


「はぁ…そんな理由で逃げていたのか坊主は。そういえばお前は昔から頭のほうは少し弱かったな。いい機会だ、ランとマルベルもつれて明日から毎日こい、次の春までには魔法を使えるようにみっっっちり指導してやる。それが安全に街まで行く唯一の方法だ」


「そんな!?マルベルにまで情けない姿を見られたらどうすれば!?」


「知るか、死ぬ気で覚えやがれ」


 真っ青な顔をしたアーガットを家からたたき出したゲイル爺はため息を吐くと同時に笑っていた。アーガットが立派な大人になっていることなんてとっくに知っているが、やはりまだまだ可愛がりたさが勝ってしまってどうしてもからかってしまうのだ。


「珍しく楽しそうじゃないか、ゲイル」


「うぉ!?てめぇ婆いつからいやがった!?」


「最初からいたさね。あんたたちからは見えなかっただろうけども。それにしても、坊やも随分と変わったね。もちろん良い方向にだけどねぇ」


「あぁ、坊主が…アーガットがあんなにも感情を表に出すようになるとはな。ランやマルベルの存在も大きいが、一番あいつが変わるきっかけになったのはグルと出会ったことだろうよ」


「ひぇっひぇ、ほんに不思議な子だねぇ。妹からの連絡では向こうでも変わらずにやってるようだよ。いきなり三日間も森の中で過ごしたそうだ」


「おいおい、俺の教えが何にも役立ってねぇじゃねぇか。仕方ねぇ、シティボーイの俺がもう一度しっかり教え込んでやらねぇとな」


「なーにがシティボーイだ!こんな田舎産まれな上に棺桶に片足突っ込んだ爺がボーイなんて烏滸がましいにもほどがあるよ!」


「てめぇは全身棺桶に入ってるだろうが!!俺がガキの頃から婆の癖によぉ!!」


「世の中には死にたくても死ねない存在ってのがいるんだよ、坊や。まぁ、今となっては死にたいとなんてこれっぽっちも思ってないけどねぇ。グル、アーガット、ラン、マルベル、ゲイルに村のみんな。みんな私の可愛い子どもたちなんだ、いつまでも見守ってやらなきゃねぇ」


 村の人間たちは冗談で言っていたが、お婆が定命の者ではないというの真実だったようだ。ゲイル以外はその事は知らない。知ったところで特に変わりなく、全員が受け入れてしまいそうなのがこの村の凄い所でもある。


 翌日、ゲイルから次の春にグルへ会うために街へ行くという事が発表された。同行できる者の条件として最低限の魔法が出来る事とされた。希望者はゲイル爺とお婆が教育をすると聞くと、皆一様にやる気を無くす。


 これまでも魔法について学ぶ機会は沢山あったのだが、別に無くても生きていける上に習得の難度に対して効果が見合っていないため誰もやろうとしなかった。ほとんどの人間が、アーガットと同じくらいかそれより少し少ない程度の魔力しか持っていない。それが当たり前でグルやゲイルという存在のほうが異端なのだ。


しかし、彼らの中で一番魔法から逃げていたはずのアーガットが覚悟を決めて魔法を学ぶという。村一番の狩人の勇士に触発された村人たちは皆、今一度魔法を学ぶ決意をした。後にこの名もなき小さな村が、魔法使いの村と呼ばれるようになるのだが、これは遠い未来の話である。


 そして一年後、春を迎えて魔法を身に着けた村人総出で街へ赴き、魔法学園で軽い騒動になったとかならないとか。


 更にはアイナという恋の魔法使いによって徐々に追い詰められているグルに、似たような関係であったアーガットとランが過去を重ねて懐かしみ、そんなグルを見て自分からグルが取られたと思ったマルベルが彼に引っ付いて離れなくなったりするのだが、これもまた少し先のお話。

ここまで読んで頂いてありがとうございます!


目覚ましい成長をするグル、そしてそんな彼を一人にはしないと立ち上がる村人達。

余談ですが、グルは森や木などから、アイナは地面や大地といった所から名前が来ています。

なので初対面からあれだけ相性が良かったのでしょうね。

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