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緊急事態と恋の魔法使い

 翌日、いつも通り朝日と共に目覚めたグルは魔具のシャワーを浴びて髪を乾かし、昨日買った残りの食材を調理して食べた。


 これまで魔具という物を見たことも触ったことも無かったグルだが、少し触ってみるとすぐに適応し、当たり前のように使っている。彼にとってみれば、自分で魔法を出すか出さないかという違いしかないようであった。


 しばらくするとガーネットがやってくるのを感じた。どうやら隣にもう一人付いてきているのもグルには分かった。恐らく件の同世代の子供なのだろう。


(結局何も対策をしていないけれど…アーガットの名に恥じない働きをして見せるぞ)


 グっと拳を握り、表情こそ変えていないが、狩りの前と同じ鋭い雰囲気を纏ったグルは先手を打つべく自ら扉を開けた。


「おはようガーネット、その人が昨日言ってた子?」


「おはようございます、グルくん。ふふ、待ちきれなくて飛び出してきちゃったんですか?こちらが今日からグルくんの同級生になるアイナさんです。」


「わぁ、綺麗な緑色だねぇ……」


 先手を打ったつもりがガーネットには楽しみを前にして焦る子供のように捉えられていた。そしてその隣のアイナと呼ばれた少女、こちらもまた変わっていた。琥珀のような美しい髪とやや赤い瞳をしている。何故かグルを見て恍惚とした表情を浮かべ、急に近づいたと思えば彼の髪や体をぺたぺたと触っていた。


「顔は可愛いのに体は凄い鍛えてるんだねぇ……それに何だか良い匂い、森の中にいるみたいにグルくんの周りだけ空気が澄んでるみたい。あ、グルくんって先生が言ってたから私もそう呼んじゃったけどいいかな?私はアイナって呼んでほしいな」


「う……ぁ……」


「グルくん?どうしました?」


 未だにペタペタと体に触れるアイナと、心配げなガーネットを他所に、グルは停止していた。未知の中の未知、想定を遥かに上回る……というより想定しようの無い行動。存在も名前も知らない宇宙を見たような気分だった。そしてグルは気が付くと走って逃げだしていた。


 顔が熱くなり、心臓はいつもより早く鼓動を刻んでいる。


(なんだ!?何をされた!?毒!?魔法!?体が熱い!)


 やられた、とグルは思った。恐らく彼女に先制攻撃をされたのだ。こちらが仕掛けたつもりだった、立ち向かうつもりだった。グルは昨日、結局大した対策も考えずに眠ったことを後悔した。


(あんな無害そうで、良い匂いがして、髪も瞳もあんなにキラキラとしていて…あぁ、もう!なんでだか分からないけどアイナの事しか考えられない、多分そういう魔法なんだ。どうすれば、どうすれば良い!助けて、アーガット!一流の狩人なのに僕はもうどうしようもできない!)


「あらら、どうしたんでしょうグルくん」


「いきなり距離を詰めすぎたでしょうか……?でも、私、グルくんの事絶対に逃しません!」


(グルくんも変わってると思いましたが、アイナちゃんも結構変わってますねぇ…

それとも最近の子はみんなこんな感じなんでしょうか?そうだとすると今年は大変な年になりそうですねぇ。)


 何故かやる気に溢れ、両手に力を込めているアイナを見て、ガーネットは今年の教育により力を入れる事にしたようだった。なんだか悪意の無い問題児が集まる予感がしたのだ。


 出会い頭にアイナによってグルにかけられた魔法、それが恋という友情ともまた違う未知の存在であるという事を彼が知るのはそう遠くない未来の話である。


 それでも今のグルはその事に気が付かない。そしてこの街で唯一の知り合いと呼べる門番の男に相談を持ち掛けた。友達についての相談の次は恐らく恋愛というまたしても答えを出し辛い、なんだったら自分もまだ恋人がいないので答え何て出せない難しい問題を持ち込まれた彼はまた頭を抱えるのであった。


「あの子を見ると胸が痛くて顔が熱くて苦しい、それにあの子の事しか考えられないんだ」


「それは多分恋……かなぁ」


「こい?それはどういうもの?」


「えっと、うーん……私も詳しくはないんだけど、魔法みたいなものかなぁ」


(やっぱり魔法だ!アイナは恋の魔法使いだったんだ!)


 門番の男の苦難とグルの勘違いはこの後も続いていく。

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