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森の愛し子

短編として一度投稿していたのですが、少し長かったので小分け致しました。

 その赤子に名前は無い。動物や魔物が蔓延る森の中に捨てられていたのを、偶然近くの村の狩人が見つけた。捨て子というのは珍しい事では無いという話は聞いていたが、しかし狩人は自分の村の近くでそれが起こるとは夢にも思わなかった。


 狩人の名はアーガット。燃え盛る炎のように逆立つ赤い髪と瞳をした男だ。


 服装は簡素な割に、弓とナイフは手作りだが上等な作りであるのが見て取れる。魔物や獣が多く存在する危険な森なのだが、彼にとっては庭を歩くのと大差が無い。日が登り切る前に森へ入り、昼前には無傷で獲物を持って出てくる。それが彼の日常であり、村人にとっての日常であった。


 しかし、今日は違う。森から出てきた彼が抱えていたのは、数匹の獲物と小綺麗で上等な布にくるまれた赤子だった。


「ちょっとアーガット、どこから攫ってきたのよ。そんなことしなくても私が産むのに」


 晴れやかな青空のような髪色と瞳をした少女がアーガットを出迎え、開口一番にそのような事を言う。毎日狩りから帰ってくるたびに似たような事を言われているので慣れたものではあるのだが、アーガットは思わずため息を吐く。


「馬鹿を言うなら一度に一つにしてくれないか、ラン。赤子は森に捨てられていたから拾った。そして俺にその気は無いと何度も伝えたはずだろう」


「相変わらずつれないわねぇ。それにしても捨て子…か。うちの村の人じゃないだろうし、わざわざこんな所まで捨てに来たのかな」


「とにかく捨て置く訳にもいかないから拾ってきた」


「ん、わかった。ゲイル爺とお婆を連れてくるね」


 短い返事と共に走り出したランは村の一番奥にある家の方へと消えた。普段は軽い様子でアーガットに絡むランだが、いざという時には何も言わずとも言いたい事を理解してくれるので大変心強く頼りになる。


 アーガットは赤子の面倒など見たことは無かったが、森の中にいたのだから綺麗にしてやろうと思い湯を沸かし、彼の持っている中では比較的綺麗な布で赤子を拭いていく。


(こいつ、全然泣かないな。死んで…はいないようだが俺をジッと見たまま泣きもせずおとなしくしている。赤子は泣くのが当たり前と聞いていたが、そうではないのか。)


 アーガットの思う事は間違っておらず、大抵の赤子は泣く。この赤子が異常だった。


 森の中にいた時も一切泣かず、妙な布が落ちていたので気になって近づいてみれば赤子が大人しくそこにいた。更にはアーガットが近寄ってもじっと目を見つめ返すだけで泣きはしない。ただただ、心の内を見透かすようにアーガットの赤い瞳を見ていた。


 数分の後、ランがやや息を上げて家に飛び込んでくるが、後ろからぬっと現れた老人二人に押しのけられて体勢を崩していた。


 不思議な事にこの老人二人は若いランと同じ速さで来たはずなのだが、息は整っているし疲れた様子も無い。それどころかさっさと家に入ってあれが足りない、これが無いとアーガットに指示を出していたかと思えば、ついには痺れを切らして自らが動いていた。


「あの二人、本当に人?」


「知らん、化け物であったと言われても驚きもしない」


 ゲイル爺とお婆はこの村に昔からいる老人二人だ。長老という肩書は無いのだが、実質的にその役割を担っている二人である。アーガットやランなどが物心ついた時から老人だったので本当に化け物なのかもしれない。手持ち無沙汰になった若い二人は、年齢にそぐわぬ俊敏な動きの老人達をただただ眺めていた。


「坊や、この子はずっと泣かないのかい?」


「あぁ、森にいた時も、拾い上げた時も、家に連れて湯で拭いてやってもただの一度も泣く事は無かった」


「ふむ、身体に異常はないようだけどそれはちょっと普通じゃないねぇ。それにこの子、まるで私達の会話を聞いて理解しようとしているようにも見えるね」


 そう言ってジロリ、と赤子を見やるお婆の目は鋭い。思わずランがひっと声を上げたのだが、それでも赤子は泣く事は無く、それどころか、あい、とまるで返事を返したかのように声をあげていた。

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