4話目 庚申妃紗は巻き込まれる 上
投稿開始4日目ですが、完全に想定外の反響により作品のコンセプトをあらすじに少し追加しました。
また、感想で頂いていますがもしかしら今後「幼馴染はどうした?」というお声も多くいただく可能があり、前書きにてお答えすると、「物語の終盤で本格的に登場する構成」なので、序盤は小出しといった空気になるかもですが予めご理解下さい。
「よ、一躍有名人」
「あはは、なんだか照れる」
体力テストの同日、夕方6時にいつもの河川敷で待ち合わせた私は、スポーツウェア姿の酉水に茶々を入れた。にへらっと笑う顔がなんだか腹が立つ。
ちなみに今日は別々に帰宅をした。別に毎日一緒に帰るわけでもないし、今後は互いの人間関係の付き合いでこういう日も増えるんだろうね。
「あの後、私のクラスの女子の反応凄かったよ」
「僕のクラスでも色々と言われてさ、擽ったくて居心地が良くなかったよ」
「・・・あのさ」一度前置きを挟み、続ける。「ちょっと訊いていい?もしかして、クラスでも『僕』って言ってるわけ?」
「えっ?」
実はずっと気になってた。肥満体型でおどおど自信が持てない時期は「僕」という一人称を使ってて、私はそれを修正した。
細マッチョにキリッとした顔立ちには少々不釣り合いに感じたけど、そこがいいって子もいるかもしれない。
酉水は何でもないように答えた。
「言われてみれば、妃紗と2人の時は『僕』だけど、皆と一緒の時はちゃんと『俺』を使ってるよ」
「どうしてよ。私のときも『俺』にしなさい。こういう所から綻びが出るんだからね」
「んー、でも素は『僕』だし、2人の時だけはいいじゃん。気を張って疲れるし、実家にいる安心感みたいな?」
「なんなのよそれ」
つい口角が上がる・・・・あ、そういえばこいつに忠告があるんだった。
「それと、今後は皆の前で私と絡むのやめてくれない?」
「え、どうして?」
「女子には色々立場ってのがあってね、アンタと仲が良いとグループから外されたりとか、学校で生活がし難くなるの」
「そうなの?」
「そうなの!」
不承不承、といった様子で酉水が頷いた。見た目は変わっても中身はちっとも変わっていない。まだその辺の自覚が足りないのは仕方ないのかも。
彼女の1人でもできると自信がついたりするのかしら。その辺りの事情が気になったので、少し探ってみようかな。
「誰か良さげな子いたの?」
「良さげ?」
「この朴念仁。可愛い子とか、気になる子とかって意味よ」
「あぁ」
そういうことか、と小さく呟いた酉水は、薄暗い空を見上げ「今の所いないかな」と言い、「そういう妃紗はどうなのさ」と質問を返してきた。
「私も今の所は」
「じゃあ僕と一緒だ」
そう言って、会話は終わりとばかりにタタっと駆け出した。これから一時間強のサイクリングの始まりね。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕が通う高校の1年は7クラスまであり学年の生徒数は300人近い。
1組の教室と7組の教室は端から端なので、ほぼ接点は皆無と言っていいし、廊下で7組の生徒とすれ違う機会もあまりない。
しかし、とうとう幼馴染を廊下で見た時は久しぶりに緊張した。
犬爪純礼は7組と判明した、というか周りから勝手に情報が流れてきた。だから今までエンカウントする機会もなかったけど、実際に目撃すると、本当に同じ学校にいるんだな、と何とも間抜けな感想を抱いた。
改めてアイツを見てもその存在は異質だった。
腰まで届く艶のある黒髪は陽に当たると青黒く反射し、珍しい薄紫色の瞳は視線をどこまでも吸い込みそうなほど綺麗で魅惑的。
切れ長の二重瞼は他者を寄せ付けない気品があり、美形の大前提の鼻筋な顎もシュッとしている。それにただ痩せているのではなく、昔から発育が良いので出ているところはしっかり出ている。
見れば見るほど、確かに高望みをしすぎたなと自分が馬鹿に思えてくる。アイツの隣に立つ人間はどんなハイスペックで前世で徳を積んだ人間なんだろう。
廊下ですれ違う際に純礼の顔を盗み見たけど、僕に気付く様子もみせずに視線を真っ直ぐ見据えていた。うん、知ってた。僕なんてアイツからしたら存在していないのと同意義だから。
それにしても、真顔の純礼は近寄りがたいオーラがある。でもさ、本当はよく笑うしその顔が魅力的なんだと周囲に教えてあげたいけど、これって僕がまだアイツに未練があるって事になるの?
◆◇
そういえば、部活の入部の件で少々厄介な状況になってきた。というのも、僕にも事情があるし帰宅部のつもりでいたのに、突然名前も知らない3年の男の先輩が1組の教室にやってきた事からこの話は始まる。
下級生にとって上級生は永遠の宿敵であり、決して上下関係は覆ることはない忌々しい存在だ(偏見あり)。どうやら陸上部の先輩らしく、その陸上部に入部した生徒が「ど、どうしたんですか?」と、招かるざる客の対応にあたっていた。
「酉水ってやつに用があるんだが」
「おい東!堂林さんがお見えだコラァ!」
身の保身により秒で売られた僕は、もちろん緊張気味に「何か用ですか?」と訊ねた。
その堂林先輩とやらは、僕を舐め回すように観察した後にこう述べる。
「部活、入ってないんだってな」
「あ、はい」
「俺は陸上部主将の堂林だ。単刀直入に言うが、陸上部に入る気はないか?」
「ありません」
即答すると、「・・・少しは考えてくれないか」と堂林先輩が苦笑いをする。
「この前の体力テストの持久走のタイムだが、噂が気になって勝手ながら調べさせてもらった」
「プライバシーの侵害ですね」
「何を今更。それでその記録に目を疑ったよ。U18のベストタイムとほぼ同じじゃないか」
「そ、そうなんですか!?」
「どうして君が驚くんだ」
え、私の年収低すぎ?の逆で、僕のスペック高すぎ?って気持ちになる。
「とにかく、非公式でもそんな成績を残す1年生がいると知ったら、黙っておくわけにもいかないだろ?」
「『だろ?』って言われましても困ります」
「何か入部できない事情でもあるのか?」
「まぁ、事情ってほどでもないんですけど」
「だったらどうして!」
クラスの連中が奇異の目を向けてくる。
このままだと埒が明かないし、どうにか逃れる方法はないものか・・・・。ふと、僕はこう口にしていた。
「あ、あの、だったら僕のマネージャーを通してもらえませんか?」
「マネージャー?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「鞄の中って意外と細かいゴミカス溜まってるよね~」
「あ!それわかるわかる!鞄ひっくり返したら雪みたいにゴミカスがバサーっと」
「さすがにそれはないわ~」
「うそ!?いきなり梯子外さないでよ~超ハズいんだけど」
昼食を食べ終わった昼休みに、私は友達の話に耳を傾けて笑う。普通に楽しいし普通にみんな良い子。
人付き合いは疲れるけど、なんだかんだでこういう時間て本当に大切だよね~なんて耽っていると、教室のドアがガラガラ開いた。
ひょっこり顔を覗かせたのは見覚えのない先輩らしき人。名前も知らない先輩の口から、「この中に庚申って女子生徒いるか」と台詞が出てきた時には、私の目が点になってた。
短編小説を投稿しました。
※恋愛系などとは全く関係のないダークな内容なので、関心がある方のみご覧下さい。
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