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35話目 これからのこと

 犬爪さんが話す内容があまりに衝撃的で時間と心臓までが固まったと思った。


 全てひっくり返されるような、と言っても過言じゃないくらいに、今までの犬爪さんのイメージが反転していく。



 そもそもの根幹が揺らいでしまう。


 だって、犬爪さんの告白を断る理由が「肥満」じゃなく、アイツも「恋愛」としての告白じゃなかったんだから。私達はこの3年以上の間をずっと空回りしていたってことになる。



「それじゃ・・・私をミスコンに出場させるために、全てアイツが仕組んだ事になるってこと?」


 犬爪さんは俯いたまま大きく頷いた後に、「ごめんね」と謝罪を口にして続けた。



「悪役になりきるつもりだったのに・・・ボル君にも内緒にって言われてたけど、結局私が全部話しちゃった」


「・・・・はぁ」



 色んな気持ちが体の中に反発して訳がわからない。


 この気持ちを整理するには少し時間がかかりそうだけど、今はある衝動に駆られた。



 私は繋がれた両手を解き、小さく背中を丸めてまだ少しだけ泣いている犬爪さんの肩へと腕を伸ばした。そのまま掴んで、華奢な身体を引き寄せて抱きしめた。今の彼女は私が入学当初に見た酉水すがいと姿が重なって見えたから、思わずそうした。



 そのまま耳元で、彼女に傷がつかないように注意を払いながら、「馬鹿ね、どうしてそういう事を早く言わないのよ」と、囁いた。今の彼女ってガラス細工みたいに繊細で脆そうだもの。



 努力は無駄に終わり、犬爪さんはまた泣き始めた。


 こんなに犬爪さんが泣き虫だって誰が想像できるのかしら。



◇◆



 なんとか泣き止み、目を真っ赤に充血させた犬爪さんを引き連れてミスコンの控室へと向かった。


 友達にまたアイロンやメイクを手伝ってもらい、本番まで時間を持て余しているとドアのガラス張りから酉水すがいが顔覗かせた。申し訳なさそうな顔と、怯えが混ざった顔を足して不安で割った、なんとも間抜けな表情。



 前までの私は、視界が暗くて何も見えない空間で、ちょっとした物音にいちいち怯えていたようなもの。でも、犬爪さんの証言によって全てを見通せるようになった今、酉水すがいの行動が取るに足りないものなんだとわかって、どこか抜けていてアイツらしいとむしろ笑えてくる。



 私は近づいてドアを開けた。すると、酉水すがいが逃げようとするので咄嗟に手首を掴み上げた。


「どうして逃げるのよ」


「・・・急に来るから」


「用事があってこっちに来たのはアンタでしょ」


「ま、まさか妃紗ひさから話しかけてくると思わなかったし・・・」



 ふと時計を見た。まだ開始まで30分はある。


「ねぇ彩」控室で私達のやり取りを興味深そうに眺めている友人に、「石田に『先に会場に行ってる』って伝えておいて」とお願いして、「という事で行くわよ」と酉水すがいをステージ裏へと連行した。



 目論見通り、時間が早いため薄暗いステージ裏は人気が少なかった。


 酉水すがいは借りてきた猫のように大人しいまま。



「で、私に何か言うことがあるんじゃないの」


「あぁ、うん・・・何から話せばいいのやら」


「犬爪さんの誤解が解けたってところから話せばいいじゃない」


「・・・・えっ」


 薄暗くてあまり見えないけど、酉水すがいが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたのはわかった。


「それとも、私をミスコンに引きずり出すための作戦からにする?」


「そっか。純礼すみれ、喋っちゃったのか」


「あんなにあの子を追い詰めておいてよく言うわよ」


 そう言うと、酉水すがいの纏う雰囲気が緊張の色に変わっていったので、私も思わず居住まいを正した。



「つまりさ、そういう事なんだよ」


「そういう事って?」


「俺が好きなのは妃紗ひさだ」


「・・・・・」



 嬉しくて、視界がチカチカして意識が飛びそうになった。


 その短い言葉に、どれだけの想いと時間が秘められているか、私達と犬爪さん以外は想像もできまい。



「ねぇ、手、繋いで」


 そう言って手の平を差し出すと、いつもであれば平然と握るくせに、今の酉水すがいは躊躇う様子をした後に、恐る恐る私の手を握った。


 ちゃんとわかってるんだ。手を握る意味が、今までとは違うという事を。


 私は顎を上げて、酉水すがいの顔へと自分の顔を寄せ、今まで超えてこなかった一線へと踏み込む。


 ただ、最後の反抗とばかりに酉水すがいは「()()()『デ部』の活動の一環?」と訊ねてきた。



 そんな訳ないじゃない。


「私がアンタとキスしたいの」



 デ部だとか、理屈とか、そんなの関係ない。


 昔みたいに丸まってても、今よりもガリガリだったとしても、酉水すがいへの気持ちは変わらない。



 私がそうしたいから。ただそれだけの感情。


 緊張気味に「ぼ、僕も」と酉水すがいが洩らした。面食らっている様子に、ようやくコイツにひとつ金星を上げた気分になった。


 そして、文化祭真っ最中の薄暗いステージ裏というありきたりなシチュエーションで、私達は人目を忍んで唇を重ねた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 今はミスター、ミスコンの結果発表の時間になり、僕は各クラスの出場者と一緒にステージの上の椅子に腰掛けていて、その中には純礼すみれ妃紗ひさの姿もある。



 僕の相方である凜菜りんなは、目が合うとニカッと笑ってみせた。彼女はミスコンの結果なんてどうでも良いみたいで、非日常の雰囲気を心の底から楽しそうにしていた。君も優勝候補なんだけどね。




 今回の一件は終わってみれば、本当に全てがうまく回ったけど、きっと僕が知らないだけで色んな助けや力が働いていたんじゃないかなと、そう思っている。


 だって、僕の立ち回りは穴だらけであまり褒められたものじゃないし、結局は純礼すみれに全てを任せてしまったしで全然「理想の男」らしくなかったから。




 先程から妃紗ひさの唇に触れた部分だけがやけに熱を持ってじんじんとする。


 その唇を指の腹でそっと押してみても、先程の柔らかく湿っぽい感触とは程遠く、またあの感触が恋しくなった。




 そういえば、猪方いのがた先輩の質問の回答だけど、俺は妃紗ひさを愛していない。



 それは僕の感情が彼が言った「別の何か」に分類されるから。「共に幸せでありたい人物」、それが僕にとっての「愛」になる。



 ベタな台詞だけど、妃紗ひさと一緒に居られたらそれだけで充分じゃないか。



 "では、一年生の部の結果発表です。まずは女子からの発表です"



 輪郭のしっかりとした声をした3年生女子の司会が高らかに告げた。




 "1年・・・3組の、庚申こうしん妃紗ひささんでーす!"



 名前を呼ばれた妃紗は、珍しくポカンとした表情をしていて、現状をよく理解できていない様子だった。


 隣に座る凜菜も「おめでとー」と微笑んで拍手を贈り、純礼すみれも薄っすらと涙を溜めながら微笑み、拍手を贈っていた。



 信じられないと顔に書いて呆けたままの妃紗が、司会に案内されるままステージの真ん中へと立つ。



 ほら、思った通りじゃないか。最初から純礼すみれに引け目なんて感じなくて良いんだ。


 妃紗ひさはすごく素敵な人だって、僕はちゃんと知っているんだから。



 "続いて男子の発表です!"



 その、特別な「彼女」になった妃紗ひさと僕はいつまでも並んでいたい。



 「このまま何も変わらずに」ではなく、「歳をとってもこのまま」一緒にいたいんだ。



 僕は、妃紗の理想の男になりたい。



 "男子の部は───"



◇◆◇◆◇◆◇◆




 その先については、僭越ながら(わたくし)犬爪純礼(いぬづめ すみれ)がお話し致します。


 俗に言うエピローグというやつでしょうか。


 まぁ、どうでも良いですね、些末な問題です。


 だって、別に物語が全て終わったわけじゃないですから。肝心なのは今後なのです。


 それに、悪役が物語を締めくくるなんてなかなかに乙な演出だと思いませんか?なんて、ちょっとした皮肉です。




 さて、物語には必ずオチが付き物です。


 ここまで盛り上げておいて、ミスターミスコンの男子部門の優勝者は6組の池面いけも君でした。



 はい、ボル君じゃありません、池面君です。


 池面君と並んだ妃紗ちゃんの微妙な顔には同情しかありません。



 コンテストが終わってからボル君が妃紗ひさちゃんに「この流れでアンタじゃないんかい」って言われてたけど、最後は「でもまぁ、こんなオチもアンタらしいわね」って笑ってました。


 その笑みには慈愛がたっぷり塗られていて、それと口元のピンク色のグロスが婀娜あだやかに潤っていて妙に色っぽかったです。


 

 でも、そのおかげで「デ部」は廃部にならずに済みました。


 もともとオフィシャルじゃないので廃部というのも的外れですが、ボル君が「まだまだ『理想の男』とは程遠いから、これからも頼むよ」とお願いして、仕方ないといった様子で妃紗ちゃんも了承しました。



 真相はわかりませんが、私はボル君が自分が負ける所まで計画していたんじゃないかと疑っています。


 アピールでネタ要員としてフュージョンをしたのが証拠です。それに付き合った卯月ちゃんも流石ですね。




 「デ部」がただ廃部を免れたわけじゃありません。


 なんと新部員が増えたのです。そうです、私こと犬爪純礼です。


 これもボル君ですが、「その年中湿気みたいな性格を直すためにお前も『デ部』に入部しろよ」と妃紗ひさちゃんの目の前で言って、妃紗ちゃんも「これから問題児が増えてますます大変になるじゃない」と嘆きながら受け入れてくれました。ご都合主義ここに極まれりといったところでしょうか。




 良い意味で、妃紗ひさちゃんは私をボル君の位置まで格下げしてくれたみたいです。


 私の本性がバレて、何もかも完璧にこなす人物からただのポンコツ扱いになり、「残念な幼馴染コンビ爆誕ね」って笑ってくれました。



 とは言っても、私はラジオ部に在籍しているので2人とは物理的に時間は合いませんが、今後の活動についてはじっくり決めていくそうです。今の所、学校で話したり昼食を一緒に食べる案が浮上してます。




 さてさて、この物語のキーワードはなんと言っても「勘違い」でしょうか。


 私の「勘違い」が全ての始まりですが、雪山の頂上から「勘違い」を転がして、それが色んな「勘違い」を巻き込んでどんどん膨れ上がっていった、といえばイメージしやすいですね。



 勘違いと言えば、妃紗ひさちゃんがボル君に対して、学校中で同級生の女子だったり先輩の女子と連絡先交換をしている現場を目撃していたようで、さっそく修羅場の到来かと思われましたが、それはボル君が卯月ちゃんの家で産まれた子猫の里親探しだったということで誤解が解けました。



 「デ部」の活動で女の子に物怖じしないようにボル君を育てたのが仇になったので、妃紗ひさちゃんは「ぐぬぬ」と洩らしてました。晴れて結ばれたは良いですが、女の子としては「モテる彼氏」を持つとどうしても不安になってしまいますからね、知りませんけど。



 その子猫の里親も無事に全匹見つかったようでなによりですが、実は私もその里親の中に含まれているんです。



 妃紗ひさちゃんの動きがなくボル君が私に泣きついてきたあの日、最後に「それはそうと、お前ん家で猫欲しくない?」って言われました。随分唐突だなと思いましたが、両親に相談すると、「欲しい欲しい」と二つ返事が返ってきました。



 こうして犬爪家に猫を家族として迎え入れる事があっさりと決まりました。




 文化祭が終了して2週間後の週末、子猫が生後8ヶ月を迎え、そろそろ引き取りの頃合いとなり、私は卯月ちゃんの自宅へ新しい家族を迎えに行くことになりました。



 もちろん1人じゃなくて、「デ部」部員勢揃いで伺います。話の流れで「もうみんな仲良くしたら良いんじゃね?」って巳造みつくり君の提案がきっかけとなり、私としても友達が増えて嬉しい限りです。



 あ、そうですそうです。


 驚いたことに、巳造みつくり君と卯月うづきちゃんも幼馴染同士で、しかも巳造みつくり君が酒屋の息子、卯月ちゃんが居酒屋の娘、しかも家が隣同士という絵に書いたような設定だったんです。お互いに癒着が凄そうですね。



 この2人の関係も色々と複雑みたいですが詳しいお話はまたの機会にするとして、私は駅前で2人の到着を待っていました。



 先に到着したのは妃紗ひさちゃん。


 今日は髪をサラサラにしていて、前髪も下ろしています。最近買ってみたというチェックのワンピースがとても似合っています。


 やっぱり妃紗ひさちゃんは素敵です。思わず飛びつきそうになるのを堪えました。



「おはよう妃紗ひさちゃん」


「おはよ、純礼。アイツはまだ来てないのね」



 こうして推しと普通に会話ができるなんてファンにとっては良い時代になりました。


 私がボル君はまだ来ていないと話すと、妃紗ひさちゃんは「あぁ、そっか」と合点がいったようで、私にこう言いました。



「多分あーちゃん連れくるから準備に手間取っているのかも」


「あ、あーちゃんってもしかして・・・」


「アイツが溺愛する妹だけど、純礼も会っていたのよね?」


「ああ、うん、昔は・・・ね」



 途端に心臓を細い糸で締め付けられるような苦しさを感じました。


 外で素子おばさんとあけみちゃんとばったり出くわした忘れもしない中学2年の秋口。


 あけみちゃんが私に怯えた様子で素子おばさんの背後に隠れた、私がボル君から遠ざかる決定的な出来事。



 その事を話すと、妃紗ひさちゃんは眉間に深い皺を集めて「そんな事ないんじゃない?」と言って、こう続けました。



「だって、たまにあーちゃん間違えて私を『すーさん』って呼ぶのよ。それって純礼すみれの事じゃないかしら?」


「・・・え?」



 意外な事実に驚いていると、丁度良くボル君がやってきました。隣にはあけみちゃんと仲睦まじく手を繋いでいます。


 シスコンは健在みたいですがそんなの今は関係なくて、私の動悸がどんどん早まってきてしまいます。爪で引っ掻いたような心の傷が疼きだしてきました。



「ごめん、2人とも、準備に手間取った。ほら、あーちゃん、純礼すみれだよ」



 ボル君が言うと、あけみちゃんがまん丸の瞳で私を覗き込みます。その後、「すーさーん」と私の腹部に飛び込んできました。



「あれ、え、どうして?」


「ほら、やっぱり純礼すみれの事覚えてるじゃないの」



 妃紗ひさちゃんが呆れるように言いました。でも、私はまだ困惑の渦中に放り込まれたままです。


 だって、2年前は・・・。



 「何の話?」と訊ねるボル君に、私はあの出来事を説明しました。


 私を忘れ、怯えた様子で素子おばさんの背後に隠れたあの時の事を。



 少し思案顔をしたボル君が、私に言いました。


「もしかしてさ、その時にお前が飼っている犬を散歩させてなかった?」


「・・・・・あ」




 "突然だけど、私の家では犬を飼っている。


 犬種はスパニエル。正式名称はキャバリアキングチャールズスパニエル。"



「確かに、チャーリーを散歩させてたけど・・・」


「あーちゃん、犬が苦手だからそれで怯えてたんだよ。ただそれだけ」


「そっか、いつだか高架下で通りかかったダックスフンドにメンチを切っていたし、そういう事だったのね」


 妃紗ひさちゃんも納得するように呟きました。



 はい、そういう事です。あけみちゃんが私を忘れていたというのも、そもそもの私の勘違いだったのです。



 本当に、自分が馬鹿らしく思える「ただそれだけ」なオチでした。



 懐に収まったあけみちゃんの朝焼けに照らされて輝いているような赤毛の頭を撫でると、藍色の瞳とパッチリと目が合い、ニッコリと微笑んでくれました。その愛らしい笑顔を見ると、心の中のモヤモヤがスーッと消えていくのを感じました。



◇◆



 卯月ちゃんの家は学校の最寄りから二駅手前の駅で降りた場所にあり、定期券内で行けるのが有り難いです。


 ボル君は、運転席が見たいと言うあけみちゃんのために先頭車両へと向かいました。


 今は妃紗ひさちゃんと2人きりです。



「あ、純礼すみれもブツ森やってるんだ?」


妃紗ひさちゃんも?」


「ええ、ゲーム機持ってきてるなら今から盃交わさない?」


「うん、いいよ」



 会話の流れでブツ森という共通点を見つけてはしゃいでました。「いつか組作ろうね」なんて約束までして、本当にこうして妃紗ひさちゃんと向き合う事ができて幸せです。



「ねぇ妃紗ひさちゃん、横の髪編んで良い?」


「別にいいわよ」


「やった」



 許可も頂きましたので、夢中で妃紗ひさちゃんのサイドに三編みを編んでいると、唐突こんな事を私に訊いてきました。



「ところで、純礼すみれは好きな人いないの」


「え」



 編んでいる手が止まります。



「言っとくけど、後々になって『やっぱりボル君の事が好き』みたいな展開は御免だからね。だから、そこんとこ不安になったのよ」


「やっぱり不安になる?」


「それはまぁ・・・一応」



 不安げな妃紗ひさちゃんマジ尊いです。


 でも、その質問には正直どう答えて良いのかわかりません。


 2人を掻き回しておいて私だけ「恋愛」をするなんて抜け駆けもいいところです。勝手に十字架を背負っていました。




 "不躾だろうが憎まれようが、誰かのためになんなら嘘でも本音でも言うべきだ"



 その時、不意にボル君の、厳密に言うとボル君の先輩だという方の言葉が頭を過りました。


 そうでした。また何がきっかけで勘違いやすれ違いが生まれるかわかりません。


 妃紗ひさちゃんの不安を取り除くため、体裁だとか負い目を気にして誤魔化すのはやめにします。


 これこそ「理想の人間」になるための「デ部」の活動の一環です。



「好き・・・という訳じゃないけど、気になる人なら・・・」


「マジで!?え、誰!?同じ学校!?」


「実は名前も知らないんだけど・・・」




 妃紗ひさちゃんに話す前に、私はあの人との出会いを思い起こします。


 自宅から歩いて20分ほどの距離に野球グラウンドが併設された大きな公園があり、愛犬のチャーリーの散歩コースとして休日はよく利用をしていました。



 野球グラウンドのフェンスを挟んだ目の前にベンチが設置されていて、大きな木々が日陰を作り風通しもよく夏場でも涼しい穴場を見つけました。



 私はその場所が気に入って、チャーリーもそこで涼むのが大好きみたいなので、飲み物と文庫本を持って数時間をそのベンチで過ごしていました。



 どこかの野球チームがグラウンドで練習をしていて、大きな掛け声や打球が飛ぶ音が心地よく、それもまた良いBGMとなっています。



 ところが、休日にそこを通い始めて数ヶ月が経過した時でした。


「すんません」


 読書に夢中になっていると低い声をかけられ、私は慌てて声を主へと顔を向けると、野球のユニフォームを来た大柄な男の人が立っていました。



 仏頂面で大仏みたいな大きなホクロが額にあり、眼光の鋭い一重まぶたをした強面な人。



 パッとみたところまだ幼さを残す顔は年下にも見えますし、肥大した筋肉を無理やり圧縮しているような高密度の肉体をしているので年上にも見えました。どこか見覚えがある気がしないでもありません。



 突然人に話しかけられて警戒しない人はいません。


 ですが、その男の人の言葉に狐につままれた気持ちになりました。



「悪いっすけど、アンタみたいな綺麗な人に近くで練習を見られると、他の部員が集中できないんで場所移してもらっていっすか」



「・・・ごめんなさい?」



 その時は謝りましたが、言われた通り場所を移してから怒りがこみ上げてきました。



 公園は皆のものなのにどうして私が場所を変えなくちゃいけないんだと。



 それと同時に、怒りはこみ上げましたが不思議と不快ではありませんでした。


 褒められたと思ったらいきなり遠ざけられたんです。初めての経験です。


 それに、「他の部員が」って言いましたけど、それじゃあなたはどうなんですかって聞きそびれてしまいました。なんだか一方的に負けた気がして悔しかったのです。



 もしかしたら、私は全てを受け入れてもらうよりも、全てを否定して突き放してくれる方が安心するのかもしれません。

 


 そう考えると、あの男の人について興味が湧きました。


 それが「気になる人」というのであれば、私はこの事を妃紗ひさちゃんこれからお話しします。これが恋バナというのはわかりませんが。



 さて、どこからあの失礼な野球少年の話をすればいいのか迷いましたが、取り敢えず最初から順序立てて説明することにしました。




「私、休みの日は犬の散歩に行くんだけどね・・・」

まずはお詫びから。

後半は作品の雰囲気を壊したくないため、ご覧頂いている旨のお礼もなく、勝手ながら後書きを控えるようにしていました。



そしてお礼です。

誤字脱字報告及び、ここまでご覧頂きありがとうございました。

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