28話目 更新妃紗は深読みをする
サブタイトルでヒロインの名前が違います
このままでは決まりそうな雰囲気はなく、仕方なく名指しで数名の候補を挙げ、その中からあみだくじで出場者を決めるという強引さと無慈悲さを備えた方法が選ばれた。これなら恨みっこなしね。
有り難いことに男子の数人が私の名前を挙げちゃって、無事にくじのメンバーの仲間入りを果たした。
その男子の川上と石田は後でシメるとして、あみだくじでハズレを引かないように祈る。こんなコンテストどころじゃないのよ、今の私の心境は。
幸いにも当選したのは彩だった。
ガックリと肩を落とした彩に、一応労いの言葉を投げかけると、「うぅぅーー」と項垂れた彩がこう口にした。
「7組の純礼ちゃんが出場するって噂だし私なんて端から勝ち目なんてないよぉぉ」
「えっ、あ、そうなんだ」
何かフォローを入れようと思ったけど、犬爪某が相手だと誰でも相手にはならない。ディープインパクト並みのぶっちぎりで一番人気ね。競う前から戦意喪失しちゃう。
そうなると、もし酉水が私の言葉通りコンテストに参加すれば、もしかしたら1年部門の代表はあの2人になる可能性が高いって事になるのかしら。
「ねぇねぇ妃紗~出場代わってよ~」
「どうしてよ、わざわざ負け戦に挑むほど馬鹿じゃないわ」
一蹴すると、彩は「純礼ちゃんに対抗できるのは妃紗しかいないのにぃ」と泣き崩れた。
彩はそう言うけどそんな訳ない。
私は犬爪某と違って髪はサラサラしてないし、清流みたいに澄んだ声もしていない。
瞳だって綺麗なルビー色じゃなくて標準的な茶色だし、胸だって・・・まぁ、Cはあるからそこについては発展途上という事で。とにかく私が競って勝てる相手じゃない。
「お世辞でも嬉しいけど、くじで決まった事だからゴメンね」
建前を口にして、丁重にお断りをした。
◇◆
その日の夕方のトレーニングは、亮が用事による不在で2人きりとなった。
以前にも増して走るペースが速くなった酉水の背中を自転車で追いかけながら、私は最近の事についてボーッと考えていた。
別に報告の義務なんてないけど、女の子と連絡先を交換したとか好意を寄せられてるとか、そんな話題の1つや2つくらいあっても良いじゃないの。
休憩の時間になり、相変わらず何も話そうとしない酉水に痺れを切らした私は目前の話題を口にする。
「そういえばアンタさ、コンテストに出場するの?」
「え、妃紗が出ろって言ったんじゃないか」
「そうだけど・・・結局どうなのよ」
「そりゃあ出るよ」
訝しげな表情をする酉水を気にかけながら私は続ける。
「知ってる?」
「何が?」
「アンタの幼馴染も出場するんだって」
「・・・へぇ」
私は、酉水の一挙手一投足を見逃さまいと観察をしていた。
別に酉水の全てを熟知しているわけではない。彼には底知れない部分がある。でも、表面上の浅い箇所であれば時間を密に共有していた私にもある程度は推し量れる。
幼馴染の名前を口にした瞬間の少しの間と、少し泳いだ視線、後ろめたい時に右手で首の後ろを擦る癖・・・。
酉水は何かを隠している・・・それか、隠し事というよりもただ伝える必要がないのか、いずれにせよ私の知らないところで何かが動いているのが読み取れた。
それは酉水側にも言えること。私が陸上部の先輩に連絡先を訊かれたことは知らないだろうし言ってない。ただそれだけの事。
だから、悪い癖の考えすぎが発症しているだけなんだ、きっと。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「最近、妃紗の様子がおかしい」
太ももの張りのためにトレーニング中止を決めたその日の放課後、僕は巳造と凜菜と一緒に学校近くのマックへと足を運んでいた。
「妃紗ちゃんがどうしたの?」
まだ溶けていないシェイクを啜るのを諦めた凜菜が首を傾げた。僕が普段から妃紗の話題を口にするので、2人が一方的に妃紗の事を知っていて、凜菜に至ってはまるで知り合いみたいな振る舞いをするようになっている。
「どうかはしないけど、どこか余所余所しいというか、そんな感じ」
「お前何かやらかした記憶ねーのかよ」
「んー・・・」
巳造の問いかけに何か覚えがないかを漁ってみるけど、結局は「ない!」と答える。
「あぁ、それじゃあれだ、妃紗ちゃん側で何かあったんだろ」
「ちょっと西!」
凜菜が巳造に吠えた。構わずに「何かって?」と訊ねると、巳造は平然と凜菜を躱しながら「そりゃ、男関係にきまってんだろ」とコーラを一口含んだ。
「その・・・何か妃紗ちゃんから聞いてないの?」
「いや?」凜菜に首を横に振る。
「東君の考えすぎ・・・とかじゃないかな?」
「そうだと良いんだけどね」
少しの沈黙が漂う。それは、確かな重みをもって肩にのし掛かってくる。
その重みを嫌った凜菜が、「そういえば!」と声を弾かせた。
僕と巳造は凜菜の言葉の続きを待つ。
「子猫の里親探しの件だけど東君はどうなった?」
最近凜菜の家で飼っている猫が子供を産んだらしく、僕達はその里親探しをしている最中だった。
「あー...適当な生徒に話しかけたけど厳しいかな。あ、でも、話を聞きつけた先輩が親次第では飼えるかもって声かけてくれたよ」
「本当に!?」
「うん、なんだか俺って何故か上級生の間では有名人らしいから声かけやすいんだって」
「お前は学年関係なく有名人だろうが」巳造が苦笑を交える。
「そうだよ、東君てその辺りが自覚なさすぎ」
責めるように言われて、「そ、そう?」とたじろいでしまった。
しかし、里親探しなんて安請け合いをしたけど、意外と見つからないものだな・・・。
あ、どうせなら妃紗にも相談すれば良かったかも。
でも、今の感じだと何となく頼みにくいしな。
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