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27話目 波乱の種まき

 私はここ最近とある光景を目撃することが多く、その度に胸がざわつく少し不快な違和感を覚えていた。


 例えば、この間で言うと移動教室で階段を下っている時の事。


 ○○高校の内階段はガラス張りとなっていて、踊り場には手すりがあるので足を止めて外の景色を眺めながら立ち話をする生徒もちらほらとみかける。



 その踊場で足を止めている後ろ姿に見覚えがあった。


 私がトレーニングの際に散々と見飽きた酉水すがいの背中。


 そしてその隣には、名前の記憶が朧気な違うクラスの女子生徒が1人。


 確か酉水すがいとも違うクラスのはずなので接点がないはずだけど、一体何の話しかしら・・・なんて思う鈍感系女子ではないので、ちゃんと()()()()()()()も考慮する。むしろ過敏系女子ね。周りにも、そして自分にも。



 2人は背を向けているので私には気づかない。


 声をかけるのも、会話を盗み聞きするのも何だかルール違反な気がして、友達の「急にどうしたの?」という声を置き去りにして、足早にその場から離れた。





 またある時の放課後は、複数の3年の先輩女子(制服のリボンの色でわかった)と立ち話をしていた。


 私は掃除当番の仕事で1人焼却炉へゴミを捨てに向かっている最中で、その道中に遭遇した。


 可愛らしい先輩は愛想の良い笑顔を振りまいていて、酉水すがいも「デ部」の成果による朝摘みオレンジよりもフレッシュな笑顔を湛えている。



 2人の前を通れば焼却炉までは最短のルートだけど、例のルール違反を侵さないためにわざわざ遠回りをしてゴミを捨てに行く事にした。



 歩きながら、正体不明の感情がふつふつと湧き上がる。


 酉水すがいは目的通り華やかな高校生活を謳歌しているので、直結して私の努力が報われている証明になる。



 でも、いくら洗っても落ちない染みのような鬱陶しい気持ちがちらつく。

 5月の連休の日に酉水すがいの家からの帰宅途中、犬爪某を見かけた時に気づいたあの気持ちだ。


 "じゃあ、あれだけアイツに「彼女作れ」みたいに言ってたけど、犬爪いぬづめ某以外の人と付き合うことになったら?それはそれで気に食わない。"


 先送りにしていた事がいよいいよ起ころうとしているのかもしれない。



 "せっかく苦労して開花させた花を譲るのが惜しいように。"

 "長年費やして描いた美術作品を手放すのが惜しいように。"



 酉水すがいのぼるという作品が私の手元から離れるその瞬間(とき)が。

 

 そろそろ1年生が学校に馴染んできて学校全体が地に足がついてきた今なら、タイミングとしては十分にありえる。



 上手に気持ちの整理や清算ができずに悶々としてしまう。焼却炉にこの悶々を捨ててしまいたいけど、人生というクソゲーにはそんな救済システムはないのよね。



◇◆



 それから日数が経たないとある日。



 これから怒られる事を覚悟した犬みたいに、彩が申し訳なさそうな表情で「妃紗ひさ」、と私の名前を呼んだ。



「どうしたのよ」


「夏休みのカラオケの件があって度々申し訳ないんだけど・・・」



 彩の言う「カラオケの件」はまだ記憶に新しい。


 夏休み中に○○高校の先輩とのプチコンパがあり、彩の意図的な連絡不備によって私も参加することになってしまったから。


 その日はカラオケルームから退室後、そのまま二次会の空気になったけど私はさっさと帰り、更に高知こうち某との連絡先交換も断った。


 その後について彩から聞いたところ、私が強引にブッチした事により雰囲気がギクシャクして結局そのまま解散となったらしい。絶対陰口を叩かれているだろうな、と覚悟もしたけど、「聞いてよ!」と彩が思い出したように表情をハッとさせた。



「最近わかったんだけど、あの人達結構悪名高くて有名だったの。だからみんな妃紗ひさに救われたって」


「それは・・・結果オーライね」



 もし、私が流れに身を任せていたら一体どんな目に合っていたか想像すると寒気がした。



 なんだかんだで、時代劇みたいに「最後は悪い奴を成敗して一件落着チャンチャン♪」ってな感じで、この手の会話は終わるものかと思っていた。


 しけど、彩が表情が曇る。



「あの・・・それでさ・・・実は似たような別の話があってね?」



 私の頭の中では、時代劇で反省したはずの御代官が凝りずに「であえであえー」とまた敵を登場させていた。


 なんだか嫌な予感がする。



「どうしたの?」


「この前の事もあるのに申し訳ないんだけど、この高校の先輩から妃紗ひさの連絡先を教えて欲しいって頼まれて・・・」


「・・・はぁ」



 本来はため息なんて贅沢な話なのかもしれない。


 普通だったら、「え、どんな人!?」って反応するべきよね。


 一応、女子高生らしく振る舞っていこうかしら。



「何年生のどんな人?」


「1個上の先輩なんだけど、私はその人の知り合いじゃないから詳しくわからないんだ。私の中学の先輩がその人と友達みたい」


「つまり、彩の先輩を通して私に連絡を聞いてきたってことね」



 状況を整理して訊ねると、彩がコクリと頷いた。


 なるほど、そういう感じね・・・前回のカラオケと違って、ただ頼まれただけの彩に落ち度はないわね。立場としては二次請けってことろかしら。



「もし断るって言ったら?」


 私が先に確認を取ると、言葉に怯えた彩の顔が青ざめた。先輩との関係維持の苦労が窺えるわね・・・。


 でも、実際に困った。同じ学校にいる以上は断りづらいし、彩の人間関係の悪化にも繋がるかもしれないしで、不慮の事故として割り切るしかないわね。



「・・・良いけど、条件がある」


「条件?」


 事を穏便に済ます術は前回の酉水すがいと陸上部の件で学んでいるつもり。

 だから、きちんと前置きをしながらその条件を彩に並べる。

 



「こちらが先輩の連絡先を受け取る」

「連絡をする確証はない」

「過度な期待はしない」

「学校で直接の会話はしない」



 この4つの条件をのんでくれるのなら連絡先を教えても良い、と告げると、「ごめんね」とまた謝られた。これだけ念を押せば遠回しでも先輩に私の意図は伝わる・・・はずよね。



 でも、正直私がこの話をお断りする理由も道理もない。


 酉水すがいだってちゃっかりしてるんだもん、私にだって1つや2つの浮ついた噂があったって良いはずよ。


 これまでの悶々に対するへの当て付けのように、そうやって自身を丸め込んで納得させることにした。




 最後に、何の気なしに「部活やってる人なの?」と彩に訊くと、「確か陸上部だったかな」と返事が返ってきた。



 陸上部かぁ・・・妙な因縁でもあるのかしら。


 またレースに発展したりと、色々と面倒事にならなければいいな、とこの時私は祈った。


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