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2話目 庚申妃紗は左手を差し出す

夕方か夜にもう一話更新します。庚申だけに

 夕方の河川敷沿いをかれこれ1時間走りっぱなしの酉水の背中に文句をふっかけてみる。これは息が上がった今なら何も言い返せまいという姑息な作戦。



「私さ、今日アンタについての質問責め被害にあって迷惑したんだけど」


「あっ?」



 前を走っていた酉水は走る速度を緩めて、後ろで自転車を漕ぐ私と並行した。



「僕も、妃紗の、ことについて、質問、されたから、お互い、さまっ」


「ほほう」


 切れ切れかと思っていた息は、まだ喋れる程度に余裕があるみたい。明日から更に走る距離増やしちゃおっかな♡



 そこから彼はペースを上げてグングンと前へと進んで、ある程度走るといつもの公園で小休憩を取る。


 休憩もそこそこに遊具を使って懸垂や腹筋などの筋トレを一通りこなして、また軽く走って解散。酉水の親の帰りが遅い時は、そのまま私が彼の家で愛のタンパク質料理を作ることもある。


 それにしても、本当に凄い運動量でビックリする。そこら辺の部活をしている人よりよっぽど身体を動かしているかも。


 この「デ部」を始めた当初なんか2キロのウォーキングから始めたのに、今となっては1時間以上もずっと走っている。


 すぐ暗くなる冬の日が短い時期なんかは、茹で上がりみたいにスウェットから湯気を発して今にもシャドーボクシングを始めそうなくらいストイックなんだから。シュッシュって。



 最後は自転車を押して、私の家の前まで並んで歩きながら無駄口を叩く。遠足みたいに、帰るまでがトレーニングみたいに。



「妃紗もさ、いい加減この習慣に付き合わなくてもいいぞ。どうせサボらないし、毎日このくらい運動しないと寝付けないんだ」


「お言葉ですけど、私も自転車を漕いで運動してるし、これをしないと寝付けないんですぅ」


「ありがたい事ですこと」



 心の籠もっていない謝辞にイラッとしちゃった私は、再びちょっかいを出す。



「そういえば、アンタはクラスの人になんて言われたの?私のことについて」


「名前、血液型、交際経験の有無、性格エトセトラ」


「もういいや。私と一緒」つい苦笑いを挟んで、「こうなるって思ってたけどね」と言う。


「そりゃ、同じ中学から2人しか入学してないから色目で見られても仕方ないよ」


「3人だけどね」



 大事な幼馴染みが欠けている旨を指摘すると、酉水は「うげっ」、と渋茶を口に含んだように顔に皺を作った。



「そういえばそうだった」


「私は学校であの子を見かけないけどアンタは?」

 

「僕も見かけない」



 彼は首を横に振った。そう、入学生代表でみかけた入学式以来、廊下ですれ違う等であの子を見ない。


 本当にあの子はいたんだろうか、と疑いたくなるけど、周りの人から「犬爪」という言葉を耳にすると、やっぱりいるんだな、と現実に戻される。


 そうこうしているうちに私の家の前に到着した。



「お見送りご苦労!」


 わざとらしく片手をシュビっと上げると、「うん、じゃまた明日」と温厚な返事が返ってくる。


 酉水はとにかく言葉が柔らかい。ガッチガチに割れた腹筋から出てくるプニップニの言葉のギャップが面白くて、再び走り出した彼の背を遠くなるまで眺めてみたりした。



◇◆◇◆◇◆◇◆



 アイツについて、僕まで辿り着くのが想像より早くて情報網に感心した。



「おいおい、あの犬爪純礼と一緒の中学だったって何で早く言わなかったんだよ!?」


 巳造が教室で大きな声を張り上げる。周囲には多くの男子生徒が集まっていて、重要参考人のように行く末を見届けている。入学して間もないのにこの団結力はなんなんだろう。そんな疑問は放っておいて、今は目前の問題を片付けなければ。



「特に何も聞かれなかったから、無闇に話すこともないと思って」


「あのな、近隣諸国に忖度する日本のマスコミじゃあるまいし、我が校にとっての有益な情報は隠さずに公開しておくべきだろ?」



 何について諭されているんだ、と思ったけど、「あの人とは絡みがなかったから何も知らない」と、どっちみち答える内容は変わらない。嘘だし本当の事だ。



「でもよ、何かしらの噂程度なら聞いたことあるだろ?」


「そんなに気になるなら本人に聞けばいいじゃないか」



 そう言うと、場がホワイトキックして集まっていた男子が散っていった。わかりやすいなこの連中は。


 場に残った凜菜が続きを編む。



「でもさ、あの犬爪さんって本当に綺麗だよね。答辞を読むくらいだから頭も良いんだろうし」


「そうか?凜菜も可愛いと思うけど」


「ほぇ?」



 未知の生物を目にしたように僕を見つめる凜菜。口がポカンと間抜けに開いている。その後、白寿紅のように色白の顔に徐々に赤色が差し始め、広がっていく。



「ちょ、ちょっと、普通にそんな事言わないでよっ」


「痛っ──え、何で俺!?」



 凜菜は顔を赤くしたまま、傍にいた巳造の肩を思い切り叩いて教室を出ていった。



「っか、お前よく真顔で歯が浮く事言えるなぁ」


「事実を言ったまでだけど、そんなに照れることかな?」


「・・・着衣の上からでもわかる引き締まった身体、精悍な顔立ちから繰り出す歯の浮くような台詞・・・タラシか」


「紳士と言ってくれる?」



 結局、その後にクラス内で僕が凜菜に告白をしたとかしないだとか面白話しが広まって、誤解を解くのに時間を割いてしまった。


 しかしこれも妃紗との「デ部」の成果と言える。理想の男たるもの、女の子が喜ぶ言葉を常に選ぶべしってね。


 正直、男子と話すよりも女子と会話している方がずっと楽だ。



◆◇



「とま、さっそくそんな事があったんですよ~」



 帰りの電車の中で、隣に座ってブツ森をプレイする妃紗に凜菜との一件を報告した。


 ちなみにブツ森は、森の中でサツに見つからないようにブツを売買しながらキメるゲームで、とんでもない売上を叩き出しているとんでもないゲームだ。子供にも人気だということで世の中はとんでもなく狂っている。



「あはは、私との成果が表れているじゃない」妃紗はゲームから目を離さずに答える。


「そうなんだけど、厄介事にならないか不安だよ」


「でも、おかげでモテモテね」


「んー、なんか思ってたのと違うんだよね」


「贅沢なやつ」



 ゲームに飽きたのか妃紗は電源を落とし、「ほら」と持て余して左手を僕に差し出してきた。


 いつものやつだ。周囲に生徒が紛れていないか確認をして、何にも抵抗なくその手を握ると、指の合間一本一本を絡ませて恋人繋ぎをする。勿論これも理想の男のための「女慣れ」のトレーニング。


 まだ肥満体型の頃からずっとやっているので、正面で鬱陶しそうな視線を刺してくる中年サラリーマンに心の声で、違いますから、そうじゃないですから、と言い訳をした。


読みやすいように3000文字以内に纏めるとか言っておいて、スキル不足により今後は3~4000文字くらいが多くなるかも・・・です。(大丈夫かな)

今後良い感じの折り合いを探っていきながら改善に勤めますので、ご協力お願いします(*´ω`*)


引き続き、モチベ維持のためブクマと評価にてご支援下さい^^

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