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23話目 それぞれの事情 庚申妃紗side

 結局帰るタイミングを完全に逃し、カラオケの部屋では○○高校の人達と各々の自己紹介タイムに突入していた。



 私の性格が湾曲しているだけかもしれないけど、女子同士といる時と男子が混ざっている時の女子の態度が違う子がいるじゃない。その豹変を見ると、「うわー」って思っちゃう。


 普段気が利かないのに皿やおしぼりを配っちゃったり、普段頼まないサラダをいつも頼んでいる風に注文したりとか、そんな風に取り繕っちゃうんだって。


 目の前の友達の声がいつもより少し高いから、ついそんな事を考えてしまう。




 それとなく相槌や拍手をしているうちに、私の自己紹介の出番が回ってきた。


庚申こうしんです。よろしく」



 簡潔な自己紹介を述べると、ネタだと思ったのかノリよく座っている椅子から男子がズッコケる・・・真似をした。


 ああ違う、そういうのじゃないから、本当に違うから。



 名前は確か・・・香川某だったかな、1人の男子が両手の指を私にビシっと向け「庚申こうしんちゃんクールで面白ーい」ってノリノリで言ってきたので、「どうも」と答えた。



 私は中学時代、お察しの通り酉水すがいの「デ部」の活動で、あまりこういう男女間の遊びは経験してこなかった。


 クラス全体の打ち上げには参加したけど、見ず知らずの男子と遊ぶのなんて初めて。だから、私が思っている以上に私は精神がガリガリ削られているみたい。



「次、庚申ちゃん曲入れなよ?」


 高知某がタッチパネルの機械を手渡してきた。話しを聞くと1個上の先輩なので、無理に断れずに仕方なく機械を操作することにした。



「何の曲いれんの?」



 画面を見ようと高知某がテーブルの向かいから身を近づけてくる。


 私なりの精一杯の笑顔を作り、「内緒です♪」と微笑むと、「えー教えてよー」と高知某も満更でもなさそうだった。普段サバサバとした私にもこれくらいの演技は出来る。



 無難なヒット曲を歌い終わると、大袈裟な拍手喝采が沸き起こる。香川某は指笛まで吹いているし。



「歌めっちゃうまいねー」


 そのベッタベタの整髪料をつけたアシメントリーの香川某がよいしょしてくる。



「いえいえ、普通です」


「謙遜しちゃって~」


「あははは」




 こんな感じで心を殺しながら時間をやり過ごす。


 あと、○○高校の人達の話しを聞いていたんだけど、この人達は自慢や見栄で自分を飾るのが好きみたい。


 例えば、この眼鏡は数万円もするだとか、従兄弟が俳優業をやってるだとか、千代田区のタワマンに住んでいるだとか・・・「それで、あなた達が成し遂げた功績はどこにあるの?」って、喉元に留まっていた問いかけたい衝動を抑えるのに必死だった。



 その話に、自身の「努力」が含まれていない時点で私にとっては価値のない話題なの。



◇◆




 女子トイレという名の作戦会議室で元凶である彩に詰め寄る気力は既に無くなっていて、いかにしてストレスを減らして耐えるかに思考はシフトしていた。



 その彩は能天気に私へ言う。



妃紗ひさこういうの嫌いかと思ったけど、楽しんでるみたいでよかった」


「そう見えるとしたらアンタ眼科行ったほうが良いわよ」



 取り繕う真似はしないで、この際だからバッサリと斬りつける。



「でも、別に酉水すがい君と付き合ってないんだからいいでしょ?」


「アイツと今の状況は関係ない。もともとあんまり知らない人と騒ぐの好きじゃないだけ」


「ふーん」彩は訝しげな視線を私にぶつけ、続ける。「本当はもう付き合ってるとか?」


 腹の探り合いをする気はないので、「さぁ、どうかしらね」とトボけた。





 180分という忍耐の時間が流れ、私はようやくカラオケから解放された。


 皆で店を出て、「これからどうする?」みたいな、その場に留まるグダグダな空気になったので、私はそろそろ帰ることを決意する。



 時間は夕方前。


 今から帰れば家の夕飯には間に合う。



「今日はありがとうございました!とっても楽しかったです♪」一礼した私は「それじゃ」と有無言わさず駅へと歩いた。



 日中の熱気が逃げること無く繁華街に留まり続けていて、ジメッとした熱気とこの街に漂う欲が肌にまとわり付いて不快。



 それよりも不快なのは、あのカラオケの部屋の濃密な空気がまとわり付いていると感じる事。



 早くシャワーでも浴びたいと考えていると、後ろから急に肩を叩かれた。


 驚いて振り返ると高知某がわざわざ追って来ていた。


 うげ、と心の中で苦玉を噛み潰す。



「あのさ、良かったら連絡先交換しない?」


「私とですか?」



 一応訊いてみると、高知某は頷いた。



庚申こうしんちゃんのどこか一歩引いてる感じが目に留まって、それで気になっちゃった」


「・・・はぁ」



 頭の中では某掲示板の「で、でたーw俺、私、実は気づいてました奴~ww」みたいなネタが再生されたけど、現実の状況は穏やかじゃないわね。


 実は酉水すがいには話していないけど、中学2年の時に男子に告白されたことがある。


 信じられない事に、「お前みたいなのがあんなダサい奴と一緒にいるなんて意味わかんねぇよ」って言うもんだから、答える義理すらなく無言で立ち去ったけど。



 その時以来かな、こうしてあからさまに好意を向けられたのは・・・。


 ふと、アイツの顔が頭をよぎった。どうしてこのタイミングなのよ全く。



 自然と頬が緩み、編み込まれていた糸が解けるように口元が綻び、逆に目尻は下がった。


 高知某も私の表情を見て、期待の眼差しを向けてくる。


 だから私はハッキリと告げた。




「ごめんなさい」



 立ち尽くす高知某に心の中でもう一度謝罪をして、私は駅へと再び歩き出した。


 ヒナが巣立たない親鳥は、巣立つまでは面倒を見続けるのが義務。

 だから、今は他のことにうつつを抜かしている場合じゃないの。



 帰りの電車に揺られ、今日は亮と一緒に過ごしていたであろうアイツの間抜け面を想像し、少し吹き出す。


 それと同時に、高知某に触れられた肩が不快に疼いた。

 別に潔癖じゃないんだけど、この不快感はシャワーじゃ落とせない。



 最寄駅で降りた私は、スマホからLINE画面を開いて酉水すがいに連絡を入れた。

夕方頃に「野郎どもside」を投稿します

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