13話目 初めてのハイタッチ
夜にまた投稿します
球技大会まで数日と迫った今日、本番前に3組合同の体育の授業が行われ、酉水は出場するバスケの試合に臨んでいた。
言わば球技大会前の前哨戦といったところかしら。相手は私の所属する3組が相手で、その私はコートの脇で友達と一緒に試合を観戦している。
アイツは175センチという、なんとも言い難い長身を武器にコートを駆け回り、違う意味で猛威を振るっていた。
例えば・・・・
「マイボマイボ!!」
事あるごとにアイツが叫んでいるけど、ゴール下でパスをもらおうとする時も叫んでるし、ちゃんと意味わかってるのかしら。
「オフサイオフサイッ!」
これは私のクラスのチームがロングパスで速攻をしかけた時にアイツが審判にアピールしていたけど、バスケにオフサイドはない。
「ヘイ!バックホーム!」
これに至ってはもう意味不明。
「───おいおいちょっと待て」
一緒にプレイをしていた友達のイケメン君が見かねて試合を止め、アイツは「ん?」とキョトン顔を作った。
「どったの?」
「もしかしてお前さ、バスケのルール知らないだろ」
「え、なにか間違ってた!?」
イケメン君が長いため息を吐いて、味方も敵も同じようにため息をつき、失笑と哀れみの目を酉水に向けている。
「うわぁ、そっからかよぉ」
落胆の色を滲ませたイケメン君が、コートの真ん中で崩れ落ち、コート内は笑いに包まれる。
見ている私は恥ずかしくなり、目を背けたかったけど、隣に座っている友達に肩で肩を突かれ、「妃紗の例のお友達、面白いね」と言われてしまう。
「・・・少し抜けてる部分はあるかな」
「でも、完璧にみえて抜けた一面があるって、ギャップがあって可愛いよね」
「可愛い?アイツが?」
私から言わせてもらうと、抜けている部分は小中学時代の名残というか灰汁みたいな部分で、私の育成不備を意味している。だから、「可愛い」という評価は副産物みたいなものね。
「いいなぁ妃紗は。私にも酉水君みたいな華やかな男友達が欲しい」
子供みたいにだだをこねる友達に、試しに「だったら自分で育ててみたら?」と答えると、目を見開かれ「そうなったら友達じゃなくて私のモノにするわ!」と一喝された。
「そ、そうね、そうよね」
どうしてか苦笑いしか出なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕は・・僕と妃紗は技術面ばかりに意識がいってしまい、そもそものルールの確認を怠っていた。
つまり僕だけの失態ではないと主張する。という事で、僕は帰りの電車内でバスケと野球のルールを読み漁っていた。
電車内は混んでいて、つり革に掴まっている僕の正面に座っている妃紗が、クラスの連中から散々言われた台詞を吐く。
「まさか基本のルールさえ知らなかったとは想定外ね」
「知らなかったんじゃない、誤解してたんだ」
右も左もわからないのであれば僕だって片意地なんて張らないけど、間違っている事にも気づかなかったんだから仕方ない。やっぱ個人競技が一番かな、団体競技は荷が重すぎる。
「それにしても、試合私も見てたけどアンタ相当に面白かったわよ・・・・クククッ」
「うるさいなぁ」
最後は耐えきれずに腹を抱えて妃紗が笑うけど、とっくにクラスの連中に笑われてるよ。死体蹴りだから痛くも痒くもない。心が痛い。
クラスでも僕は謎のキャラとしての地位が高まり、「掴みどころがわからない残念なイケメン」と凜菜に称された。
「でもね、周りの子は『可愛い』ってキャーキャーしてたよ」
「うわ、出た、女子特有の『可愛い』。それってただ馬鹿にされているだけで、○○党と同じくらい信用できないね」
「どうしてそう捻くれてるのよ。ギャップがあって可愛いだとさ」
「ギャップ・・・つまりはメッキが剥がれてきてると」
「言い換えればそうね」
「ま、いいけど」
でもね、と正面に座る妃紗が低い目線の位置から僕を上目遣いで捉えると、こう口にした。
「まぁでも、私も少しは可愛いって思ったかな」
「マジか、じゃあ僕少し可愛いじゃん」
妃紗が言うんだから本当なんだろうなぁ。
◇◆
なんだかんだで二日間にわたる球技大会は特筆する事無く終わった。
所詮1年生の球技大会なんて先輩に華を持たすための接待でしかないしね。
僕はあくまで恥をかかないように練習をしていただけなので、勝敗について頓着するつもりはないし、クラスのみんなも似たような士気だった。
閉会式を終え、帰宅の準備を進めていると、クラスの1人から球技大会の打ち上げに誘われた。
「酉水って誘ってもいつも断って帰るよなー」
「・・・ごめん」
「マジ謝りやめて?」
僕は放課後になったらすぐにいなくなるキャラに定着しているので、基本は遊びや寄り道に声はかからない。
あーちゃんとか「デ部」とかで忙しいしね。あと、忘れがちだけど「競歩ガチ勢」の設定にもなってるし。
でも、今日は親の仕事が休みなので、あーちゃんのお迎えは不要となり時間の都合がつく。
「今日はいいよ、時間あるから」
「マジ!?」
そいつは「ウェーーーイ!!酉水来るってよぉぉ!!」と、音響でも調整しているのかと思うくらい通る声で叫んだ。
すると、鳴き声に呼応する動物みたいに「ウェーーーーイ!!」と周囲が騒ぎ、僕はハイタッチを求められた。今まで無縁だったノリの世界だ。
ま、たまにはいいか。こういう付き合いって大事だしね。
という事で、妃紗に今日のトレーニングは無しとLINEで連絡をして・・・・。
「東君も来るんだね!」
「お、凜菜も参加?」
「うん!もう西が先に場所抑えに行ってるよ!」
「マジか!」
「うん!」
「ウェーーーーイ!」
僕は学習する生き物なので、例のパリピのノリで凜菜にハイタッチを求めると、凛菜はウサギみたいにぴょんと跳ねながら「いえーーーい!」と可愛らしいタッチを返してきた。
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