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10話目 軽やかな空気と足取り 上

『明日から登下校は別々にするべし』



 5月の連休明けの登校日初日。


 陰鬱な表情のサラリーマン達に紛れ、僕は肉塊がひしめく満員電車に1人で牛だけにギュウギュウに潰されていた。



 昨日の夜の深い時間に、何かしら指令書か宝の地図の在り処を示すヒントみたいな内容のLINEが妃紗ひさから届いた。



 連休の初日こそ、妃紗ひさに色々と苦言を呈されたけど、それから数日は特に変わった様子がなかったので、このLINEはまさに不意打ちに思えた。



 理由を求める内容の返事を返してみたけど、結果を先に述べると教室へ到着するまで既読はつかなかった。




 教室に入ると、少し無沙汰な東西コンビ(笑)の片割れである巳造みつくりが、「おっす!」と声をかけてきた。



「うん、おはよう」


「お前、連休は何してたんだよ?」


「特に・・・家の事とか?」


「実家が自営業なのか?」


「いや、どっちかって言うと奉仕活動かな」



 そう言うと、「ヤバい宗教でもやってんのか?」と休み明けから心にもない事を言われた。



「あのね、俺の妹はこの世で最も崇められなければいけない尊い神様兼天使兼Angelなんだ」


「天使とAngelの意味被ってるんだが・・・」



 僕の剣幕に息を呑んだ巳造がおずおずと言うも、僕の頭は既に切り替わっていた。


 一限目の授業を終えてすぐ、巳造みつくりを強引に連れて妃紗のいる3組を目指した。どうして巳造も一緒かと言うと、1人で訪ねる勇気がないからだ。悪いか。



「お、おい、どうしたんだよ」


「何も言わずに傍にいてくれ」


「の、のぼるきゅん・・・・」



 うっかり廊下でプロポーズをしてしまったが、乙女漫画みたいに目をでっかくした巳造みつくりがその瞳を輝かせていた。


 3組の教室に到着すると、巳造に「『庚申こうしん妃紗ひさいますか』って誰かに聞いて」とお願いもとい命令をする。



「なんで俺が!?」


「いいから、はやく」


「お前そんな我が強かったっけ?」



 戸惑いと驚きの色を踊らせながらも、巳造みつくりは大声で「庚申妃紗いますか!」と一字一句違えず大声で叫んだ。


 凄い・・・臆する事無く平然と注目を浴びるなんて、これが本当の意味でのカースト上位者なのか・・・。


 3組のクラスの全員が巳造みつくりに振り向いた。その巳造は、ドア付近に立っていた女子にもう一度同じことを言った。



妃紗ひさならさっき教室から出ていったけど・・・」


「だってよ」



 女子生徒の証言に、巳造みつくりが背後にいる僕へ報告すると、それに気づいた数人の女子が色めき立つのがわかった。


 その1人がそのままこちらに寄ってくると、巳造を飛び越えて僕に直接話しかけてきた。



「あの、妃紗ひさがマネージャーやってる足の速い人だよね?」


「うん。酉水すがいのぼるといいます。失礼だけど、名前聞いてもいいかな?」


「あ、えっと、乙武おとたけです」


「苗字だけじゃなくて名前も聞いていい?」


「え?あ、あや、です。乙武おとたけあや


「彩ね・・・あ、ごめん、呼び捨てしちゃった」


 少し照れを意識して微笑んでみると、彩さんに「ぜ、全然大丈夫ってかむしろ大歓迎」とまくしたてられた。



「そういえば、彩は妃紗ひさとは仲が良いの?」


「は、はい、そうですけど」


「そうなんだ。今後とも宜しくね。今日は別に大した用事じゃないから、僕たちはこれで失礼するよ、ありがと」



 それじゃ、と手を振り3組を後にした。すぐに背中で「ヤバーーい!!」という声がしたけど、まぁ気にしなくていいか。

 


「お前さぁ・・・」呆れ果てた声で巳造みつくりが言う。「凜菜の時もそうだけど、女と話す時だけ露骨にキャラ変つーか、豹変しすぎじゃね?」


「『デ部』の活動で練習させられたからね」


「意味わかんねーよ、マジで。一体何人の女食ってきたんだ?」


「0」


「は?」


「0」


「は?」


「0!」


 余程信じられないのか、それとも僕の伝え方が悪いのか、巳造みつくりは言語を奪われたかのように「は」とだけ繰返す。


 古いアナログテレビを叩く要領で、もっと直接的な言葉で叩いたら直るかな。



「童貞だよ、俺」


「うっっそだろ!?」


「うぉ!?」



 作用効果が大きかったようで、巳造の大きな声が廊下の端と端にまで木霊する。



「ちょっと、声が大きいよ」


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、だって!?だってよ!」


「そんなに意外?」


「『意外?』じゃなくて、な、本当は嘘なんだろ!?」


「俺が昔デブだったって、少しは信じてくれた?」


「いや・・・」



 巳造はまだぐるぐると疑惑が渦巻いているようで、「いや、しかし、でも」とぶつぶつと言っていた。


 そんなに童貞か非童貞かって大事なのかなぁ。まぁ、中学のときもヤッたのヤラないのって話しで盛り上がっている連中もいたからなぁ。


 その時は妃紗ひさに「あんな連中みたいなゲス共には絶対なるな。なったらお前を殺して私も死ぬ」って脅されたっけなぁ。なんだか寒気がするけど、あれ冗談だよね。


 自我を取り戻した巳造は、「そういえばよ」と話を変えてきた。



「あっさり引き返したけど、『庚申妃紗』に用事があったんじゃねーの?」


「あぁ、うん、大丈夫。もう用件は済んだし、それに餌は十分に撒いたから放課後あたりにあっちから食いついてくると思うよ」


「済んだ?餌を撒いた?食いつく?」


「むふふ、こっちの話」


「・・・・やっぱお前意味わかんねーわ。得体が知れない」



 得体なんかたかが知れている。元肥満体型で妃紗にシゴかれてダイエットに成功した「年齢=彼女いない歴」の出遅れた男子高校生だ。


 今は妃紗ひさが登校しているってだけの確認ができてれば十分だよ。



 後は、さっき言った通り、放課後を待つだけ。

 予想だと、きっと駅前辺りで待ち構えているに違いない。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 5月の連休最後の夜。


 正確には、もう時計が「0」を並べているから日付が変わった登校当日の午前。


 この連休は私にとってケジメをつける期間にもなり、今なお布団の上で悶々とアレコレ考えていた。



 私から言い出したことだけど、やっぱり高校の入学先はアイツと別にした方が良かったのかもしれない。


 だって、思ったよりも様々な弊害が既に起こっているから。


 一番はやっぱり陸上部の一件。あの事件とも呼べる出来事が、私の高校生活の行動を大幅に狭めたのは間違いないわね。


 学校を歩いていても、主に上級生から「走ってた男子と一緒にいた子だよね?」と声をかけられる。


 今の所はまだ何も起こっていないけど、火のあるところに煙が薫ると相場が決まっている。だから、早いうちに種火は消化しなくては。



 さっそくスマホを手に取って酉水すがいのトーク画面を開き、指をスライドさせて文字を綴る。 


 "私なりに考えたけど、やっぱり今のままの関係は互いに距離が近すぎるよ。互いに好きな人が出来た場合の弊害や周囲への影響を考えると、今ここで私達は一度他人に戻るべきだと思わない?私だってあーちゃんに会えなくなるのは寂しいけど、これが一番の最適解だと思う"



 ・・・内容が重い。濃厚ガトーショコラよりもずっしりと。文字だけで胸焼けしそうだわ。


 てか、痛いカップルのしょうもない別れ話かな。しかも何だかんだで別れないパターンのね。




 それに「一度他人に戻るべき」って、何を保身に走っているんだ私は。またチャンスがあるみたいな言い草になってる。



 やめやめ、もっとライトな表現で。

 例えばこう、私の姉がコンビニに行く時に「ついでにプリン買ってきて」って頼むみたいな、そんな感じに綴ろう。



 "最初の計画通り、やっぱり明日以降からは別々に他人同士で過ごさない?あーちゃんの面倒をどうするか家族で考え直す良い機会にもなるし"



 んー、なんか違う。それに、あーちゃんをダシに使ってるし最低だ私。


 やっぱり私はアイツと違って優しくもなんともないからなぁ、はぁ。



 それから何通か送る内容をしたためたけど、波打ち際の砂に書いたように、文字を起こしては消してを繰り返すだけ。そのうち私は何をやってるんだろうって自己嫌悪になってきちゃった。



 そろそろ眠気も肩を揺らしてきたし、こういう時こそシンプルでいこう。うん、そうしよう。



 いろんな事情や考えがあるけど、結局短い文字で纏めることにした。変に言葉を着飾るよりはいいと思う。



 パパっと文字を起こし送信をタップして、スマホを投げ捨てて寝付けもしないのに私は目を閉じた。



『明日から登下校は別々にするべし』


いつもありがとうございます^^

今後は完結までの土台作りで進展が遅いかもしれませんがご了承下さいm(_ _)m



また、沢山の評価頂きありがとうございます。

おかげさまで執筆の励みになっています、これからもコツコツ頑張っていきます( TДT)

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