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8話目 休日の過ごし方 中

 あーちゃんのために苦手なピーマンをミリ単位まで細かくしたチキンライスに、火を通しすぎた卵を上に乗せて愛情たっぷりオムライスが出来上がった。


 酉水すがいも軽いランニングから戻ってきたところだしご飯にする。



 酉水家は脚の長いテーブルで食事をする生活文化なので、付随して椅子の脚も長くなる。


 5才のあーちゃんが座るにはまだ大きく、床に届かない足をテーブルの下でブラブラさせていた。お行儀が悪いと注意もしたいし、その可愛らしい動きをずっと見ていたい気持ちにで板挟みになる。


 ま、教育は酉水すがい家の人に任せるとする。つまりは目の前の兄に任せるということになるけど、コイツは注意なんてするわけがないので私も共犯同然。


 舌を火傷させないように、少し冷めたオムライスをあーちゃんの前に置く。



「はい、あーちゃん、召し上がれ」


「ありがとーひーちゃん♪」



 むはっ!可愛いぃぃ!

 この魔性の女め、こいつ早くも自分の愛嬌に気付き始めたかしら、将来が不安ね。



 そんなあーちゃんの隣の席に酉水が腰を下ろすと、ファンシーみたいな夢心地が一気に現実に引き戻される。



「ほい、アンタの昼食」


「はい」



 あーちゃんと酉水すがいの昼食の献立は別々となっている。どちらかというと餌に近い。


 鶏胸肉とブロッコリーはテキトーに茹で、あーちゃんのオムライス用の卵から卵白だけを拝借して炒めたよくわからないもの。


 あとは市販のカットサラダと少量の白米、以上。愛情たっぷり低炭水化物高タンパク質メニュー。こんな昼食をアイツは何年も食べている。


 もちろん、トレーニングを始めた頃は不満爆発だった。だから、運動云々よりもまず食事の改善が必要だと、東本人ではなく私は両親に訴えた。


 それから御家族の協力のもと、週末は台所を預かり彼の食事管理の一端を担うこととなる。


 最初はコソコソと間食をするため、両親の目の届かない週末は監視の目的も含めて酉水家まで足を運んでいたけど、今となっては食事管理もストイックになったのでその心配はないかもね。



「ひーちゃん、おいしい」


「本当に?」


「うん♪」



 ただケチャップとバターと塩コショウだけで味付けしたオムライスでこんなに喜んで貰えるなんてチョロいなぁ。


 あまりに愛おしくなり、私はつい余計な事を口走ってしまう。



「ね、あーちゃん」


 犬が言語を理解しようとするように、あーちゃんは「なに?」と首を傾げる。


「そのオムライスね、あーちゃんの大嫌いなピーマンがいーーーっぱい入ってるんだよぉ?」


「ファッ!?」



 10歳くらい老けて驚愕の表情をしたあーちゃんは、「うわ、まっず、これまっず」とペッペと吐き出す真似をした。


 この仕草も可愛いんだよなぁ。追い討ちで完食を命ずると、「・・・はい」としょげた顔で返事をした。


 やっば、ゾクゾクする。



「あんまりあーちゃんをイジメないでくれる?」


「だったらアンタがピーマン抜きのオムライス作ってあげれば?」


「ぐぬぬ」



 ぐぬぬ、って本当に口にする人いたんだ。そう、コイツは壊滅的に料理が下手だ。


 以前に「モテる男」の一環として料理を作らせたけど、禍々しい泡を立てた紫色の半液体が「・・・コロシテクレ」と音を鳴らしたので、ゴミ箱に突っ込み塩をぶっかけて供養したことがある。


 私はコイツの手にかかれば、無精卵からヒヨコを孵化させることができるんじゃないかと本気で信じている。


 だから、酉水すがいの食事と管理とあーちゃんの食事も私の大事な仕事。



 けど、だからこそ不安もある。今日はきっちりその話しをつけにきた。



「あのさ、念願叶ってアンタに彼女ができたらあーちゃんの世話はどうするつもりでいるの?」


「は?」


「『は?』じゃないわよ。私もさすがに家まで来て世話なんてできないからね」


「え、なんで?」


「なんでってアンタ、彼女持ちの男の家になんて上がれないでしょ普通」


「そうなの!?」


「当たり前でしょ・・・・相手だって良い気にはならないし、立派な浮気になるでしょうに」


「マジか!え、じゃあ僕どうしたらいいの!?」



 私は一語一句を丁寧にヤスリで磨くイメージで、コイツの前に言葉を並べる。



「それを、私が、今、アンタに、聞いてるの、わかる?」


「でも、あぁ、うーん、そうか。そういう事になるのかぁ、んー」


「アンタ何も考えてなかったの?」


「考えるっていうか、そういうものだと思ってたからなぁ」


「私だってあーちゃんと会えなくなるのは嫌だけど、このままだと今まで何のために『デ部』を続けてきたかわからないじゃない」


「それは、『理想の男』になるためだけど」


「その通り。つまりはモテると同意義ってわけ。言っておくけど、私は『デ部』をただの馴れ合いで終わらせる気はないから」



 竹を言葉で割るように、ピシッと言ってやった。


 すると、いつの間にか私の横に移動していたあーちゃんに服の袖を引っ張られてこう言われた。



「修羅場?」


「・・違うわよ」


 だから、どこで複雑な言葉を覚えてくるの。

いつもありがとうございます^^

今後は完結までの土台作りで進展が遅いかもしれませんがご了承下さいm(_ _)m


また、沢山の評価頂きありがとうございます。

おかげさまで執筆の励みになっています。

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