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7話目 休日の過ごし方 上

 5月の連休といえば家族旅行なり友達と出かけたりするのが一般的とは言えないけど、大方そんな感じに過ごすのが普通なんだと思う。


 しかし、僕は家庭の事情というやつでその「大方」から除外される側にいる。



 早い時間に起床後、洗顔と歯磨きを済ませリビングに向かい、慌ただしく職場へ向かう支度をする両親を横目にプロテインを作ることから僕の休日が始まる。


 両親は共に土日の関係ない職種に勤務していて、特に週末は夜遅くにクタクタになって帰宅してくる日が殆どだ。



「それじゃ、お母さんたち仕事行ってくるから、妃紗ちゃんにもよろしく伝えといてね?」


「ほいほい、のしのし」



 ネットスラングの「ノシ」という死語を口にして言うほど、家の中ではフランクになり、僕は典型的な内弁慶と言える。


 さて、それではテーブルに座って米を散らかしながら朝食を食べている愛しの妹の面倒でもみるか。



「あーちゃん、おはよー」


「お兄、おはよー」


「うん、おはよー」



 やっべー、くっそ可愛い。また「おはよー」って返されたら無限ループに陥りそうだ。


 親がコソコソと営んだおかげで、僕には今年で5才になる年の離れた妹がいる。


 名前は(あけみ)酉水すがい あけみ


 くりくりあいいろのおめめにふわふわましゅまろみたいなほっぺにまっかなかみ。


 マズイ、妹について語ると言語能力の低下が著しくなる。


 装飾のような藍色の瞳が埋め込まれたまん丸の目、年相応に柔らかそうな白い頬、遺伝子ガン無視の赤い髪、あとはソバカスさえあればリアル赤毛のアンといったまさに完璧な妹像。


 僕が(のぼる)で妹が(あけみ)。まさにこの世を照らす東南の事実最強コンビだ!


 ・・・え、東西コンビ?なにそれ聞いたこと無いんだけどマジないわー。



 家族構成は両親と僕と南の4人家族で、都内某所の3LDKのマンションで暮らしている。


 共働きの両親に代わって休日は妹の面倒・・・じゃないか、ご奉仕をさせて頂く日なので、少しだけ妹思いの僕にはボーナスステージなのだ。



「ほら、ご飯が散らかってるからキレイキレイに食べましょうね~」


「たべましょうね~?」



 インコみたいに僕の言葉をニッコリと微笑みながら真似をするあーちゃん。むふふ、やっべ、誘拐したい。こんな檻の中じゃなくどっか遠くに連れてって拉致監禁したい。


 あーちゃんのご飯の様子を視姦、じゃなくて観察、じゃなくて見守ってから後片付けをする。これだけで至福。


 だが、なんとこれから更にご褒美が待っている!



「お兄、おうましてー」


「おうまするするぅ」



 あーちゃんに言われるがまま、腕立て伏せの体勢になるとぴょんと背中に飛び乗ってくる。


 そのままお馬さんごっこが始まるのだが、膝を床につけないで移動する筋トレを兼ねた一石二鳥の遊びなのだ。背中にのしかかるあーちゃんという愛の負荷に、全身の細胞が喜びに打ち震えている。


 その後も肩車をしながらスクワットをしたり、お姫様抱っこをしながらバーベル代わりにしたりと昼近くまで充実した時間を過ごす。


 もうね、フィットネスクラブに置いてあるバーベルを全て妹にしたら色々と捗ると思う。これは妙案だ。


 妹と筋トレをしながら戯れていい感じに体が温まった頃、狙いすましたタイミングで家のインターフォンが響いた。


 時間を確認すると、確かにそろそろ来る頃合いの時間なので来客を家の中に招いた。



「こんにちはーあーちゃん」


「ひーちゃーん!」



 あーちゃんが来客である妃紗にタタっと駆け寄って飛びつく。

 やーん。あーちゃんの相乗効果で妃紗までキラキラ可愛く見えてくるのが不思議。



「いつも悪いね」


「何を今更。私があーちゃんに会いたいから来てるようなものだし」


「それなっ!」


 我が酉水家を訪れるには十分な理由、ってかそれしかない。妃紗の言う通り本当の理由なのだ。




 少し遡って中学時代のお話。


 僕が中学1年の頃はあーちゃんはまだ2才。


 「デ部」を始めるうえで、ある障害が立ちふさがった。


 それは土日のあーちゃんについて。


 皆さん既にご存知の通り「デ部」は法事とお盆年末年始以外には休日がないブラックな部活動だが、土日はどうしてもあーちゃんの奉仕をしなければいけない。


 そうするとトレーニングどころではなくなってしまう。僕としては休養日が出来て助かるけど、それを良しとしない妃紗がさらっとこう提案した。



「それじゃ私が代わりに妹の面倒見るからその時間にランニングなり筋トレなりしてきなさいよ」



 当初は大事な妹を取られてなるものかと警戒し、「どうせ懐かないけどなっ!」と思っていたけど、あっさりと妃紗に懐いて結構ショックをうけた。


 こうして休日は昼前に訊ねてきて、あーちゃんと僕の昼食の支度をして、夕方まであーちゃんと過ごすという流れが定着した。


 結果的に助かった。僕は料理その他の家事が壊滅的だから。妃紗が唯一匙を投げたトレーニングが「家事」。


 得体のしれない僕の手料理をあーちゃんに食べさせている事が発覚し、それ以降は昼食は妃紗が用意する流れになった次第だ。


 もちろん都合の悪い日もあり毎週というわけにはいかないけど、かれこれ3年間継続していて既に両親公認となっている。



「それじゃ、ちょっと走ってくるからあとよろしく」


「はいはい、頑張ってきてね」


「お兄、ばいばーい」



 昼食ができるまでの間、僕はあーちゃんを妃紗に任せて安心してランニングをする事ができる。



◇◆◇◆◇◆◇◆



「お兄、行っちゃったね」


「いっちゃったー」


「それじゃご飯作るからね?」


「はーい」



 2人きりになり、あーちゃんの陽だまりのような笑顔を独り占めする。本当に酉水東の妹なのか、と疑いたくなるほどに可愛い。


 アイツほどじゃないけど、それでも頬の筋肉がゼリーみたいに緩んでいくのがわかる。


 ご飯、と言っても私だって料理は自慢できるほどの腕前を持ち合わせてはいない。ただ、アイツに任せるよりは数億倍マシってレベル。



「あーちゃんは何が食べたい?」


 私がリクエストを訊くと、コテッと頭を斜めにしたあーちゃんは、クルミ割り人形みたいに口をパカッと開けた。



「オッソブーコ」


「お、おっそ?」



 慌ててスマホで検索をかける。どうやら仔牛の煮込み料理らしい。どうしてか、あーちゃんは昔からこうして私の知らない料理名を口にして困らせてくる。


 以前にアイツに、「あーちゃんに余計なこと吹き込まないで」と注意したけど、ポカンとしながら知らないと答えた。


 反応からするに本当に知らないみたいだけど、それじゃどんな経緯で「オッソブーコ」という単語が5才児の口から出てくるのよ。



「んー、ごめんね、材料がないからオムライスで良い?」


「うん、ひーちゃんのオムライスおいしい!」


「ふふ、ありがと」



 これもいつもの流れ。捻くれているところがアイツと似てなくもないけど、そこがまた可愛いンだわ。


 思わずうっとりとしながら謎に赤い髪の毛をくしゃくしゃすると、「きゃー」と悲鳴をあげながら私にぎゅっと抱きついてくる。


 やっべ、めっちゃ尊い。拉致して監禁しても良いかな。嬉しいし至福だけど、これじゃ料理が進まないわ。



「それじゃあーちゃん、ブツ森して待っててね?」


「うん」



 天使のあーちゃんとはいえ、やはりイマドキの子。You Tubeかゲームを与えればすぐに大人しくなる。


 ただ、見ているYou Tubeの動画がキッズ向けじゃなく、ジギングのイカ釣りやおっさんの一人旅系の動画なのは如何なものなのか。


いつもご覧いただきありがとうございます。

まだ10話ときちんと物語も始まっていませんが、多くの反響を頂き恐縮しています。


すごく励みになっておりますので、新章が始まりましたが応援宜しくおねがいします。


また、誤字脱字報告、いつもありがとうございます。

大変助かっておりますし、ご迷惑をおかけして申し訳ない気持ちです・・・。


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