第4話 力の発露
目の前に刀が迫ってくる。そんな非現実的な光景を前に亮子は何もできなかった。
(これは死んだかな)
そう思った瞬間、辺りが白黒になり目の前で刀が止まった。
「そう簡単に死んでもらわれては困りますね」
その声は忽然と現れたゲートキーパーの仮面の下から発せられたものだった。
「やれやれ、やっと後継者を見つけたと思ったら。なんて面倒な事に巻き込まれているんですか、あなたは」
ゲートキーパーは呆れたようにため息をつく。
「何であんたがここにいるの?」
亮子は呆然と呟く。
「まぁ、それはともかく時間が無いので用件だけ簡単に聞きますね。あなた、このまま死んで本当にいいんですか?」
「それはちょっと嫌かな」
「くくく」
ゲートキーパーはくぐもった笑い声をあげる。
「ちょっと!?ちょっとですか!!生物とは死ぬのを本能で恐がるものと思っていましたが、いいでしょう。助かりたいなら私の後をついでにゲートキーパーにおなりなさい。ゲートキーパーは時と空間を操ります。この程度ではまるで問題にならないでしょう」
「ゲートキーパーになる?」
「ええ、ゲートキーパーとは時と空間を操り、全ての世界の調和を図るもの。あなたには時と空間を操る素質と操るための魔力があります」
亮子は目を瞑ってしばらく考えこんだ。そして、目を開けた。
「正直な話。世界の調和だとかはまったく理解していないけど、取りあえず、今を生き残らなくちゃ何も始まらないし」
「では?」
ゲートキーパーの問いかけに亮子はしっかりと頷く。
「うん。ゲートキーパーになるよ」
「わかりました。では動かないでいてくださいね」
ゲートキーパーはそう言って自分の胸に手を当てると手に金色に光る球状の物質が現れる。その球状の物質はゲートキーパーの手を離れ亮子の胸に吸い込まれ、跡形も無くなる。
「これで、あなたは時と空間を操るための素質と操るための魔力。そして、今それを外に出す手段を手に入れました。では時の流れを元に戻します。また、後であの場所で会いましょう」
そう言ってゲートキーパーは姿を消した。その瞬間に世界に色が戻った。刀は既に目前に迫っていた。しかし、亮子は落ち着いていた。自分がどうすべきかを生まれる前から知っていたかのように知っていたからだ。光が体に入った瞬間から自分の中の力と使い道を理解した。
リュカの目には何が起きたのかまるで分からなかった。ただ、目の前にいた少女が突如として消え失せた事実があった。
「これが、ゲートキーパーの力」
呆然とした声に振り返ると少女はそこにいた。しかし、先ほどまでの少女ではなかった。魔力が体から吹きのぼり、顔には奇妙な仮面がついている。
「何をした?」
警戒して聞くリュカに亮子は黙って手を向ける。
「あなたは、この世界に居てはいけない」
亮子が誰に言うでもなく呟く。するとリュカの体が手、足から次第に欠けるように消えていく。
「なんだこれは」
自分の体を見て戸惑った声をあげるリュカ。その声に亮子の冷静な声が被さる。
「心配しなくてもいいよ。あんたの世界に送り返すだけなのだから」
「なにっ!?そんな事が?」
「それがゲートキーパーの力」
そして、リュカは消えた。残された亮子は辺りを見回す。そして亮子もその場を去った。向かったのはあの駅だ。駅ではゲートキーパーが待っていた。
「ようこそゲートキーパーの世界に」
そう言ったゲートキーパーは確かに笑っていた。