第3話 真実の欠片
亮子は深いため息をついた。結のいそうな場所を一通り見て回ったが、結の姿は無かった。結のいない世界は輝きを失ったようだった。自室に籠もり携帯を握り締め連絡を待ったが一向に鳴る気配は無い。
「何処に行ったのよ」
亮子の呟きに答えるかのように携帯が鳴った。ディスプレイを見ると結の一文字。慌て携帯に出ると間違えようのない友の声が聞こえた。
「もしもし、亮子?今、ちょっと出れる?」
「出れるって何処に?」
「ため池公園」
ため池公園とは亮子の家から5分ほどのところにある小さな公園である。
「出れるけど。今まで何してたの?」
「それも合わせて全部話すからとにかく来て」
ただ事じゃない様子に亮子はコートを羽織って家を飛び出した。結は公園の中心の辺りに立っていた。
「結!!」
亮子が呼びかけると結は顔を上げて亮子に笑いかける。
「悪いわね。呼び出しちゃって」
いつもの結がそこにいた。黒い髪を肩口で揃えて全体的に落ち着いたイメージを見た人に与える。
「で、何があったの?」
亮子はそれだけ聞いた。それだけ聞けば結は全部話してくれると信じていたから。
「簡潔にいうと私は、この世界の人間じゃないの」
亮子は右手の平で頭を抱えた。
「信じられないでしょうね」
結は頭を抱える亮子の姿を見てクスクスと笑い声を洩らす。
「それで?続きは?」
「実は私はその世界の王女様でね。近いうちに帰らなくてはいけないの」
馬鹿馬鹿しい話だったが亮子は結が本気で言ってると直感的に感じた。
「近いうちっていつ?」
亮子の問いに結は悲しそうな表情を浮かべる。
「今日、後少ししたら迎えが来るはず」
「何で、もっと早く言ってくれなかったの?」
「私も昨日、聞いた話だったから」
「どうしても行くの?」
「うん」
「じゃあ、しょうがないな」
亮子はスッと肩から力を抜いた。
「亮子?」
「あんたがそこまで自分を通そうとするなんて始めてじゃない。そこまでいうなら自分のやりたいようにやれば良いよ」
亮子の言葉に結の目から涙が溢れた。
「亮子!」
飛び込んでかた結を亮子はしっかりと受け止める。
それから十分後、二人は公園のベンチに一緒に座っていた。
「来た」
結が突然、つぶやくと空に妙な渦巻きが生まれる。そして六つのコートのような服を着た人影が二人の座るベンチを囲むように降り立つ。
「お久しゅうございます。姫様」
リーダーらしき大柄な男が結にひざまずく。それを真似るように他の人影も同様の恰好をとる。
「顔あげて」
結が言うと男は短い返事をして顔を上げる。40代ほどの精悍な顔が結を真っ直ぐに見つめる。
「では、姫様。早速、参りましょう」
男は結の手を取る。そして、亮子の顔を見た。その途端、男は結を抱きかかえ飛びすさった。
「貴様!!何者だ」
突然の出来事に亮子は目を白黒とさせた。
「ジャック!!急に何をするの。その人は私の友人よ」
結が慌てて男、ジャックに言うがジャックは警戒を緩めようとはしない。
「その気配はこの世界のものではないな。我々と同様に異世界のものだろう」
「そんな筈がないでしょう」
結は助けを求めるように周りを見るが他の5人の間にも緊張感が流れている。
「隊長。ここは俺が。早く姫様を連れてってください」
「分かった。リュカ頼んだぞ」
名乗り出た赤い髪をした青年以外の姿が次第にぼやけていく。
亮子、そう結の口が動いたように見えたが亮子に声は届かなかった。そして、亮子とリュカという赤髪の青年だけが取り残された。
「で、お前はマジで何処の世界から来た?テレジかオーリスか?」
リュカが尋ねてくるが当然、亮子には何がなんだか分かっていない。
「えっと、私は正真正銘この世界で生まれ育ったんだけど」
戸惑いながらも亮子が答えるとリュカは鼻で笑う。
「そんな嘘が通じるか。この世界でそんな濃密な魔力を持ったやつがいる訳がない」
「魔力って何の事?」
「あくまでもしらばっくれるか。まあいい。力ずくで吐かせてやる」
リュカが腕を突き出すと一振りの刀が現れる。それを握るとリュカは間合いを詰めると振り下ろした。