第2話 消えた友
あの後、すぐに家に帰った。昼前だったが母親はやはり何も言わなかった。分かってはいたが軽い落胆を感じて亮子は二回にある自室に戻った。ベッドに寝転がるが頭の中からあの場所のことが離れることはなかった。
そのまま何もしないうちに日は傾き夕方になっていた。小腹がすき始めた頃、携帯が鳴った。ディスプレイには結と表示されている。この、一週間は無視していたが今日は誰かと話したかった。
「亮子!!今、何処!?」
通話ボタンを押した途端に結の大きな声が鼓膜に響いた。
「えっと、今は自分の部屋にいるけど」
あまりの剣幕に戸惑いながら亮子が答えると携帯の向こうから大きなため息が聞こえてくる。
「えっと、どうかした?」
「どうもこうも無いわよ。部活の時に由香ちゃんに話を聞いて、心配して、すぐに電話したら本人はのんびりと家にいるっていうんだもの」
「由香ちゃんは何て?」
「ううん。別に。ただ、亮子先輩の様子がおかしいって」
「由香ちゃんにまで心配かけちゃったか」
「何を今更。一週間も休んでおいて」
呆れた声が響く。
「うん。ごめん」
「私は別にいいけど月曜にちゃんと学校に来て謝りなさいよ。それと、ちゃんと部活も来ること」
「ねぇ、結。もし私がいなくなったらどうする?」
考えるより早く亮子の口から言葉が出ていた。
「なに?まさか本当に何かあった?」
結は心配そうな声で聞いてくる。それが何だか可笑しくて亮子は声を上げて笑った。
「何よ。もう」
憤慨した結の声が聞こえたが笑いは止まる気配を見せなかった。
「もう、いいかしら?」
亮子の笑いが収まった頃を見計らい結が声をかけてくる。
「ごめん。ごめん」
その後、しばらく取り留めの無い話をしてから亮子は電話を切った。私はまだこの世界で生きていける。そう亮子は思った。
その結が失踪したという話を聞いたのは2日後の一週間ちょっとぶりの学校でだった。失踪といっても前日から家に帰っていないということだったが結がそんな事をしたことは無く、結構な問題になっていた。そこで、結と仲が良く、尚且つこの所の品行の怪しい亮子が話を聞かれる事になった。
亮子は放課後に部活の顧問と学年主任の二人から問い詰められ解放されたのは6時を過ぎていた。
部屋を出ると由香が立っていた。
「先輩、大丈夫でしたか?」
心配そうに尋ねてきた由香の頭を撫でる。
「心配してくれてありがとう由香ちゃん。私は大丈夫なんだけど。結がねぇ。由香ちゃんは何か聞いてない?」
由香は黙って首を横に振る。
「そっか。じゃあ今日は帰りな。大丈夫。結は絶対に帰って来るから」
由香は亮子の言葉に頷いてから亮子に背を向けて歩いて行った。