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重装甲機械獣カメクロス

作者: MOZUKU

地球と月の兎との戦いは最終局面になり、月の兎の女王であるルナは、愛機である兎人型兵器カグヤに乗り込み、戦局とは関係の無いエリアで一人の男を待っていた。

地球に月を落とす、それによって地球を破壊するのが月の兎の最終作戦であった。その結果、地球と月は粉々になり、全てを無に帰す。最早、月の兎は復讐の鬼に成り果て、自分達がどうなろうとも地球に住む人々を抹殺しようとしていた。

「ふぅ、これで全てが終わる。だが最後にあの男と決着を着けねばならん。」

ルナはこんな結末は望んでいなかったが、女王といえども暴徒と化した月の兎の面々を治めることは出来はしなかった。

"ゴォオオオオオオオ!!"

「ほぉ、亀にしては早かったな。」

モニターに映る、こちらに突っ込んでくる亀の甲羅を見てルナは笑った。



『おいっ、ロッコウ!!エースのお前が来てくれないと・・・』

「すまない。」

地球防衛軍エースパイロットの亀のロッコウは、申し訳ない気持ちで味方からの通信を切り、眼前に迫るカグヤを前にして愛機である重装甲機械獣カメクロスを巡航モードから人形モードに変形させた。すると敵であるルナから通信が入ってきたので、それを受信した。

「よく私の誘いに乗ったな。」

敵であるルナだが、幼馴染みの声を聞くと、ロッコウは何故だか安心してしまった。

「僕が君からの誘いを断るわけないだろ。いじめられっ子だった僕を、君はよく遊びに誘ってくれたよね。」

「ふんっ、懐かしい話に花を咲かせるつもりは無い。今日はお前との決着をつけに来たのだからな。それにしても、ただでさえ鈍重な機体にゴテゴテとした装備を付けているようだが、それで私と戦うつもりか?」

ルナの言うとおり、カメクロスは装備を追加したフルアーマーカメクロスになっており、火力が上がった代わりに機動力が落ちていた。

「いいさ、これのおかげで君のところの兵力をかなり削ることが出来た。」

「ふっ、ならお前に勝って、足りなくなった分を私が補えば良い話だ。」

「相変わらずの自信家だね。」

「お喋りはここまでだ。女王ルナとしてではなく、一人のパイロットとして貴様を討つ。」

「望むところだよ。」

こうして二人の最後の決闘が始まった。

先に仕掛けたのはロッコウであり、いきなりカメクロスの全ての火力でカグヤを狙い撃った。

"ドットトトトト!!"

甲羅から放たれるミサイル、手持ち武器の両手のガトリング、フルアーマーになり追加された各部に取り付けられたマシンガンとレーザー砲が、カグヤに向かって飛んでいった。

しかし、大軍相手には有効のこの戦術も、装甲をギリギリまで削って機動力重視の機体のカグヤと、天才的なパイロットセンスを持つルナの組み合わせの前には意味を成さなかった。

カグヤの各部のブースターと、手に持った人参型回転貫通兵器キャロットドリルのブースターを全開にし、ルナは天才的な操縦技術を駆使し、弾幕を掻い潜りながら素早くカメクロスに近付いた。

「近付いたなら、やることは一つだ。」

カグヤにカメクロスの様な内蔵武器も備え付けられた武器も無かった。だから手に持ったキャロットドリルで貫くことだけが唯一の攻撃方法であった。

近付いてくるカグヤに対して、ロッコウは冷静にカメクロスのある装置を展開させた。

「パーフェクト・バリア・フィールド展開。」

カメクロスを丸いエネルギーフィールドが包み込む。形は丸だが、その丸は無数の六角形が集まって形成されており、その一枚一枚が繋がることにより例え強力な戦略兵器であろうとも、このパーフェクト・バリア・フィールドを抜くことは出来なかった。

名前の通り完全無敵の防御壁。だがロッコウは、いつかその完全無敵の防御壁が破られることがあるのでは無いかと考えていた。

奇しくもそれは最終決戦の真っ只中の今になって起きた。

"ギュアアアアアン!!"

キャロットドリルの先にはバリアを中和する装置が付けられており、それに加えて強力回転するドリルがバリアフィールドを貫いた。

「やっぱりか。」

幾度も戦いを重ね、このパーフェクト・バリア・フィールドに苦渋を舐めさせられたルナなら、この防御壁を突破する手段を考えてくるだろうとロッコウは予想はしていたが、もしそうなった時の対処までは考えて無かった。

"ザァン!!"

カメクロスの左肩の装甲をかすっただけで削り取るキャロットドリル。この威力にはロッコウも苦笑いした。

「やるね、ルナ。まさかここまでの武器を作ってくるなんて。」

「まぁな、このキャロットドリルは私自ら制作指揮を取った。最後の最後まで調整した自慢の出来だ。ふっ、まったく、おかげで寝不足だよ。」

これにて形勢は逆転し、絶対無敵の誇ったバリア・フィールドもドリルの切っ先をずらすだけのカメクロスの延命装置に成り下がった。

大量の火器でカグヤを狙っても、避けられて、あまつさえ片手間でカメクロスを攻撃される次第で、二分も経たない内にカメクロスは見るも無惨なズタボロの姿になった。

「どうした?亀だけに手も足もでないか?」

「君にしては安い挑発だね。あの日のように最後に勝つのは僕さ。」

「そっちこそ、いつもと違って自信満々だな。とても元いじめられっ子とは思えない発言だ。」

二人は元は同じ学校に通った同級生であった。互いに学び、互いに笑い、同じ場所で同じ時を過ごした。そんな二人を引き裂いたのは、月に落ちた巨大隕石であった。

隕石は月を半壊させ、月に住んでいた月の民であるウサギ達を全滅させた。隕石が落ちたこと自体は人為的なものでは無く偶然であったが、地球へ移住していた月の民達は、地球の人々が自分達の故郷の人々を見殺しにしたと見なし激怒した。地球の人々は突然の隕石に対処が間に合わなかったと、必死に弁明したが、それは生き残った月の民達にとって言い訳にしか聞こえず、結局は地球の人々と、月の民の作った戦闘組織「月の兎」との戦争に発展した。最初は早期による地球軍の圧勝で終わるかに思えた戦争であったが、技術的に勝る月の兎の達の作った二足人型起動兵器の登場と、月の民の国王の娘であり千年に一人の天才であるルナの戦略により三年経っても戦争は終わることは無かった。

しかし、物量的にも兵力的にも勝る地球軍が徐々に巻き返し始め、追い込まれた月の兎達は最終手段として、あろうことか半壊した月を改造して作り上げた月の兎の拠点である巨大要塞要塞「アルテミス」を地球に落とすことにより、地球と自分達を道連れにすることにしたのであった。

「捨て身の作戦なんて君らしくないな。和平の道は無かったのかい?」

ロッコウがそう言うと、ルナは自虐的に笑うのであった。

「フフッ、月の兎達の憤怒の炎は、最早私でも止めることは出来ん。こんなことになるなら、私は地球に留学などせずに、父と共に月で死ねば良かった。おかげで私は文明を滅ぼす完全な悪者だ。」

「僕がそうはさせないさ。」

ロッコウは静かに決意の言葉を呟いたが、すでにカメクロスは全ての火器を撃ち尽くし、自慢の強固な装甲はキャロットドリルによって穴だらけになっていた。

「フッ、何を企んでいるか知らんが、次で終わりだ。」

「先に仕掛けるのは僕だよ!!」

気合いを入れたロッコウの一声。次の瞬間カメクロスは、強烈な光を放ってルナの目眩ましをした。

「くっ、小癪な真似を!!」

目眩ましは一瞬だけであったが、その隙にカメクロスは甲羅だけの姿になり、カグヤに特攻を仕掛けていた。

これがカグヤにまともに当たれば、確実に機体はバラバラになってしまうだろうが、ルナは極めて冷静に対処した。

カグヤは上昇し、カメクロスの体当たりを避け、甲羅の真上からキャロット・ドリルを突き立てた。

"ズガァアアアン!!"

パーフェクト・バリア・フィールドも展開出来なかったカメクロスは無残にも貫かれ、宿敵との勝負に勝ったルナは達成感と寂しさを感じていた。

「もっと晴れ晴れとした気分になると思ったが、存外それほどでも無かったな。」

人は勝利を確信した時、それは油断になる。

"バシュン、バシュン"

カメクロスの四方からワイヤーが発射され、それがカグヤに絡み付いた。

「何っ!!」

気がついた時には、すでに遅し。絡み付いたワイヤーはギチギチで、とても機動力重視のカグヤのパワーでは引きちぎれそうに無い。

そして動けなくなったカグヤに近付く機体反応がレーダーに突然現れた。

「もらった!!」

ロッコウの声がして、カグヤの頭部メインカメラが甲羅を外したカメクロスを捉えた。

「しまった!!」

最初の目眩ましは、甲羅から本体が分離するのを見せない為であり、あとはレーダーのジャミングをして、近くにあった宇宙を漂う岩に身を潜め、自分の仕掛けた罠にルナが引っ掛かるのを待っていたわけである。

「うぉおおおおお!!」

カメクロスの右手に取り付けられたパイルバンカーが発射され、それはカグヤの胸を貫いた。

"ズガァアアアン!!"

「クッ、機体を破棄しなくては!!」

カグヤのお尻に取り付けられた尻尾型のコックピットが本体と分離し、その後でカメクロスの甲羅共々カグヤは派手に爆散した。

"ドォオオオオオン!!"

「カグヤよ、よく私の為に頑張ってくれた、安らかに眠れ。」

自分の愛機との別れをし、ルナは自分の敗北を認め、目の前に居る細身のカメクロスを見据えた。

「フッ、勝利したというのに、なんとも無様な姿だな。」

「やれやれ勝ったのに皮肉言われるなんて思わなかったよ。」

さっきまで命のやり取りをしていたというのに、二人の間に流れる穏やかな空気。今、二人は学生時代の様な友達同士に戻っていた。

「このまま私を握り潰すか? 私はそれでも構わんぞ。」

「まさか、それに君は全ての成り行きを見届ける為に脱出出来る様にしたんだろ?なら見届ければいいさ。」

「ふぅ、なんでもお見通しか・・・相変わらず食えないヤツだ。」

「あぁ、なんでもお見通しだよ。あの時、マラソン大会で君が狸寝入りしてたのも、僕には分かってた。」

「そうか・・・まさかアレもバレてたとはな。名演技と思ったのに、これではとんだピエロだ。ふふふ。」

「あははは。」

笑い合う二人、その間にも地球に落ちていく「アルテミス」。もうすでに地球壊滅まで時間があまり無かった。

「私は戦術家としては優秀だったが、指導者としては三流だった。皆の気持ちを汲んで、なだめることが出来れば良かったのだが・・・私は父の様な人格者では無い。他人の気持ちなど分かりはしなかった。いや正確には分かろうともしなかったのかな?」

最悪の結末を回避することが出来なかったことを自虐的に皮肉るルナ。しかし、ロッコウはそんな彼女を真っ向から否定した。

「それは違う。君は最後までこうなることを回避しようとした筈だ。」

「ふん、何を根拠に言ってるんだ?」

「だって・・・君は優しいから。」

「優しい?・・・ふはは、そんなことを言うのはお前だけだよ。私は地球に生きる全ての物を殺そうとする大罪人だぞ?思えばお前は学生時代から変な奴だった。」

「そんな変な奴を気に掛けていた君も変わり者だよ。」

「はっは、違いない。」

ルナは遠くに落ちる月を見据えた。彼女はもう月は地球に落ちると確信している。

「少し遠いな。お前との決着をする為に、こんな所まで来たのは失敗だったな。」

「なら近くまで行くかい?」

「何っ?」

カメクロスは右手でルナの乗るコックピットをガシッと掴んだ。

「おぉっ!!・・・どうした?やはり握り潰すか?」

「バカ言わないで、今から空間跳躍をする。」

「空間跳躍だと?我が兎の民の技術力でも叶わなかったワープを実現させたのか?」

「地球にも有能で頭のイカれた技術者が居るのさ。衝撃が強いから舌を噛まないように気を付けてね。」

"ブゥーン!!"

カメクロスは淡く緑に輝き。カグヤのコックピット共々空間跳躍した。

ワープした先は、アルテミス地表であった。

ルナは初めてのワープの衝撃を受けて気を失いそうになったが、なんとか堪え、先程まで遠くに見たアルテミスが足元に来たことを知った。

「おいおい、遠いとは言ったがココまで近付くとはな・・・むっ、あれは?」

ルナはモニターでアルテミスの地表に突き刺さった、何本かの杭の様な物を見た。

「あれはカメクロスにも積んでいる空間跳躍装置さ。」

ロッコウの話を聞いて、ルナは全てを理解した。

「アルテミス・・・いや月を空間跳躍で飛ばそうとしているのか。」

「御名答、外宇宙まで行ってもらおうと思ってね。地球の人達がお月見が出来なくなるから心苦しいけどね。」

核ミサイルによるアルテミス破壊計画を察知していたルナは、ミサイル攻撃をされるであろう位置に迎撃部隊を配置し、見事ミサイルを全て迎撃することに成功した。あとは地球軍は悪足掻き程度のことしか出来ないと予想していたが、これはルナの想像を完全に越えていた。

「ジョーカーは別にあったというワケか・・・作戦を考えたのは貴様か?」

「作戦とは言えないな、僕と気の合う仲間達が軍に黙って勝手にやった軍法違反さ。まぁ、全部僕がやったことになるんだけどね。」

「処刑される気なのか?」

「いや、それは無いかな。外宇宙まで僕を追ってくる奴なんて居ないだろうし。」

「まさか・・・月と一緒に空間跳躍するつもりか?あっはははは!!バカな奴だ!!」

ルナは久しぶりに大笑いした。こんなに笑ったのは学園でロッコウと過ごしていた時以来だった。

ロッコウは、その笑い声を聞いてニヤリと笑った。

「他人事の様に笑ってるけど、君も行くんだよ。」

「はっ!?」

意味が分からずルナは頭が真っ白になったが、ロッコウはキーボードを叩き作業を始めた。

「月を跳躍させるから、装置が何個も必要でね。よし、全ての装置を連結完了と!!」

タァン!!とエンターキーを叩いて作業を完了させると、先程のカメクロスの時のように、アルテミス全体が淡い緑色に包まれ、空間跳躍の準備に入った。

そうなると慌てた始めたのはルナであり、声を荒げて抗議を始めた。

「ふざけるな!!私はこの事の責任を取らねばならん!!コックピットから手を放せ!!」

「それは出来ない相談だ。君が死ぬなんて、僕には耐えられない。」

「な・・・何を言うか!!」

ルナは動揺を隠し切れなかった。そして次のロッコウの言葉は聞きたくなかった。

「僕は君が好きだから、だからこの手を放さない。」

「くっ・・・!!」

真っ直ぐなロッコウの言葉はルナの心に突き刺さり、もう何も言えなくなってしまった。そうして彼女の決意も覚悟も全て吹き飛ばし、アルテミスの大規模な空間跳躍が成された。

月が無くなった後、地球から空を見上げた人々は、物悲しさを感じずには居られなかった。



とある外宇宙。

「たくっ・・・やってくれたな。」

「ごめん、これは僕のワガママだ。」

「謝るぐらいなら、するんじゃない・・・はぁ、残された月の民はどうなる?」

「流石に全員の命は守れないとは思うけど、僕の仲間がクーデターを起こしてでも一人でも多くの月の人達を守ってくれる筈さ。」

「ふん、また争いの火種にならないといいけどな。」

「・・・これからどうする?」

「全く自分のことはノープランか、呆れるな。・・・アルテミスには備蓄されていた食料が大量に残されている。それに農園プラントも再起動させれば、生きるのには困らんぞ。」

「なら一緒に月に住もうか・・・い、いいかな?」

「急に興奮するな、馬鹿者。手料理など期待するなよ。私は食べる専門だ。」

「それなら大丈夫さ。僕は最初はコックで軍に入ったんだからね♪」

「・・・それは聞きたくなかったな。コックに負けたのか・・・私は。」

ガックリと項垂れたルナだったが、その顔はほころんでいた。

こうしてウサギと亀の二人は、誰も追い付けない外宇宙で月を巻き込んだ駆け落ちした。

地球では、そんな二人を非難する声も少なくなかったが、その内に彼等を擁護する者の方が多くなり、地球の人々と月の人々との友好の象徴として銅像が立てられ、いつまでもいつまでも二人のことは語り継がれていくのであった。






























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