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第78話 お薬圧縮機。

早速俺は机に丸薬作りに必要な機材を並べていく。

今日採取した薬草は青ツユクサにマリカイ草、そしてエンカの花だ。


エンカの花は攻撃力強化の薬にもなる。

ステータス強化系の薬は良く使うから日頃からストックを作っておかないといけない。

俺は鼻歌交じりに湯を沸かしながら乳鉢でエンカの花の花弁をすり潰していく。

そしていつもの様に湯の中にすり潰した花を入れ、キダンの絞り汁を入れる。

すると湯の色が赤と橙に分かれていく。

俺は手早い手つきでそれらを分け、それぞれをビンに移した後にとある器具へ目を移す

後はこれらを圧縮するだけ。


今までであったらティアドラに重力魔法を掛けてもらうことで丸薬を精製していた。

だが彼女の居ない今、俺は自らの力で丸薬を生み出さなくてはならない。

それが俺の生命線だからだ。

以前より草案は作成していたため、貯金を切り崩してそれの試験機を作成した。

勿論初めは全くうまくいかず、失敗の日々であった。

だが、半年ほど前に完成させたのだ。数々の失敗と試行錯誤の末に『お薬圧縮機』を。



「ふふ、ふふふふ」



にやつきが止まらない。

その器具は径の異なる二つの金属性の筒を細めの配管でつないだものだった。

俺は径の大きい側に薬を入れ、ねじ込み式の蓋をする。

径の小さい方の筒にはレバーが付いておりこれを上下に何度も動かしていくと……。



「ふふふ」



「さっきから何笑ってるのよ、少し気味が悪いわよ」



……え?

俺の背後から声がした。

急いで振り返るとそこには……訝し気な表情を浮かべたイブキが俺のベッドに腰かけていた。



「え?ちょっと待って?え?なんでここにいるの?」



するとイブキはプクッと頬を膨らませて腕を組む。



「だって寝ようと思ったら貴方の部屋から鼻歌とか妙な笑い声がするんだもの、貴方が何か危ないことでもしてるんじゃないかと思ってきてあげたのよ」



どうやら俺のことを心配してきてくれたらしい。



「それは申し訳ないけど……せめて入るときはノックぐらいしてくれても良かったんじゃないかな?」



もしかしたら俺、着替え中だったかもしれないし。

するとイブキは呆れたように深いため息をつく。



「はぁ……何度もしたわよ。だけど全く反応も示さなかったのは何処の誰よ。増々不安になったから鍵も開いてたし入ったのよ」



そしたら俺が怪しい笑顔を浮かべて薬を作っていたわけですね、ごめんなさい。



「あ……それはごめん、よくあることだからこれからは気にしないで大丈夫だよ」



彼女は自身の頬に手を当てる。

どこか不安そうだ。



「気にしないでって……あんな笑い声聞いて寝たら私、悪夢を見そうだわ」



何、俺の笑い声はそんなに気味が悪いのか。……今後は気を付けよう。

多分無理だけど。



「まぁ、それはもういいわ。それより何をしているの?」



イブキは立ち上がり、俺に近づくと手元をのぞき込む。

今さら気づいたのだが、彼女は普段のドレスアーマーではなくピンクを基調とした緩めのシャツとショートパンツを履いていた。

タリアさんから借りたのだろうか。

普段とは異なる彼女の服装に思わずドキリとしてしまう。

それに……なんかいい匂いがする。

俺は恥ずかしさを気取られまいと口を開いた。



「こ、これは毎日の日課みたいなものかな?薬を作ってるんだ」



すると彼女は感心したような声をあげる。



「へぇ……薬ってこうやって作るのね。さっき使おうとしていたこれは何なの?」



イブキはお薬圧縮機を指さす。



「あぁ、これはだね……」



俺は先ほど蓋をした径の大きい側の筒を開ける。



「ほら、ここにオレンジ色の液体が入っているだろ?これが薬の原液なんだ。そして……」



再び蓋を締め、今度は反対側についているレバーを上下させる。

すると小さい径の中に入った液体が配管を通り、薬の入っている筒の床部をせりあげる。

こうすることで薬に大きな圧力を与えることが出来るのだ。

二つの筒をつなぐ管の中に入っている液体は……油。

そう、つまり俺は、油圧による圧縮機の作製に成功したのだ。

初めは器具の強度が足りなくて破損したり、油が漏れてきたり失敗続きであったが、蓋の構造を見直したり、密閉性を高めるために樹脂製の材料を採用したりするなどの改良を続け、作ることが出来た。

昨日の野宿でも使用したこの油は調理目的ではなく、この油圧式お薬圧縮機に使用するためのものだ。




「こんなもの、かな?」



しばらくレバーを上下させ、十分に圧力が加わったことを確認した俺は筒の下部についているねじを緩める。

すると薬側に入っていた油が元の位置に戻っていく。

そして蓋を開け、中をイブキに見せた。



「あ!丸薬が出来てる!」



中には透明な液体の上に橙色の丸薬が浮かんでいた。

攻撃力強化の丸薬の完成だ。

俺はそれを取り出すと丁寧に布の上に置く。

イブキはそれを興味津々といった様子で眺めていた。



「……イブキもやってみるか?」



そんなキラキラした目で見られたらそう言うよりほかない。



「え!?いいの!?」



喜色を露わにしたイブキに機材を渡す。



「まずはこうやって青ツユクサをすり潰して……」



こうして夜が更けていく。






「あぁ違う違う!ちゃんとすり潰さないとしっかり薬の効果がでないんだ!」




「なんでキダンの汁を先に入れるの!?さっき言ったじゃないか、先に薬で後からキダンの汁だからね!」




「まだ上澄みが残ってるからもう少しとれるよ!青ツユクサはいっぱいあるとはいえ大切にギリギリを狙おう!ギリギリを……ってあぁ……なんで混ざり部まで掬って……あぁ……」




何処かで誰かが同じことを言っていたような気がする。

どうやらイブキはあまり手先が器用ではないらしい。

だが彼女は笑いながら薬を作っていた。

まぁ……楽しそうならいっか!

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