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第76話 魔王の娘に出来た人の友達。

こうして俺達は13件+特別依頼1件の計14件の依頼を受注した。

がっくりと肩を落としているイブキとは対照的に俺のテンションは高い。



「いやーヒョウショウの花ってさ、氷属性付与の効果があるんだけどね、これって武器とかに使う以外にも使い道があるんだ。例えば暑い地方で倉庫に撒いて庫内を冷やすことで食品の保管なんかを出来たり、この薬を希釈したものを直接飲むことで身体を冷やしたり出来るんだ。暑い地方では高額で取引されてる花だよ」



俺は笑顔で彼女に語りかける。

一方で彼女はあきれ顔であった。



「あぁ、そうなのね」



彼女は今日一番ともいえる不快ため息をついた。



「それはそうとシリウス、これからどうするの?折角だからさっき受けた依頼の中からいくつかやってみる?」



まだ語りたいことは山ほどあったのだが……。

俺は若干の未練を残しつつ窓際へ向かい、外の様子を見た。

晴れた空には赤みが差してきている。どうやらそろそろ夕刻の様だ。



「今日はこの辺りにしておこうか。日が沈むと魔物も薬草も見づらくなる。思わぬ怪我もしてしまいがちだからまた明日にしよう」



安全第一。

昔からの教訓だ。

一生懸命することも大事だが、焦りは禁物だ。

そう言うと彼女も俺の意見に同意した。



「そう、ね。今日は色々あったから少し疲れちゃったわ」



イブキは伸びをしながら大きな欠伸をする。

俺達は今日、この街スコロンに歩いて来た。それから冒険者ギルドの登録にギルド結成に初依頼。

加えてこの街の人の喧騒に触れて、彼女も昨日とはまた別の意味で疲れているのだろう。

明日からまた頑張ろうか。



彼女が同意するのを確認し、俺達は宿へ向かう・・・あれ?



「タリアさん、この辺に宿ってあります?」



そういえば俺はこの街に何度か来たことはあるが泊まるのは初めてだ。

つまり宿が何処にあるかも知らない。

ってかもう夕刻だけど空いてる宿とかってあるのかな。



「えっ!?お二人ともまだ宿取られていないんですか?てっきりもう取られてるのだと……ちょっと待っていてくださいね」



彼女はそう言うと一度奥の部屋へ姿を消す。

しばらくすると小さなポーチを肩に掛け、コートを羽織ったタリアさんが出てきた。



「それじゃ、行きましょうか」



タリアさんは俺達を外へ促す。



「ちょ、ちょっとまって!タリアさん、仕事は?」



すると彼女はほころんだ表情を見せる。



「もうすぐ定時ですし、今日はいいんです。私の担当する冒険者の中で、中々消化できなくて期限が迫っていた依頼を快く引き受けてくれた方がいらっしゃいましたから。上司も機嫌よく承諾してくれましたよ。」



彼女の言葉に俺は素直に関心する。



「へぇー、自由奔放と言ってた冒険者の中にも殊勝な人もいるものなんですね」



もしかしたらその冒険者はタリアさんに惚れてるのかも。

彼女のような美人にお願いされたら、大抵の人が依頼を受けるんじゃないかな。

そんなことを考えていると俺の隣でイブキが呟く。



「……それって絶対貴方のことよ」



そのような言葉が聞こえたが俺に心当たりはない。



「宿探し、手伝ってくれるの?」



イブキがタリアさんに問いかける。



「そう、ですね。と言うよりも私の今お世話になっている宿を紹介しようかな、と。確か空きはああったはずですし、値段も手ごろで夕食付なんですよ?ちょっと離れた所にあるんですけどおすすめなんです。……それに」



彼女は俺達に……というよりもイブキに視線を向ける。



「こっちに同年代の友人が全くいなくって暇してたんです。折角イブキさんとも出会あえたわけですし、私の友人として……仲良くできるかなと思いまして」



少々頬を赤らめながら彼女は呟く。

どうやらタリアさんはイブキと友人になりたいようだった。

イブキはポカンとした表情で彼女を見つめている。



「……ダメ、ですか?」



タリアさんは少し残念そうだった。

その顔を見たイブキは慌てたように口を開く。



「ぜ、全然ダメじゃないわ!その……よろしく」



最後の方はイブキの顔も赤くなっていた。

しりすぼみになっていくその言葉は聞き取りにくかった。

だがその嬉しそうな顔は言葉以上に彼女の心境を表している。



それを皮切りに彼女らは一気に打ち解けたようで道中ずっと話し込んでいた。

さりげなく話を振るタリアさんに、思ったことを直球で言うイブキ。

そしてそれを聞いて笑うタリアさん。

どうやら二人は相性が良いようだ。


正直イブキはタリアさんのことを畏怖していたはずだが、もうそのような様子は伺えない。


魔族であるイブキと人であるタリアさん。

まだイブキの正体は明かしたわけではないが、種族に囚われることなく互いにこうして話し、友好を深めることが出来るのだ。

ならば互いに手を取り合うことも出来るはずだ。

種族と言う垣根を越えて、そして国を越えて立場を越えて。

俺はその可能性をここで垣間見た。



そしてこうとも思う。






俺、忘れられてない?




さっきから俺のこと全く見ないんですがこの人達。


そう思っているとタリアさんが口を開く。



「さて、ここですよ」



彼女が指さすそこには、温かい光で照らされたこじんまりとした木造2階建ての建物があった。

古めかしい雰囲気であったが趣がある。



「良さそうなところじゃない」



イブキが呟く。俺もそれに合わせて頷いた。



「冷えますから早く中に入りましょう、どうぞ」



タリアさんが先導し、扉を開けて俺達を招く。

イブキは彼女に礼をいい、中へ入っていく。

俺はそれをボーっとした表情で見ていた。



「シリウスさん?どうしたんですか?」



タリアさんが不思議そうな顔で首を傾げる。

あ、どうやら俺のことを忘れていたわけではないらしい。

俺も彼女に礼を言い、中へと入るのだった。

……決して拗ねていたわけではない。

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