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第61話 旅立ちの時。

「冒険者ギルドのギルドマスター……何なの、それ」



イブキは不思議そうな顔をして首を傾げる。

それもそうか。

彼女は人の世界に来て間もないから知らなくても当然だろう。

俺は冒険者ギルドの仕組みの説明をする。



「なるほど。……人の世界を網羅しているその冒険者ギルドの一番偉い人なら……人の世界に居るはずのお父様のことを知っていたとしても不思議ではないわね」



腕を組み、納得したような顔でウンウンと頷くイブキ。

だがその表情はどこか浮かない。



「でも……そんな人に簡単に会えるものなのかしら?ティアドラ様は知り合いだったから会えたのでしょうけど……」



それは……。

言葉に詰まる。

彼女の言うことは至極もっともであった。

彼に会う方法か……。

俺は頭の後ろで手を組んで考えるが……いい考えが思いつかない。



「でも……やっぱりウルストには行くべきだと思うよ。道中に何かいい考えが思い浮かぶかもしれないし、なによりウルストの首都ルギウスには魔族も多い。……相談すれば力になってくれるかもしれない」



俺はトキハさんやナシュ、ナキのことを思い出す。

彼らは元気にしているだろうか。

それに冒険者ギルドの受付をしているタリアさんに何とか頼めば会わせてくれるかもしれない。



「そう、ね。……ここであーだこーだ考えている暇があるのなら、何かしら行動を起こしたほうが良いのかもしれないわね」



イブキも納得してくれたようだ。



「色々とありがとう……お世話になったわね。出来たらまた……生きて会いたいわ」



彼女はグイと残っていた茶を飲み干すと立ち上がる。

ソファに立て掛けてある彼女の武器であろう2本の金棒を腰に差し、彼女は扉へと向かう。



「俺も行くよ」



言葉は自然と出た。

彼女は振り返り、キョトンとした顔で俺を見ていた。



「俺も行く。魔族である君を……一人で行かせる訳にはいかない」



俺は立ち上がるとここから発つ準備を始める。



「……いいの?私の行動は……もしかしたら人の世界を脅かすかもしれない」



そう言う彼女の視線はどこか俺を試すようだった。

だが、俺に意思は変わらない。



「何度も言うけど……俺の夢は人と魔族の共存だ。このままでは魔界は勇者達に蹂躙されてしまうだろう。それはなんとしても阻止しなければならない。……その為に協力するよ。……それに」



「それに?」



彼女は少し笑みを浮かべながら俺の顔をのぞき込む。



「君を死なせるわけにはいかない」



俺は彼女を真剣な表情で見つめ返す。







「…………え?」



どれほど時間が経っただろうか。

彼女は笑みを浮かべたまま硬直する……そして。



ボンッ!!という破裂音発しながら顔を真っ赤に染め上げた。



「ど、どどどどど……どういう事なのよ!わ、私達初対面なのよ?……確かに私には付き合っている人とかいないけど……まだ、早いわ」



何故かイブキは動揺している。

語尾の言葉は声が小さくてよく聞こえなかった。



「どうもこうもないよ。君の勇気、そして思いやりはきっと魔族にとってなくてはならないものだ。こんなところで死なせる訳にはいかないよ」



彼女は魔族の長として必要なものを兼ね備えている。

勇者と対等の関係を保つためにはその能力はかけがえのないものだ。

すると真っ赤だった彼女の顔色は瞬く間に色を失っていき、土気色へと変化していく。



「あぁ……そう。……そういうこと、ね」



その顔は怒っているとも……そして泣きそうになっているとも思える……なんとも言えない表情となっていた。

俺は何か間違えたのだろうか。



「まぁ……でも、助かるわね。正直な話ルギウスが何処にあるのかも分からないし」



彼女は再び椅子に座り茶を飲む。どうやら調子を取り戻したようだ。

せっせと旅に出る準備をする俺を横目で眺める。



「だろ?ウルストには俺も何度か……ってあれ?そういえば1回しか行ったことないや。それもティアドラの転移魔法で。……ルギウスって何処にあったっけ」



近くにあったこの世界の地図を見てみるが、おおよその方角しか分からない。

俺を見つめる目が心配そうなものを見る目に変わる。



「えぇ……なんだか一気に心配になってきたわ。……大丈夫なのかしら」



自身の頬に手を当てる。



「大丈夫大丈夫。……いざとなったら匂いで分かるはずだし」



ウルストにしか生息していない薬草の匂いを辿ればきっとウルストにたどり着けるはずだ。

俺はそう思って口にしたつもりだったのだが、勿論彼女には理解できない。



「一体何を言ってるの貴方は……」



彼女は困惑の言葉を漏らした。







「さて、準備も出来たし、そろそろ出発するとしようか」



そう言って彼女の方を見るが、その顔は何処か浮かない。



「えぇ……。でも、この山のことはいいの?貴方にとって大切な場所なんでしょう?」



彼女はこの山のことを心配してくれていた。

確かに此処は俺にとって大切な場所だ。……だが。



「いいんだよ。ここは大切な場所だけど……」



俺はそう言って扉を開ける。

するとそこには……。



「「「ワン!!」」」



この家を囲む数多の魔物が居た。

プエルら魔犬だけじゃない。

兎型の魔物や熊型の魔物、それから鳥型の魔物に巨大な蟹の魔物までもがいた。

皆この山に住む魔物、そして俺に敗れた僕たちだ。

俺がここを発つ気配でも感じたのだろうか、皆整列している。



「彼らが居る。……だから大丈夫さ」



俺は魔物一匹一匹の頭を撫で、この後のことを任せることを伝える。

皆悲し気な顔をしていたが……この山のことを誰よりも知る彼らならきっと大丈夫だろう。



「貴方……本当に何者なのよ」



イブキはどこか呆れたような顔をしていた。

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