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第57話 あれ?この人、魔族じゃないの?

俺は彼女の存在を不思議に思いながらも懐から回復薬の原液を取り出す。

そして人が飲んでも害が無い程度まで薄め、それを彼女の口に含ませる。

目立った外傷もないのでそのうち目を覚ますだろう。



「さすがにここに放置ってのは……ダメだよなぁ」



他の魔物が襲ってくるかもしれないし……人の住んでいるところまで降りて害を与えられても困る。

俺はこめかみに指を押し当て考える。

そしてため息を一つ。



「はぁ……。まぁ、保護しておくか」



彼女を彼女を持ち上げると肩に抱える。



「……ん?」



持ち上げてから初めて気づいたのだが……彼女の手元付近に2本の金属製の棒が落ちていた。



「なんだろ、これ」



その棒は1メートル程、径は細いところで30ミリ程だろうか。

手で持つ部分は握りやすいように皮が巻いてある。

そして握り部から遠ざかるに従い、径が大きくなっており鋲のようなものが規則的に並んでいる。

彼女の武器だろうか。それにしてはオドロオドロしい。例えるなら……そう。



「鬼の……金棒みたいだな」



前の世界でみた鬼の金棒のイメージ、そしてそれを細くしたような形状をしている。

これで殴られたら……相当に痛そうだ。

念の為に拾っておく。



さて、帰ろう。



いつの間にか崖下に降りてきていた魔犬達に先導してもらう。

本当に親切な奴らだ。

あとでオヤツあげるからな。






俺は帰るなり彼女をソファの上に寝かし、魔犬達へのオヤツづくりに取り掛かる。

といってもキダンの実を切るだけなんだけど。

キダンの実は彼らの魔力との親和性が高いのか、特に害はないようだった。

むしろ好物としている。

俺は食べやすいようにくし形に切り揃え、外で待つ彼らの目の前に置く。

すると彼らは我先に食べだす……ということはせず、行儀よく一つ一つ味わって食べていた。

俺の躾のたまものだ。

うんうんと頷く俺は、彼らを銘一杯撫でまわす。

彼らも嫌ではないようで嬉しそうな声を漏らす。





背後から扉が開く音と同時に何かが地に落ちる音がする。



後ろに目をやるとそこには……。



「ヒ、ヒイィィィ!!」



涙目で腰を抜かす女性の姿があった。

どうやら目を覚ましたらしい。

その顔は恐怖で引き攣っており、涙目だ。



「お、やっと目を覚ましたか」



ベルムを撫でる手を止め、彼女の方へ振り返る。




「こ、来ないで!……私を捕らえて何をするつもりなの!?」



彼女は手で自身の身体を隠すようなしぐさをしながら俺から距離を取る。



「捕らえてって……お前崖から落ちて気絶してたんじゃないのか?保護してやったっていうのに……感謝くらいしろよ」




俺がそう悪態をつくと、自分の主人が愚弄されたと勘違いしたのかベルム達が立ち上がり、彼女に向かって低い声で唸る。



「イ、イヤァァァァァ!!」



彼女は甲高い悲鳴を上げながら更に俺達から遠ざかった。

ん?犬嫌いなのか?

そう言おうと思ったが、先ほどの魔犬達の行動が頭をよぎる。

アイツらは……あの時たしか申し訳なさそうにしてたんだよな……。

なんとなく俺は事情を察する。



「……お前ら……またやらかしたな。逃げる者は追いかけるな!鬼ごっこをしてるわけじゃないんだぞ!?」



こいつ等は偶にこの山に侵入してきた冒険者を追いかけまわすことがある。

本人達は遊び感覚のつもりなのだろうが、追われる側は堪ったものじゃないだろう。

俺もコイツらと敵対していた時はそりゃ怖かったものだ。

彼女の恐怖も理解できる気がした。

魔犬達は耳を垂れ下げ、尻尾をクルンと丸めて怯えている。



「あれ……?その魔物達を使って私を襲ったんじゃないの?」



俺達の雰囲気を見て、彼女も違和感を感じたようだ。

若干警戒心が解けたように感じる。



「あぁ……どうやらウチの犬がアンタを不審者と思い追いかけまわしたようだ。申し訳ない」



素直に遊び感覚でというと起こりそうな気がしたのでそれっぽい理由をつけておく。

部下を庇うのも上司の仕事だ。



「この山には2年ほど前から冒険者がよく来るようになってな……。それでコイツらに警護をしてもらってるんだ。……俺にとってこの山は本当に大切なものだから。……だから、許してやってほしい」



俺は彼女に向かって頭を下げる。魔犬達もそれに倣う。

その姿が可笑しかったのか彼女はクスリと笑った。



「そういうことなのね、理解したわ。……私の方こそごめんなさい、貴方の大切な山を踏み荒らすようなことをしてしまって」



そういうと彼女も恐縮そうに頭を下げた。



「いやいや、別にこの山は俺の山って訳じゃないんだし……ってあれ?」



俺は今の彼女の外見が、先ほど崖下で見た外見と一致しないことに気づいた。

彼女は不思議そうに首を傾げる。



「さっき見たときは角が生えてた気がするんだけど……あれ?見間違いかな?」



先ほどは彼女の頭には短い角が2本生えていたはずだが……今の彼女にはそれがない。

彼女は焦ったような顔つきになる。



「あ……あれは……そう、飾り!頭に付ける飾りなの!あれを付けると……ま、魔力が上がるの!」



必死に角であることを否定する。

若干の違和感は感じたが……俺は納得する。



「なんだ……あれ、装飾だったのか……結構リアルな見た目だったから、てっきり魔族だと思ってたよ」



確かにそんなものもあるのかもしれない。

保管の指輪みたいなアイテムもあることだし。

俺がウンウンと頷いていると、彼女は俺の表情を伺うような顔をして口を開く。



「もし……私が魔族だったら……どうするの?」



その言葉には、ほんの少しだが恐怖の感情を感じる。

魔族だったら、か。

俺はチラリと彼女の方を見る。



「どうするって……とりあえず魔界から抜け出して、わざわざこんなとこまで来た理由を聞くかな?多分、大変だっただろうし。それから……もし、俺の力を必要としているなら……手を貸してやりたい、かな?……ん?どうしてそんなに驚いてるんだ?」



俺は彼女の表情が気になる。

彼女は何故だかは分からないが大きく目を見開いて驚いていた。

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