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第54話 竜王の弟子対勇者。

俺はティアドラの元へと向かう。

殺気を感じた勇者達は思わず飛びのき、俺の様子を伺う。

彼女は虚ろな眼差しだったが、俺を見ると安心したような笑みを浮かべる。



『よく……来てくれた、シリウスよ。』



血が大量に流れ出ている。

早く治療をしなければ……だが。

俺は頷くと、振り返り未だ武器を構え、こちらを警戒する勇者達を見据える。

ティアドラにトドメを刺そうとしているようだ。



「何故……ティアドラを?」



怒りで頭が埋め尽くされそうになる中でなんとか言葉を搾り出す。



「ま、まて……僕らは……」



錫杖を持つ勇者アリトが焦ったように口を開きかけたが、剣を構える勇者ベネッドが制する。



「お前は……誰だ?」



剣先を俺にむけて問う。




「ティアドラの弟子、シリウス」



俺は短く答えた。



「シリウス……。お前も……竜なのか?」



勇者達は俺が何者なのか計りかねているようだ。。

首を横に振って否定する。



「違う、俺は人間だ」



「そうか……」



ベネッドはそう呟くと手に持つ剣に力を込める。

何故かその剣先は震えていた。



「シリウスよ、言い訳はしない。俺達は名声が欲しくてそこの白銀竜を襲った」



俺は目を丸くする。



「ただ……それだけの理由で?」



それだけの理由で彼らはティアドラを殺そうとしているのか?

彼らの欲求を満たすこと、ただそれだけのために?

体中が怒りで満たされる、そのように感じた。

勇者達も俺から放たれる殺気が強くなったことを感じたようだった。



「あぁ、そうだ」



だが俺の様子に気づいていたはずのベネッドは迷うことなく断言する。



「ティアドラは人と魔族の共存の術を模索していた。勇者であるお前らがそれを望めば……きっと叶えることができたはずだ!」



それなのに……何故?



「そのようなことは夢物語だ。魔族は人にとっての宿敵。その全ては歴史が語っている」



そのようなことはありえないとベネッドは斬って捨てる。



「そんな……」



「いいからかかってこい。いくら理想を語ろうとも力がなければ意味がない。運命という呪縛から抜け出すには……呪縛を引きちぎる強さがないと意味がないんだよ!」



ベネッドはギリッと歯を食いしばる。

彼も何かに怒っているようだ。

俺は口を閉じ、曲刀を上段に構える。

ここで彼らを倒さないと……彼らはティアドラにトドメを刺すだろう。

それは絶対に阻止しなければならない。

……この世界の未来のために。



遺跡が崩落を始めたようだ。頭上から大小の岩石が降り注ぐ。



俺は腹を括った。


足に力を込めると思い切り踏み抜き、ベネッドに接近する。



「早い!?」



誰が言ったのかは分からない。だが勇者達は驚愕しているようだ。

しかしながらベネッドは俺の軌道を見切り、上段からの縦回転斬りを剣の腹で受け止める。


だがそれも織り込み済みだ。

俺はその勢いのまま彼の頭上を乗り越え背後に着地する。



「白銀竜と同じく……曲芸師、かよ!」



悪態をつきながら水平に剣閃を走らせるベネッド。

俺は体勢を低くし、それを避ける。

……生まれたのは決定的な、隙。



「ベネッド!!」



サルガスが叫ぶが……もう遅い。

俺は曲刀を降り抜く……が。



「……ダメ、か」



俺の曲刀は彼を切り裂くことは出来なかった。

ベネッドの装備していた鎧の性能が高かったこともあるだろう。

だが実際は……単純な俺の攻撃力不足だった。

俺はこの時ほど……自身の力不足を感じたことはない。

ただただ……惨めだった。

そんな自分が……許せない。



死を感じていたベネッドは何が起こったのか理解できなかった。

何故……彼の刃は俺に届いていない?まさか……。



「お前まで……何故俺に手加減をする!?俺が憎くないのか!?」



ティアドラに手加減され、更にその弟子のシリウスにですら手加減される。

その上ティアドラには全く歯が立たず、本来戦うはずの彼らに代わって女神が戦い、トドメだけを彼が行った。それも自身の意思でなく女神の意思で。

彼も惨めさを感じていたのだ、眼前の男同様に。

そしてそんな弱い自分が許せなかった。



俺は口を開く。



「違う!これが……俺の限界なんだ」



そして嘆いた。

自身の無力さを。

彼には到底理解出来ないだろう。

なぜなら彼には力があるのだ。

薬の効果が切れ、悲鳴をあげる俺の肉体。

足に力が入らず、俺は地に両膝をつく。

もう、俺の身体は動かない……そう感じた。



「何だよ……どういう事なんだよ……意味、分かんねぇよ……」



困惑しながら俺を見下すベネッドだったがとあることに気づく。

これまでの道中、薬を飲みつづけることで破壊と再生を繰り返し、ボロボロになった俺の身体に。



……コイツはどうしてここまでしてここに?



理由は分からない。

ただ彼の……揺らがない強い意思、そして白銀竜への強い想いのようなものを感じた。

彼自身、人々の想いに応えるため、確固たる意志を持ってこの場に来たのだ。

だか俺は……コイツ程の意志を持っているのだろうか。

そして俺は……コイツ程、誰かを想ったことがあるのだろうか。



「ベネッド!そろそろここから脱出しないとマズイ!」



崩壊の激しさが増していく。

遺跡も形を保っていられなくなったようだ。

ベネッドは苛立ちながら舌打ちすると、脱力している俺を睨みつける。



「おい、シリウス!」



そして何故か俺の名を呼んだ。



「何があっても生きろ!生きて……互いに強くなって……万全の状態でまた俺と戦え!その日まで……俺は待っている!」



彼はそう言い残すと他の勇者達と共にこの遺跡から脱出していく。



周囲は岩で覆われ始めている。

俺はティアドラの元へ歩みを進める。

動かないと思った俺の身体は、刺すような痛みを放ちながらもなんとか動いた。

頭にあるのはティアドラのことと……先程のベネッドの言葉。

俺は……俺達は生きなければならない。

そう思うと身体が動いたのだ。

何故だろう……彼に生かされている気がした。

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