表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/85

第49話 白銀竜の想い。

時は数時間前まで遡る。


シリウスを見送ったティアドラは重い足取りで家の中に入る。

扉をバタンと閉めるとその場に蹲った。

今日、この日。ここに奴らがくる。

彼女は確信していた。

昨日の午後、『ある人』から披露会を終えた勇者達がミスーサの首都より北上したという報告が入った。



先日、ルギウスにてその人とトキハ達とで行った会議。

その議題は様々だったが……主に『女神の目的』であった。

披露会で彼らの姿を見て、ティアドラは『奴らはまだ実力不足』だと感じた。

4人と言えどもその総魔力……そして放たれる英雄としてのオーラは過去の勇者に及ばない。

本来であればこれらを磨き上げたときに勇者として人々の前に顔を出すのだ。

勇者と言えば女神の使徒、神々の代理人。その力は絶対的なものではなくてはならない。

ならばまだ未熟な彼らが今、人々の前に現れた理由は?

議論の末に彼女達はこう考えた。



……女神アトリアは焦っているのだと。




女神に何かトラブルが起こり、それを補うためにこのような事を起こしたのではないか。

そう予想したが……その理由まではその会議では分からなかった。

だが……彼女には何となくだが分かっていた。




「シリウス……」



彼女はこの場を去っていった最愛の弟子の名を呟く。

そう、この弟子こそが女神アトリアが焦っている理由なのではないか、と。

女神は……シリウスを探しているのではないか、と。

そう思うと彼をここに置いておくことは出来なかった。




自分はもう、彼に二度と会うことは出来ないのかもしれない。




勇者達は披露会を終えた後、直ぐに偉業を成し遂げるであろう。

でなければこの時に披露された民草が納得しない。

折角盛大に披露されたのだ。その熱が冷めぬまま、彼らが英雄と呼ばれるようにお膳立てせねばなるまい。


ではその偉業とは?

未熟なまま魔族の領域まで攻め込むようなことはしない。

勇者達はウルストで披露会を終えた後、反時計回りに各国を巡る。

ノキタス、アラズマ、ミスーサ。そう、ミスーサで終わるのだ。

その後勇者達は?ウルストへと帰るのだろうか。


答えは否だ。

現在ウルストで危険な魔物、賊等はいない。

ウルストのことをよく知るトキハの言葉だ。信憑性は高い。

ではミスーサでは?

ミスーサには2つの伝説がある。

一つは『エルフの隠れ里』、そしてもう一つが『白銀竜の護る山』だ。

ミスーサの森の奥深くには魔族であるエルフの隠れ里があるらしい。

だがその森には強力な混乱魔法や結界が張られており、未だそれを破るものはいない。

エルフの隠れ里を勇者達が探し出す。

これは偉業と言えるのであろうか。



話題となるのは間違いないが……偉業と呼ぶには些かちっぽけの様に思える。

では白銀竜の護る山だろうか。



その竜は古代より生きる竜。

この世の物とは思えぬほどの美しい銀色の輝きを放ち、ある山を守護するかのように君臨している。

その強さは正しく至高。歴史に名を残す数多の英雄がその竜に挑み、無残な姿で帰ってきたという。

かつて当代随一と呼ばれた高名な魔術師が挑み、数少ない生還者となったことは割と最近で……数十年前の話である。

その魔術師は敗れたことが原因かは分からないが、その後すぐに魔術師としての生活を辞めたという。

人々はその話を語り伝え、伝説が本当であったこと、そしてあの魔術師でさえも遠く及ばなかったという事実に驚愕し、あの山には近づいてはならないことを戒めとしたのだった。



そう言った伝説がミスーサにはあったのだ。



『白銀竜ティアドラ』。



それが竜の名だった。



勇者達は彼女を討伐するという偉業を成し遂げようとしている。

彼女たちはそう結論付けた。

いつかは分からない。

だが彼らは近い将来ここに来るだろう。

何故なら……ここにはティアドラという白銀竜とともに女神アトリアにとって……その存在を脅かす遺跡があるのだから。

かつて戦闘の中、意気投合し国へと帰した魔術師が一言だけ明かしてしまった。この山に眠る遺跡の存在を。

……彼女に罪はない。全ては口止めをしない自分が悪いのだ。

この話は瞬く間に広まった。……きっと女神の耳にも入ったのだろう。

奴は今すぐにでもこの遺跡を破壊したいに違いない。



ティアドラは覚悟を決める。

勇者達と戦うことを。

あの勇者達の実力であれば負けるとは思えない。

だが、恐らく彼らは必勝の策を女神に与えられている。

でなければ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が実力で劣る彼らを自ら死地へ送り出すようなことはしないだろう。



ティアドラは立ち上がり、外へと向かう。



別れは済ませた。



後悔は……ない。



準備も昨日中に済ませた。



「ふふふふ……」



何が後悔はないだ。

遺跡へと向かう足が竦んでいる。

死ぬことは恐ろしくない。

恐ろしいのは、弟子の成長を見届けなくなること。そして彼と言葉を交わすことが出来なくなること。

彼女が教えることのできることは全て教えた。

後は彼がどう成長するか……どうこの世界と向き合っていくのか、それを見届けたかった。



「この身なんぞ……いつ死んでも良いと、そう思っておったのに」



この期に及んで命が惜しくなってしまっていた。

このままシリウスを拾って何処かへ逃げてしまおうか。

一瞬頭をよぎったがそれはかつては竜王と呼ばれた者の矜持が許さない。

白銀竜として、竜王として、そしてこの世界の調停者として……彼女は戦うのだ。



後のことは全て彼に託した。

奴なら……この世界の成り立ちを解き明かし、まるでメビウスの輪のようにねじ曲がったこの世界を救ってくれるのではないか。

いつかは自由に生きろといったが……奴は優しいからなんだかんだワシの言う通りに動いてくれるじゃろう。

そう思うと胸の奥がスッとし、足取りが軽くなる。



「後は……任せたぞ」



彼女はそう言い残し、遺跡へと向かったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ