第48話 遺跡にて。
「崖……崖……たしか……」
俺は走りながら分布図を取り出し、当時のことを懸命に思い出す。
あの時はマースールの花の匂いに釣られてたどり着いたのだった。
確かあの時のことをこの分布図にも記載していたはずだ。
俺は分布図内を探し、見つける。
「あった!ここだ!」
分布図には小さな文字で『ここに過去マースールの花有。あと遺跡につながる穴』と書いている。
俺は急いで分布図をしまうと丸薬を飲み、その場所へと向けて走り出した。
「はぁ……はぁ……。着いた」
俺は当時のマースールの花があった崖下にたどり着く。
懐から回復薬を取り出し、一気に飲み干す。
だが体力は回復しない。
回復薬はケガ等の回復は出来ても消耗した体力は回復しないのだ。
疲労が溜まってきているのを感じるが、歩みを止めるわけにはいかない。
さて穴はどこか……。
そう思いながら周囲を見渡してみるが……穴のようなものはない。
あるのは……見覚えのない大きな岩。
「……この下か!?」
ティアドラが意図的に隠したのだろうか。
そういえば入口を見つけたと言ったとき、彼女は動揺していたような気がする。
しかし今はそんなことはどうでもいい。
振動は激しさを増す。震源に近づいてきたことを俺は確信した。
俺は効果は切れていないが攻撃力強化の薬を飲む。
効果が切れていない状態で他の丸薬を飲むと、多少性能が落ちるが効果が上書きされるのだ。
身体中の血が活性化し、力がみなぎるような気がする。
強化の効果を実感すると岩の根元に手をねじ込み一気に力をこめる。
「そう……りゃ!!」
掛け声とともに岩は大きく持ち上がり、そのまま力に任せて放り投げる。
岩は周囲の木々をなぎ倒す音と共に転がっていった。
そして岩があったところには……。
「……やっぱり」
いつか俺が落ちた穴が開いてあった。
穴の中から振動と……何かが叫んでいるかのような声が伝わってくる。
俺は中を確かめると防御力強化の丸薬を飲み、意を決してその穴へと飛び込む。
長い浮遊感のあと、身体を大きな衝撃が襲う。どうやら無事に着地したようだ。
以前は立ち上がれないほどのケガを負ったが、薬を飲んだ今回は無傷であった。
俺は立ち上がると周囲を見渡す。
「ギャアアアアアア!!!」
振動と共に不安を駆り立てる……何かの叫び声。
「こっちだ!……もうすぐだ」
今日で何度目だろうか。俺は速度強化薬を飲んだ。
そして走る。おそらくいるであろうティアドラの元へと。
奥の方に淡い光が輝いているのが見える。おそらくあそこが遺跡のある広間だ。
俺はそこに飛び込んだ。
「……!?」
体温が上がるのを感じる。
辺り一帯は火の海となっていた。
遺跡を支える支柱はボロボロになっており、今にも崩れそうだ。
そして遺跡付近にはどこか見覚えのある4人の人物と……一匹の巨大な銀色のドラゴンがいた。
そのドラゴンは……常時であればそれは綺麗な銀色の輝きを放っていたであろう。
だが今は戦闘の激しさを語るようにボロボロになり、ところどころ鱗が剥がれ落ちている。
威厳のあったはずの翼も今は半ばから折れており、見るからに痛々しい。
息も絶え絶えで苦しそうに唸っているが……目だけは4人をしっかりと見据えていた。
見覚えのある4人はそれぞれが剣、槍、斧、錫杖の武器をドラゴンに向けている。
俺は迷わず銀色のドラゴンへと全力で駆ける。
「ティアドラ!!!」
愛する師の名を叫びながら。
俺には分かる。
あのドラゴンが彼女であるということが。
俺は迷わず曲刀を抜く。
彼女を痛めつけた……忌まわしき勇者達を殺すために。
だが……遅かった。
「これが……我らが女神の意思だ!」
一人の勇者が掲げた剣が振り下ろされる。
それは俺の刃が届く前に……勇者の剣が彼女の身体を貫いた。
「ティアドラァァァァ!!!」
彼女の名を呼ぶその声は……遺跡中を木霊した。




