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第44話 かけられた呪い。

「女神……か」



彼女は意味深に目を細める。

何かを思い出しているようだ。



「……お主の言う通りワシと女神とは浅からぬ因縁がある。お主と女神に因縁があるように、な」



彼女はずっと女神のことを敵視しているようだった。

単純に女神が人の味方で……魔族の敵だからという理由だけではない。

もっと深い……何か。



「じゃが……」



何かをためらっているようであった。

思いつめた表情になる。



「……どうかしたのか?」



彼女が何故思い詰めているのかが気になる。



「いや、何でもない。……さて女神アトリアか。あやつは夢幻教が崇拝する神そのものじゃ。お主も見たであろう?あの城の上部にあったステンドグラスを。あのようにアトリアは常に人の幸福、繁栄を願い人の世を見守り続けておるとされておる。じゃが……そんな奴の正体は……」



意を決したかのように彼女は口をひらく。……そして。



「……ガハッ!!」



突然彼女は目も見開くと苦しそうに首を抑えた。

俺はあまりに突然の出来事に呆然としてしまう。

彼女は激しく咳き込み、地に手をつく。



「ティアドラ!……ティアドラ!?」



気を取り戻した俺はティアドラに駆け寄り、彼女の背中を摩る。

彼女は息がまともに出来ないようで、時折引き攣ったかのような声を出す。

しばらく時間が経つと段々と彼女も落ち着きを取り戻していく。

俺はコップに水を汲みゆっくりと彼女に飲ませた。



「ゴホッ!……ゴホッ!!……すまないの」



俺は黙って首を横に振る。

ティアドラが無事でよかった。

俺は心の底から安堵する。

彼女の容体が落ち着くまで俺は彼女の背中を摩り続けた。






「心配をかけさせたの。もう形骸化して消えてしまったかと思っておったが……まだ残っておったか」



彼女は小さな咳をして息を整える。



「実は……ワシは女神の正体に関わる情報が漏れるようなことは出来んのじゃ。ワシには……そういった『呪い』のようなものが掛けられておる」



俺は黙って彼女の言葉を聞く。

どういった経緯でその呪いが掛けられることになったのだろう。

聞きたかったが、彼女が再びあのようなことになるかもしれないと思ったら聞けなかった。



「もはや意味を成すものではなくなったのじゃが……どうやら呪い自体の効果は残っているらしい」



木製の椅子に深く座り、大きなため息をつく。



「じゃが……そうじゃのう……。お主に何も情報がいかないというのも面白くない。色々とお主には教えたい情報もあるのじゃが……お、そうじゃ!」



ティアドラは何か閃いたようだ。



「以前お主が採取にいって落ちた穴の先に遺跡があったじゃろ?あれはだな……ガハッ!!」



彼女は再び激しく咳き込みだす。

焦りながら彼女に駆け寄る。



「なんで無茶をするんだよ!もういいから黙ってなって!!」



俺は再度彼女が落ち着くまで背中を摩った。


だが……彼女の言いたいことは伝わった。

ティアドラは『女神の正体に関わる情報が漏れるようなことは出来ない』。

漏らそうとするとこのように激しく咳き込むことになる。

場合によっては命に関わるのだろうか。

そして彼女が遺跡の情報を俺に明かそうとしたとき、同様に咳き込んだ。

つまり。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということになる。

いつかあの遺跡を見に行くこともあるのだろうか。

その時まで彼女の言葉を覚えておこうと思う。






コンコン。


調子を取り戻した彼女としばらくの間会話をしていた後、突然扉がノックされる。

ティアドラが返事をする。中に入ってきたのはナシュであった。



「ご歓談中申し訳ないのにゃ。ティアドラ様のことをボスが呼んでいるにゃ。手が空いたら来てくれとのことですにゃ」



ティアドラは「はて?」と小さく首を傾げた後、椅子から立ち上がった。



「それじゃあ呼ばれたことじゃし、行くとするかの。お主も行くか?」



俺は頷き、立ち上がろうとする。

だがナシュは俺を手で制止ながら首を横に振った。



「……申し訳ないにゃ。ボスはティアドラ様一人に来てもらいたいそうなのにゃ。シリウスはここでお留守番しててもらうのにゃ」



ナシュは申し訳ない表情を浮かべていた。

ティアドラはジッとナシュのことを見つめていたが俺の方を振り返る。



「仕方ない……か。トキハはワシ一人をご所望の様じゃ。お主はしばらくの間のんびりくつろいでいてもらえるか?ギルドで入手した素材で薬でも作っているがいい」



正直どういう話があるのかが気になったが、俺は渋々頷く。

再度椅子に座るとヒラヒラと手を振る。



「お土産、期待しているよ」



俺がそういうとティアドラはいつもの笑みを浮かべた。



「……全くしょうがない弟子じゃの。まぁトキハから美味い菓子でもいただいてくるよ」



俺にそう言い残し、ティアドラとナシュは部屋から出ていった。



「さて、薬でも作るとするかな」



俺は指輪からお薬製作キットを取り出すと。

薬づくりに取り掛かる。



コンコン。


そうしていると再び扉からノック音が聞こえる。

……誰だろう。


俺が返事をすると……。



「お暇してますでしょうか、シリウス様」



ナキがひょっこりと顔を出した。



「どうかしたのか?」



理由を尋ねてみると、披露会から帰るなりトキハやナシュは奥の部屋に入り何やら話をしていたらしい。

しばらくするとナシュが出てきたので相手をしてもらおうとしたら、今度はティアドラを引き連れて再び奥の部屋へと入っていった。

話の内容は気になったが……今の状況なら俺が暇をしていると思い、トキハには禁止されていたのだがこの部屋を訪れたとのことだった。



「皆さんが披露会から何処かおかしいのは気になってはいるのですが……。皆さん私に気を使ってしゃべってくれないのです。私もお力になりたいと思っていますのに……」



彼女は悲しい顔を浮かべた。

耳も項垂れている。



「ですがしゃべってくれないのは仕方ありません!ですので私は……どんな時も元気でいようと思っています。辛いときは悲しい気持ちになりますから……少しでも皆さんの力になればな……と」



彼女は彼女なりに真剣に考えているようだ。

俺は彼女の強さを知った気がする。




「それで、シリウス様は何を?」



話の内容を変えるかのようにナキが話しかけてくる。

彼女は俺のお薬製作キットが何なのか気になっているようだった。



「あ、これ?これは薬を作る道具だよ」



するとナキの目がキラリと輝く。



「今からお薬を作るのですか!?……私にも教えてください!」



俺は彼女の迫る勢いに思わず頷き、薬の作り方を教えることになった。

とはいっても俺が適当に薬の作り方を見せただけで内容を理解したようで一発で薬を作るのに成功していた。

俺は散々苦労したというのに……ティアドラに怒られながら。

その日、俺は昔を思い出しながらナキと薬作りに没頭するのであった。

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