第32話 褒められるとやっぱり照れますね。
そのような形で俺とナキは宿から追い出された。
去り際にナシュが「これで堂々とサボれるにゃ」とかいっていたが……まぁいいだろう。
問題は俺の横にいる人物だ。
「あの、よかったんです?その……初対面の俺なんかについてきて」
自虐的かもしれないが俺の見た目はそんなに頼もしくは見えないだろう。
するとナキはにっこりとほほ笑むと頷いた。
「はい!実は……昨日父にティアドラ様とシリウス様については聞いておりました。シリウス様は私とも年齢が近いとのことでしたので。少々人と話すのは苦手な私ですが……お話してみたいと思っていたのです。それに先ほども言いましたように依頼がどのようなものか確かめたかったのです」
「そうなんだ。トキハさんはなんて言ってたんです?」
それ程話した記憶もないのだがトキハさんはどのように俺を評価したのだろう。
「ティアドラ様の弟子とは思えない程優しい方、とのことです」
またしてもにっこりとほほ笑んだ。
その可愛さに俺も思わず赤面してしまう。
「ティアドラも……優しいんだけどな」
俺はそういって恥ずかしさを隠すように顔を背ける。
まぁ実際……優しいんだけど。
「ナキさんは……どうして冒険者に?」
一見するとナキはあまり争いごとや戦闘が好きそうに見えない。
まさかこの見た目で武闘派なのか?
「父が昔冒険者でしたので……私が幼い頃、毎晩寝るときに父の冒険譚を聞かされて……私もそのような冒険に憧れましたので父になんとか言って冒険者登録をさせてもらったのです。一度も依頼を受けることは許されませんでしたが」
そういって目を伏せる。
箱入り娘なんだな。
……ちゃんとナシュはトキハさんに言ったのだろうか。
今さらながら不安になる。
城門から出るまでの最中このように話していくことで、まだ若干の緊張は取れないが少しづつ互いに話せるようになっていた。
ちなみにナキから年齢も近いことだし敬称も敬語も不要だと言われた。
ナキは相変わらず俺のことをシリウス様と呼ぶし敬語なのだけど。
「それで青ツユクサでしたっけ?依頼内容は」
城門を真っ先に出たナキは振り返り、俺に尋ねてくる。
「うん、そうだね。早速探してみようか」
俺は首肯すると辺りを見渡す。
今日はいい天気だ。風も少し吹いており心地よい。周りの草原から草がなびく音がする。
街道上には人が点在しているが他に魔物といった生き物は見受けられない。
これは簡単に探せそうだな。
「探すと言ったって……どのように探せばいいのでしょうか」
ナキが首を傾げる。
俺は目を瞑ると鼻から空気を大きく吸う。
「あの、シリウス様?」
俺の行動をきょとんとした顔で見つめるナキ。
「……こっちの方だね、行こうか」
俺は南の方角を指さすとそちらの方へ向けて歩いていく。
「え?どういうことです?……待ってください!シリウス様!」
ナキは慌てて俺の後を追うのだった。
「本当にありましたね」
俺達は近くにある小高い丘の上に居た。
しゃがんでいる俺の眼前には青ツユクサが3本生えていた。
「お、中々品質よさそうだね。これだといい回復薬が出来そうだ!」
俺は目を輝かせて青ツユクサを採取していく。
「どうしてここに青ツユクサがあるってわかったんですか」
不思議そうに首を傾げるナキ。
「うーん……なんていうか匂いで分かるんだよね。ほら、青ツユクサって少し甘い匂いがするでしょ?」
ナイフを取り出し青ツユクサを1本切り取り、ナキに渡す。
受け取ったナキはその青ツユクサの匂いを嗅ぐ。
「スンスン……。言われてみれば……仄かに、匂う……ごめんなさい、分からないです」
彼女は少し申し訳なさそうな顔になる。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ、ティアドラも分らないって言ってたし……なんでだろ?まぁいいや、他にも青ツユクサありそうだし、じゃんじゃん採取しようか」
俺の言葉にナキはにっこりとほほ笑んだ。
「はい!」
「それじゃ、次はどこに……あ!」
俺はゴソゴソと懐をあさる。取り出したのは……図鑑だ。
図鑑を開き、とある所を指さす。
「ナキ、これを見てみて」
ナキが俺の横から図鑑をのぞき込む。
青ツユクサ
見た目の特徴 広い葉、青色
分離時の効果 青:魔力回復 ★☆☆☆☆
緑:体力回復 ★☆☆☆☆
主な生息地 風通しの良い、日の当たる場所に群生
「これって……図鑑ですか?」
「うん。ほら、ここ。青ツユクサって風通しが良くて日の当たるところに生えてることが多いんだ。だからそのあたりを探してみようか」
「なるほど。このような図鑑があるのですね。すごく便利です」
どうやらナキはこの図鑑が書店で売っているものと勘違いしたようだ。
「いや、これは俺とティアドラで作ってるんだ。……まだ途中なんだけどね」
俺がそう言うとナキの目が真ん丸に見開かれる。
「すごいです!こんなにたくさんの植物の効果とか生息地とか!シリウス様は学者様なのですね!」
学者ではないのだが……照れる。
彼女の顔を見ると満面の笑みで俺を見ていた。
……恥ずかしい。
「う……さ、さぁ!ナキはどっちの方に行けばあると思う?」
俺は話の方向を変えるためにナキに尋ねる。
「えーと……自信はないんだけど……あちらでしょうか?」
ナキは少し離れた小高い丘を指さす。
うん、あそこにもありそうだな。
俺はナキに向かって頷くとその丘へと歩いて行った。
その後1時間程で30本程採取することができた。
初めての依頼は割と簡単だったね。




