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魔女はペン先と黒インクにて集う  作者: wicker-man
統の章
47/209

統王、英雄を謡う

100年ほど前になるが、南西部にワータグという国があった。

温暖な高地は牧畜向きで、羊毛やバター、チーズを北の山岳民に交易させ、豊かに暮らしていたという。

だが、この国の最大の特産品は羊でも乳製品でもない。犬だ。

食べる訳じゃないぞ? 犬を交配し、調教する術を昔から磨き続けてきたのだ。

牧羊犬に、軍用犬に、狩猟犬、愛玩用の犬まで育てていた。

ワータグ産の犬と言えば、今でも高名が轟いているほどだ。先代の"犬の魔女"は確かワータグ出身だったよな?


国内には何百という交配士に調教師がいて、国家が組織的に育犬を奨励していた。犬用の医師までいたらしい。

中でも秀でた調教師は、チェクニ・マルッホだろう。彼は四代続く調教師の家系の出で、毎年一頭しか調教しないことで有名だった。

しかし彼の育てる犬は人よりも聡く、人の心情を理解し、才能次第では人語すら解し筆談も可能だったという。

彼は王が即位する度、手塩にかけて育てた犬を一頭献上していた。


タルダラン・フェットンヴェッセⅡ世が即位した時も、彼は一頭の犬を献上した。

背が低く、足が短く、短毛で愛嬌のある犬の姿を見て、王は不満を漏らした。

彼はもっと王に相応しい、威厳のある力強い犬が欲しかったのだ。

マルッホはその場でまずは謝罪したが、続けてこう言い放った。


「しかし王様、私とて全く不思議としか言いようが無いのでございますが、私の目がこの犬を当世随一と鑑定したのでございます。私の魂はいくらなんでもと言い張っていたのですが、培った目と経験が、この犬を選ばせたのです」


父である先王にも犬を献上した彼の言葉を無下にも出来ず、王は渋々贈り物を受け取った。

犬はカチェラ、"イモムシ"と名付けられ、その賢さと愛嬌であっという間に家中の人気者となったという。

その様子に王も絆され、次第にカチェラと他愛もない遊びを試すようになったとか。


そんな折、東のドルディチ家が攻め込んで来た。

王の交代を好機と見て、過日の借金を踏み倒そうとしてな。

ドルディチ家はワータグから新たに重ねて借金し、それを戦費に充てて攻め込んだのだ。

そんな顔をするな。かつてはよくあることだった。


とにかく、戦になった。

ワータグは寄せ集めの民兵5000、ドルディチは傭兵混じりの歩兵6000に騎兵1000。

タルダラン王はカチェラを伴い自ら兵を率いて出陣し、ドルディチも当主ワータペシュ自らが率いていた。

両軍はカルエネス平野で激突。しかし、戦い慣れた傭兵と、平野での機動戦を得意とする騎兵を相手に、数でも劣る民兵でまともにぶつかっては結果は明白というものだ。

ワータグ勢は瞬く間に総崩れとなり、統率を欠いて、散り散りに西のクルダッツ森へと逃げ込んだ。

王も這々の体で森に逃げ延びた時、傍にいたのは僅かに十数名と、一頭、カチェラだけだった。


しかも、ワータペシュは容赦しなかった。

森を迂回して都に向かわず、軍勢を散開させて森へ送り、残党狩りを始めたのだ。

隅から始めて、実に丁寧に、几帳面に森の中をしらみ潰しに狩り立て、ワータグ勢を見つけると躊躇なく殺して回らせた。


王の取るべき手は三つ。

一つ目は、なんとか森から脱出し、敵勢を振り切ってほぼ0に近い兵力で都に籠城する。

二つ目は、敵の目をかわしながら徒歩で森を巡って残兵をかき集め、僅かな手勢で遊撃戦を仕掛ける。

三つ目は、降伏して自身の首と引き換えに、兵や民の生活を守るよう懇願し、借金を踏み倒すためだけに戦を仕掛けるような奴の良心に全てを委ねる。

どれも到底受け入れがたい手だったが、どれかを選ばねばならなかった。


だが、王は四つ目の手を打った。

彼はカチェラの首輪飾りの裏に場所を記すと、目を合わせてこう言った。


「その小さき体を敵から隠し、短かき手足を森に巡らせ、残った味方をここに集めるのだ。今だけは、愛らしきイモムシではなく、苛烈な蝶になってくれ」


そうだ、一頭の犬に、彼は全ての命運を託した。

カチェラは吠えることも尻尾を振ることもなく駆け出し、森の中に消えて行った。

臣下の者らは王の正気を疑ったが、王も己の理性を疑っていた。

だがそれでも、もはや信じる以外に無い。王は腰を下ろし、ただ待った。


1日が経つと、まずは10名が合流した。

2日目には、50名が合流した。

3日目には、100名が合流した。

4日目には700人が合流し、5日目には遂に1200人が合流した。

そして、その全員がカチェラを目撃していたか、カチェラに会った者に声をかけられた者らだった。


彼女は、たった一頭でやり遂げたのだ。昼も夜も、小さな手足で森の中を駆け回り、敵からは隠れ、味方を探し続けたのだ。

そして集合場所に2000もの兵が再集結した。王はそれらを率い、森から脱出して都に籠城した。

それを見たワータペシュも手勢をまとめ、森を迂回し、全軍を都へと差し向けた。

王は遥かに劣る手勢で能く城壁を守り、焦れたワータペシュは全軍を城攻めに投入した。


その時、ドルディチ勢の後ろを500の兵が急襲した!

タルダラン王は森の中に500の伏兵を置いたまま都へ入っていたのだ。

軍勢のほぼ全てを城攻めに参加させていたドルディチには為す術もなく、500の別働隊は瞬く間に本陣を衝いてワータペシュを捕縛した。

更に別働隊が火を放ってドルディチ勢を混乱させると、王は再び都から全軍を繰り出した。

こうなれば形勢は逆転せざるを得ない。傭兵が真っ先に逃げ、釣られて他の兵も逃げる。

統制は崩壊し、ワータペシュを救出しようとする者もなく、戦はここにワータグの逆転勝利という形で幕を下ろした。


戦が終わった後、タルダラン王はワータペシュの処遇よりもまず、カチェラを捜させた。

兵たちも自ら志願して捜索に手を尽くした。


だが、彼女は見つからなかった。

敵の捕虜たちを尋問しても、それらしい犬を見たという証言は全くなかった。

カチェラは消えたのだ。クルダッツの森にな。


王は深く悲しみ、己の不明を恥じた。

勝利に喜びは無く、ただ我が身の至らなさを責めたという。

その贖罪のため、そして勇敢な英雄を讃えるため、王は歴代の英雄を祀る"英雄の殿堂"にカチェラの像を置いた。

犬を、それも雌を英雄として祀るのは前代未聞だったが、民は誰一人として異を唱えなかった。

それどころか、カチェラは今では伝説的な英雄だ。

一頭の犬が一国を救ったのだからな。


俺も実際に像を見たが、それはもう、今にも動き出しそうなほど精巧で立派だった。

だが、その姿はあくまで愛嬌に溢れたもので、表情はどこかとぼけていた。

だからこそよくわかった。誇張も美化も無い、これがありのまま当時のカチェラそのものなのだとな。

像の台座には、こう彫られていた。


『クルダッツ森の英雄、イモムシの和毛(にこげ)、愛らしき友、ここに再び立つ。

 彼女の名はカチェラ。とこしえにその名を語り継ぎたまえ』


これは王が手ずから彫ったと言われている。

更に、王はこれ以降、一切の文書や記録に己の名を記さなくなったそうだ。




ワータペシュか? 借金を完済するまで、全ての子供を人質として取られていたらしい。

当然、利息を10%増しにされた上でな。











「ワータグは今も犬の名産地として有名だが、カチェラは特別な存在として語られている。天核教すらワータグの地には根を下ろせなかったほどだ」


二人は外に出て前庭を歩いていた。

日差しは強かったが、苦にはならなかった。


「チェクニ・マルッホとかいう調教師はどうなったんですか?」

「名調教師として活躍し続けたが、タルダランが存命の間は、決してカチェラの代わりを献上したりはしなかったそうだ。手足が短い犬を訓練するために開発した一連の器具には"カチェラのおもちゃ"と名付けたそうだが」


言いながら、太陽を見上げる。

手で日除けを作りながら、太陽の位置を確かめたのだ。


「まだ昼には早いな。もう一つ語ってやろう、聞きたいか?」

「是非!」

「それでは次は、まずデルグンドラ諸侯について話そう」











デルグンドラ諸侯らが住まうディゴ荒野は昔から貧しい土地でな、人々は常に奪い合いながら生き抜いてきた。

昨日奪ったものを今日奪われ、明日にはまた他人から奪い、明後日には別の他人から奪われる。

何百年、下手すると何千年も、彼らはそうやって生きてきた。

略奪は彼らにとってただの日常だ。する方も、される方もな。


そんな略奪の繰り返しと、何世代にも渡る継承を続けていくうち、奇妙なことが起こり始めた。

彼らの間に略奪と闘争の暗黙の規則、文化が自然と生まれ始めたのだ。

それが"勝者の誇りと敗者の誇り"であり、略奪によって成り立つ奇妙な経済構造だった。

勝者は敗者から奪い過ぎてはならない。敗者は勝者に必ず奪われなくてはならない。

勝敗がつけば、必ずその結果を受け入れる。勝敗がついてから何者かの命を奪うのは、この上ない恥である。

それが彼らの見出した略奪の美学であり、闘争の誇りだった。

その文化を共有する限り、相争う彼ら同士には不思議な仲間意識や友情、連帯感さえ育まれていた。


文明が進歩し、指導者たちが民を統率して領地を定め、独立的な集権勢力が諸侯という形で乱立しても、その文化は受け継がれた。

城を建て、武器を棒切れから矛に持ち替え、学問を受け入れても、彼らは先祖の信念を貫き通した。

俺に敗北し、支配を甘受し、経済や行政をほしいままにされ、共通語を捻じ込まれても、誇りだけは決して曲げなかった。

略奪そのものを奪われても、掟だけは誰にも渡さなかった。

戦いが無くともデルグンドラの文化と誇りは骨の髄まで彼らに沁みており、俺もそれでいいと思っていた。


だが、三角連衡の乱が起きた。東のヴァレク候はアルヴァンス島の"流木団"を引き入れ、魔道士会の離反派と彼らに通じる商人らの援助を受けて、挙兵したのだ。

奴らに対抗できるのは北のデルグンドラ諸侯のみ。だが、彼らを統率する者が必要だった。


そこで俺はガン・コドフィーズという男を臨時の都督として派遣した。

魔界統一前、アーゲルン人たちの属領を征服していた時期に出会った男でな、当時は一歩兵隊長に過ぎなかった。

双角族の出身で寡黙な男だったが、質実剛健で何事にも全く動じないのが気に入ってね。

局地戦の激戦地では必ず彼に兵を率いさせ、時に戦い、時に退いた。


そういう男だったが、当然のことながら、初めデルグンドラ諸侯らは彼を信用しなかった。

口が利けない愚鈍な大男と見なして侮り、よそ者に指図される鬱憤の矛先として扱った。

それでも、統王に敗北した者らとしての掟と誇りを守り、命令には従っていた。

荒野南部の一部諸侯にとっては、ヴァレクと"流木団"は昔からの仇敵でもあったしな。


ある時、ヴァレク候の軍勢を山間に追い詰めた。王都との間にあるサンスロープ連峰だ。

だがあの辺りは鬱蒼と森が生い茂っていてな、視界が利かない上に起伏もあって、荒野育ちの大トカゲで進むには向かなかった。

そこでガンは本軍を留め置き、別働の遊撃隊を回り込ませて補給を断つという作戦を立てた。

緒戦に於いて敵が思いの外小勢であった上、にも関わらず"流木団"の統制が保たれていたのを訝しんでの判断だった。


その判断に、血気盛んなデルグンドラ諸侯たちが噛み付いた!

小身のテイラーヴ、大候ゼネッカン、老齢のギュルンスカーレから、齢11のスノウル女公までが、彼を軟弱な臆病者と非難した。

特に激しく即時攻撃を主張したのは刎頚候モリグウェット。物騒な名前だろう? 初陣で諸侯の一人だった片身のガートグの首を取ったことから付いた名だ。

奴はハッキリとこう言い切ったそうだ。


「俺たちは敵を殺すために来た。貴様は邪魔しに来たのか? 俺たちに勝利も敗北も与えない気なのだろう」


そうだ、かなりイカれているよな? だがそれがデルグンドラ諸侯らの文化だ。

敵がいるならばたちまち襲い掛かり、勝敗をつけねば気が済まない連中なんだな。

しかしガンは使命に忠実な男だった。勝利のために遣わされたのだ。彼も、頑として己を曲げなかった。


激昂したモリグウェットは諸侯らが見守る中で剣を掴み、ガンに斬りかかった。

咄嗟に避けても、激した剣は止まらず、二の太刀三の太刀と見舞う。

遂に白刃が胴を捉えたが、ガンは小指と薬指を斬り落とされながらも刃を掴み止めた。

更に、拳でモリグウェットの顔を打ち倒して取り押さえると、短剣を奴の足に突き刺して小指と薬指を切断した。

そして、自分の指を拾いもせず、その場で諸侯らに言い放った。


「応報は果たされた。手指を奪うところだが、戦働きがために足指のみ頂戴した。これにて、我が軍は待機しスノウル隊、ノーヘヴ隊、カザルタイク隊、エーリセロニック隊、ボノハウロ隊を遊軍として補給攻撃を行うものと決した。重ねて異議を唱える者はあるか」


皆が思い知っていた。彼は愚鈍な阿呆ではない、やる時はやる男なのだと。

彼の姿こそが、自分らの先祖、かつてのデルグンドラなのだと。

出身も違えば種族まで違うガンに、彼らは己の起源を見たのだ。

勝者の権利を示し、敗者から奪って名誉を授ける。

彼の行いはまさにデルグンドラ流だった。


まず立ち上がって支持を表明したのはスノウル女公だった。

他の諸侯らもそれに続き、モリグウェットすら跪いて命令に服した。

彼らも、やると決まったからには、やる。そういう者たちだった。


翌日、すぐに作戦は実行された。ガンの読みは当たり、敵は山間で待ち伏せていた。

緒戦の余勢を駆って山間に突っ込んでいれば、波状包囲攻撃で散り散りになったところを、各個撃破されていただろう。

だが両軍の主力は山間の中と外で睨み合い、遊撃隊が回り込んで補給路を突くと、敵は軍の維持が難しくなってきた。

山間に軍を集めた結果、維持のためのまとまった物資がより多く必要となっていたのだ。

特に"流木団"は傭兵。戦は巧いが士気は下がりやすく、物資の不足は即座に統制の乱れに繋がるだろう。


致し方なく、ヴァレクは待ち伏せていた本隊から兵を割いて、補給路の確保と補給隊の護衛に回した。

それこそがガンの狙いだった。遊撃は小勢でよく、防備には中勢を宛てがわねばならない。

本軍から他所へ回した兵の数は、ヴァレクの方が上回っていたのだ。

それを察知したガンは総攻撃をかけた。敵勢には、睨み合いが続いたことから「急遽の総攻撃は無い」との油断も広がっていた。

待ち伏せ包囲の戦略など最早機能するものではなく、ヴァレクの軍と"流木団"は散々に、デルグンドラの勇猛さを改めて思い知らされた。


この戦いでヴァレク候は戦死、軍は壊滅し、デルグンドラ諸侯らの軍勢は敵本拠地モル・ニスに取って返したかと思うと、あっという間に街を陥した。

こうして三角の一角であったヴァレク・アルヴァンス連合軍は敗北。

魔道士会の分離派とアルヴァンス島は降伏し、協力した商人らも全員捕まえた。


その夜は盛大な戦勝の宴が催された。

ディゴ荒野は寒風吹きすさぶ土地だからな、デルグンドラ諸侯らは皆酒好きだ。

彼らにとって、戦と勝利、そして略奪は久方ぶり。

この機をこれ幸いと見て、飲んで食って歌って踊っての大騒ぎ。

末端の兵や雑役人のみならず、敵であり略奪対象だったモル・ニス市民にまで酒と馳走をたっぷり振る舞い、完全無礼講の大宴会だった。

伝統と勝利、そしてそれらをもたらしたガンを讃えての乾杯が、そこかしこで行われていたという。


その雰囲気に当てられてか、ガンも珍しく酒が進んでいたようだ。

顔は紅潮し、鼻息は荒く、体も熱くなってきた頃に、彼は酔って諸侯らにこんな話をした。


「俺はティナカンドという街の貧民窟で育った。毎日、毎日、誰かの物を盗んで、僅かな食べ物や着る物を奪い合った。自分の半分ぐらいの幼子の兄弟から肉を奪ったこともある。何の肉だったのかは今でも分からん。道端で寝ている老人の靴を盗んで売った金は、1分後にはスられていた。生き延びるために、思考も身体も、とにかく自分というもの全てを使った。だが、誰も殺しはしなかった。掟を知らん新参者がやらかしたことはあったが、人は殺さないという掟を知る者は、必ずそれを守った。

 デルグンドラは、よく似ている。街と荒野、魔界と現界、全く違う場所だというに、俺の故郷そっくりだ。そっくりなんだよ」


俺はこんなに饒舌なガンをまだ見たことがない。だからデルグンドラの連中が少し話を盛ったかもな。

しかし事実として、彼の話に連中がいたく感銘を受けたのは確かだった。

乾杯の音は鳴り響き続け、祭りの喧騒と笑い声が、彼のために捧げられた。


二日後、スノウル女公から他の諸侯らに提案が為された。

俺は乱の以前から、かねてより諸侯らを軍事的に統括する"デルグンドラ総督"を置きたいと伝えていた。

諸侯らから選出しようと会議も開いたが、紛糾に紛糾を重ねたため、立ち消えになっていた話だ。

そのデルグンドラ総督に、ガンを迎えてはどうかという提案だった。


当然、諸侯らは戸惑い、ざわつき、疑いの声も上げたが、紛糾はしなかった。

スノウル女公は「全員から信頼されるよそ者であれば、誰に対しても公平であろう」と彼らを説得した。

しかもガンはデルグンドラを理解している。その土地と気風、文化に相通ずる精神を持っている。

だから、結局は全員が納得した。そして彼らは、やると決まったからには、やる連中だ。

その場で全員がガン・コドフィーズを担ぎ上げ、彼も皆が望むならと快く了承した。

諸侯はガンを総督に任命するよう、連名で上奏文を作り、俺に送って寄越した。

きったない字がずらずら並んだ、面白い上奏文だったよ。連名だというのに、明らかに代筆させたものすらあった。


そりゃあ断る理由なんてある訳ないだろう。

そもそも彼ならデルグンドラ諸侯の信頼を得られると思ったから派遣したんだ。


ガンは今でもデルグンドラ総督として荒野を治めている。

確かスノウル女公の叔母と結婚して、娘がモリグウェットの息子に嫁いでいたはずだ。

ディゴ荒野で唯一人の双角族は、もう立派なデルグンドラの一員だ。










「ちょうどいい時間だな、昼飯にしよう。食べていくだろう?」


二人は後宮の前に立っていた。

四階建ての屋敷は赤い屋根瓦と白く塗り固められたセメントのような建材で出来ており、色とりどりの壮麗かつ荘厳な装飾が施されていた。

一面64、裏も合わせて128もの窓と、それを縁取る黄金の彫刻の上では隼が翼を広げる。

正門の日除けの四隅からは小鳥の彫刻が顔を出し、中央の高楼の頂点では、ハーバントの家紋が描かれた旗が翻っていた。


後宮レナスカーナ宮、またの名を小鳥の寝室。

統王の第十七夫人であり元"築の魔女"レナスカーナ・トレンタルが設計した、統王の妻たちと幼子らが住まう宮殿だ。

普通は彼の家族か女官以外は、立ち入りを許されない場所。

そこでの昼食に、誘われたのである。


「是非!」


何度目かの快諾を、やはりしない訳にはいかなかった。

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