もう一つのドア
あれから、アレクとアイランは運良く逃げ散ったノックタックの手下の一隊に発見された。
馬を伴っていた彼らは馬車を倒木から外すことも、それを馬に繋ぎ直すこともできた。
いま、アレクは荷台の一部である出っ張りに腰掛けてぐったりと揺られていた。
転げ落ちないよう、檻の隙間から両手を出したアイランが常に後ろからぎゅっと抱き留めている。
「しっかしお前ら、いつの間にそんな仲良くなったんだァ?」
馬にまたがって並走している大柄な男が軽口を投げた。
この男の名はザレ。この一隊をまとめている、ならず者どもの兄貴分のような存在だった。
彼がいなければ、ならず者どもはアレクを殺してアイランを奪い去っていただろう。
「仲良く、なんて……」
その恩もあって、応えようと思ったが、上手く口が動かなかった。
結局アイランに「まだ喋っちゃダメよ」とたしなめられて、口を噤むことになる。
その様子を横目で見て、ザレは鼻で息をついた。
「ま、何にしろお手柄だ。お前のおかげで、俺たちは首領から褒美をもらえるぞ」
作戦の最優先であるアイランの身柄を守り切ったのだから、そのことには負け戦の褒賞があって然るべきではある。
だがならず者の倫理は時に感情によって大きく左右もされる。
手柄を立て、忠義を尽くした者が「目につく場所にいたから」というだけの理由でかえって罰されることもあり得るのだ。
その不安を、かき消すための言葉だった。
「でも、武装魔女が追ってきているのに、のこのこと”城”とやらに向かって大丈夫なのかしらぁ?」
「おいおい、武装魔女はあんたの仲間だろ」
「ええ、そうねぇ、だから仲間に有利な情報を、お前から聞き出そうとしてるのかも」
「そいつは困るな、裏切り者になっちゃあ褒美の意味も変わってくる」
ザレは”兵の魔女”相手でも、他の連中のように物怖じしなかった。
それは相手が檻の中にいるからではなく、彼自身の信条によるものだった。
「まあいい、俺もあんたも、ついでにその小僧も、心配はいらん。”城”へは秘密の通り道を使う。魔女だろうが悪魔だろうが絶対に見つけられねえ道だ」
「秘密の通り道ぃ?」
「ああ、その入り口が合流地点だ」
「そんなこと教えちゃっていいのかしらぁ?」
「問題ない。なんせもう目と鼻の先だからな」
ふぅん、とアイランが鼻を鳴らす。
「お前、もしかして元兵士じゃなぁい?」
「……どうしてそう思う?」
「言葉遣いとか姿勢とか、なんか堂々としてる感じとか、それにお前の装備から微かに油の匂いがするの。常日頃からちゃぁんと装備を整えておくなんて、ただのごろつきがする訳ないわ。それに革帯を切り詰めてあったり、肩から虫除けのアマサダ藻が入った小袋を下げてたり、脚絆を三重巻きにして外側で靴を固定していたり、どれも軍隊の兵士がやるような工夫だわぁ」
「さすが、大したもんだ。ああ、俺は兵士だった。それがどうした?」
「結構、いいとこの階級よね? 歯も全部あるようだし、人に頼りにされる才能がある」
「それがどうした? と訊いたつもりだったんだがな」
「別にぃ。ただ、鳥が飛んでるなぁって思って」
言われて見上げてみると、確かに一羽の鳥が遥か上空を飛んでいた。
あまりに遠くて、何の鳥なのかは判然としなかったが。
「……聞きしに勝る、妙な女だな。そういう手合いも嫌いじゃないが」
「美人は皆そういうもんよ。ね? アレク」
抱き留めたまま、アレクの頭をうりうりと撫でる。
何の抵抗もなくがくがくと首が揺れるだけだったが、小さく「あぅ」と唸る声だけは返ってきた。
「合流地点まで、あと一日程度だ。鳥がいるなら、仕留めて明日の英気を養ってもいいかもな」
手綱を引き、馬を翻して馬車から離れる。
その後ろ姿を、アイランはひらひらと手を振りながら笑顔で見送った。
「……アイ、ラン」
姿が見えなくなってから、アレクが口を開いた。
「なん、ですか……いまの……」
端的な言葉だったが、アイランはすぐに頭の後ろで「しっ」と小声で囁いた。
声を出すな、という意図がすぐに感じられたが、だからこそ不思議だった。
何のためにそうするのかが、わからなかったからだ。
「あの男、統王の間者よ」
だが、彼女の言葉に、驚きと共に息を呑んだ。
「アレクは、ノックタックに街で雇われたのよね? 怪しい連中が人手を集めているのを聞きつけて、調べるために潜り込んだんだと思うわ。でも想像以上のことが起きて、連絡が取れなくなっちゃったんでしょう」
言われた通り、アレクは喋らなかった。
だが言いたいことを、全て”兵の魔女”は先んじて察知していた。
「今は鳥が来ている、武装魔女隊が”鳥の魔女”から借りた偵察鳥よ。わたしの魔力を探して来て、間者と出会った。”城”への秘密の通り道のことを伝える、絶好の機会」
「どうし──」
「しっ! 喋らないで! デ・タンダの忍び連中が見張ってるわ。わたしの声は奴らには聞こえないし、口の動きも檻とあなたで隠してるけど、あなたの言葉は奴らに悟られる。こんな話をしてること自体、知られたくないの。だから──」
身を乗り出し、頬に軽く口付ける。
そして、耳に直接、囁きかけた。
「──手、握ってて?」
甘い囁き声に、魂よりもまず己が手が従っていた。
離れた位置、樹上の葉の茂みで、デ・タンダ人の忍びが馬車を見張っていた。
乱戦の最中、首領のイードを含む大部分の忍びは敵への逆撃のため残り、疾駆する馬車を追跡できたのは三名のみ。
すでに本隊との連絡は回復しているが、撤退の判断が早く打撃を加えられなかったため、敵は哨戒網を維持できており、それを回避しながら合流を目指さなくてはならなかった。
故に、今現在、馬車を追跡しているのはこの三名のみだった。
もっとも、今この瞬間は二人だけではあるのだが。
『手なんか、繋いでいるぞ。あの小僧、女と、どういう関係なんだ?』
『“兵の魔女”は、淫蕩と聞く。たらし込んで、利用しているのだろう』
彼らの会話は風にもざわめきにも紛れていない。
そもそも、声によって話していない。
彼らは片手手話の暗号で話しているのであり、心臓の音を除くあらゆる音を消していた。
『やはり、始末すべきでは?』
『女には、ある程度、この状況に、満足、してもらう必要がある。奴が、逃げようとしたら、俺たちには、止められないぞ』
『囚人の、機嫌をとる看守とは、情けない』
『いいから、確認しろ』
『了解』
確認、とは離れていったザレを追った三人目の忍びから何か合図があるかどうかの確認である。
特段注意を払う対象とは見なされていなかったが、念のため後を追って見張っているのだ。
“兵の魔女”の監視。それが首領より三人に託された任務であったが、本当に監視以外にできることのない任務だった。
相手が”兵の魔女”とあっては退屈を感じることすら許されないのだが、かと言ってそれ以上のことが必要となった時、あの伝説の暗殺者を止める方法など全く思いつかないのだった。
まるでアザヨシ山と同じ大きさの赤子を子守しているようだ。ぐずって泣き出して暴れたが最後、打つ手なく潰されるのみ。
せめて首領が速やかに合流してくれるのを祈るばかりだ。
「……?」
ふと、小さな違和感に気付いた。
目を細めて、監視対象を注視する。
何かがおかしい。
だが、何がだ?
腰に差していた水望遠鏡を取り出し、覗き込んで絞る。
水と石英によって馬車を、そこに乗っている二人を拡大して見た。
依然変わらず、座っているアレクを後ろから”兵の魔女”が抱き留めている。
その手の上には、アレクの手が重なって──
──いない。
違和感の正体に気付いた瞬間、全身の毛が逆立ち、冷や汗が吹き出した。
直後、樹の下でどさりと重い音が鳴る。
視線を移すと、そこにあったのは、倒れている仲間だった。
つい先ほどまで生きて会話していた同胞が、ありえない方向に曲がった首からうつろな視線なき視線を覗かせていた。
戦慄とともに、体に動けと命令を下そうとしたその時、後ろから伸びた手が、顔を触っていた。
冷たく、滑らかで、細い指には、何の力もなく、だからこそ、人のそれとは思えなかった。
「ごめんなさいね」
その言葉を全て魂が受け取る前に、首の骨が捻り折れた。
どさり、と同じ音が再び鳴る。
その近くに、彼女は──”兵の魔女”は降り立った。
上半身は裸にさらしを巻いただけで、帽子も着けていなかった。
服と帽子は檻の中に残し、自分だけが獄を抜けていたのである。
いま檻の中で彼女の服と帽子を支えているのは、突き立てたアレクの剣と、アレクの体そのものだけだった。
今、デ・タンダにザレの邪魔をさせるわけにはいかない。
救出が早すぎるのは困るが、いいタイミングでの介入は大歓迎。
そのためには、秘密の通り道とやらの存在は伝わっていなくてはならない。
ザレを追って行った一人もすでに始末している。
彼女は倒れている二つの死体の足を掴むと、奥へと引きずっていった。
猛獣が、仕留めた獲物を巣へと引きずるように。
「……んふ♪」
途中で、思わず笑みをこぼした。
思い出したからだ。コー・ナイルの夜、獄を抜けてクロスを守るため暗殺者を始末した時のことを。
あの時も今も、彼女は愛のために、行動していた。
「どこで、どうしてるかしらぁ」
馳せた想いが伸び、天を駆け、届いた先は魔界、ダカーヴォギー。
そのノズラクロウ邸の一室であった。
屋敷の主人、シヤーシヴァ・ノズラクロウに向けて深々と伏して頭を下げているクロス。
つい今しがた、先日の助太刀の礼を述べ終えたところだった。
「よいよい、おぬしとは既に一座建立した身。楽にせよ」
部屋には二人だけだったが、ノズラクロウの佇まいはこれまでよりも幾分緩かった。
優雅さや気品を損なわず、むしろ高めていた程度の余裕に留めていた脱力が、今や私室での寛ぎのそれであった。
なればこそ、クロスも躊躇や遠慮なく滑らかに頭を上げることができた。
「して、今日は何用か? ともに今はせわしなき身。それを圧して参るとは、余程のことであろうのう」
「いえ、実は……私も、ここを訪ねるようにと指示を受けたのみでして」
「なんと。誰からじゃ?」
「統王様からです」
「ホ」と小さく驚きの声を上げる。
その直後、無遠慮に扉を開け放つ者がいた。
視線が集中すると、クロスは驚きで硬直し、ノズラクロウは覗き込むように顔をしかめた。
廊下を歩むように、何事でもないかのように歩み入るのは、簡素ながらも立派な仕立ての天核教修道服に身を包んだ一人の男。
初対面だが、クロスはその顔を知っていた。
男はノズラクロウの前に立つと、ぺこりと立ったまま一礼する。
「お初にお目にかかります、私、グレンゴン・メンデルと申す者です」
学術界に一大潮流を巻き起こし、生命に対する見方を永遠に変えてしまった『向進論』の著者。
そしてその原本の内容を知る数少ない人物の一人。
狂気に触れながら、そこに堕ちることなく、危険を察知し警鐘を鳴らした男。
彼こそは修道院長、グレンゴン・メンデル博士であった。
「ノズラクロウ殿には、まずこちらを」
彼は懐から一通の文を取り出し、ノズラクロウへ差し出した。
憮然とした表情でそれを受け取り、開いて読み進める。
するとみるみるうちに、表情はさらに険しく、眉間のしわは毛が逆立ちそうなほどさらに深く、大きくなっていった。
文を握る手にも力がこもる。だが、決して破ったりなどはしなかった。
「相分かった」
そして、それだけ告げると腰を上げ、歩き去っていってしまった。
ただまっすぐ前のみを睨み、クロスの横を通って。
これで、部屋にはクロスとメンデルの二人だけとなった。
「あの、一体、今の手紙は……」
恐る恐る尋ねてみると、メンデルは振り返りながら「どっこいしょ」と座った。
クロスと対面する形で。
「私も中身はわかりません。ただ、認めたのは統王様御本人です」
「えっ、えと、その、統王様がダカーヴォギーに来ているんですか?」
「いいえ、ここには私だけが」
おかしい。
メンデル博士は3年間の説法行のために今は王都に滞在しているはず。
僕がお師匠様に『向進論』原本のことを相談したのは、昨日のことだぞ?
統王様にその話が即座に伝わったとしても、一日で王都から魔界に入ってダカーヴォギーまで来るなんて……絶対に不可能だ。
可能性としては、影武者か。
「クロス・フォーリーズさんですね? 今日、ここには、統王様のゆるしを得て、あなたに召喚魔法を伝授するために参りました」
いや、やっぱり、本物だ。
本物以外が召喚魔法のことを、『向進論』原本の中身のことを、知っているはずがない。
「きょ、許可が下りたんですか!?」
「静かに!」
思わず自分の口を手で塞ぐ。
「間者のいる可能性が最も低い場所を選んだとはいえ、聞き耳がどこにあるかわかりません。今から扱う知識が、世界に大穴を開けかねないものだということを忘れてはいけません」
「こちらへ」と手招きされ、身を乗り出してにじり寄る。
「まず、統王様はあなた様への慈悲と親愛の心から、かの禁書の中身をごく一部だけなら教えても良いと判断されました。全ては統王様の信頼とご厚意によるものであることを肝に命じてください」
「はい、それはもう」
「次に、これより教えることは全て、何かに記録することも誰かに話すことも、それとなく匂わせることも禁止です。愛する者にも、尊敬する者にも、絶対的な権力者にも、拷問官にも、決して話してはいけません。もし、アーゲルンをはじめとした、魂を読み取る術を持つ者にそうされそうになった時は速やかに自害しなくてはなりません。それほどの責任が生じる知識であることを、常に忘れず置いてください」
「はい」
少しずつクロスの声にも真剣味がにじみ出る。
「では……召喚魔法ですが、一口に召喚と言っても、その方法は多岐に渡ります。ポータルを開いたり移動させることも該当し、広義的には念動魔法すら”召喚”という結果をもたらす魔法と言えるでしょう」
「……定義された魔法ではない、ということですか?」
「もともとが単なる伝承やおとぎ話ですから、はっきりと学術的に分類された魔法ではないのです。そのため、本に記されていたのは方法の一つに過ぎません」
なるほど、とクロスは心の中で合点が入った。
あの”角枝分かれし神”が完成させていないものを、スゥガ・タムトが一代で完成させていたことに違和感を覚えていたが、それぞれは似通った部分を持ちながらも別の魔法だったのかもしれない。
厳密に”召喚魔法”という物語を完全に再現しようとしたピリコと、それを実用向けの扱いやすくも規模を落とした形に改造したスゥガ・タムトとピッタ・ノーグルーン。
そのように別々の研究へ枝分かれしていったものだと考えると、ノーグルーンの用いた”簡素召喚”とも呼べるであろうそれがより早く実現に至ったのも頷ける。
「それが”限定境界召喚”と呼ばれる方法です。これは術者自身を、特定の術式が展開された”境界”から、より圧力と密度の低い空間へと瞬間的に移動させる魔法です」
「“境界”というと、例えば、絵とか?」
「絵画は格好の展開場所と言えるでしょう。キャンバスと塗料の間を”境界”とし、その上に塗料で展開された術式は、絵画という性質上ただの空間と向き合っている可能性が高い。安全に自らを召喚する先として適しているはずです」
ノーグルーンが絵から出現したように見えたのはそういうわけか。
確かに考えてみれば、転移する先が何かで埋まっていては危険だ。
奴が召喚魔法を絵という形で記録したのには、そういう理由もあったんだな。
「この”限定境界召喚”は、術式に刻まれた特定の暗号を術者が用いて術式起動を行うことで、転移先の術式そのものを構造化して召喚を実行させます。つまり、これを使うには術式に刻まれた暗号を知っているか、あるいは自ら定めた暗号を用いた術式を1から作るしかありません」
「……その暗号を知らないと、起動できないんですか?」
「そうです。それも、対応した術式のある場所にしか召喚されません」
クロスはため息をついてうなだれた。
ノーグルーンが遺した術式を解析して暗号を割り出したとしても、それが対応しているのは『大ルーン画』に書かれた術式のみ。
アイランをさらった連中が召喚魔法の術式など都合よく持ち歩いているとも思えない。
やはり、実用のために簡略化した魔法だけあって、そう自由に取り回せるものじゃないのか。
「しかし、方法はあります」
メンデルがさらにずいと身を乗り出した。
本当に、絶対に秘密にすべきことを、これから話そうというのだろう。
クロスもすぐに気を取り直して向き合った。
「実は、原本には召喚魔法の術式が図で例示されているのです。おそらく、単体の術式として完璧に機能すると思われます。そうなると……」
「……写本の方にも、その図が書かれている……!」
「可能性は高いと思います」
『向進論』原本に書かれた術式の暗号を使って『スゥガ・タムト写本』に書かれた術式の図例に召喚を行わせる。
もしそれができたら、あっという間にクランツのところまで行けるぞ!
「統王様は、そのことをご存知なのですか?」
「いいえ、ご存知ないはずです。あの方にも情報は可能な限り伏せるよう、あの方自身に命じられておりますので」
「でも、でも……少し待ってください、写本の持ち主であるクランツなら、対策しているかも……」
「確かに、図を傷つけるとか、そのページだけ破って他所に保管しておく等、手を打たれている恐れはあります。だからこそ可能性なのです。どのみち、他に良い方法もありません」
クロスは両拳を床へ押し付け、うつむいた。
気落ちしたのではなく、思案を巡らせているのだ。
それがわかったからこそ、メンデルも口を挟まなかった。
もし手を打たれていたら、罠だったら、おそらく召喚魔法を行使した瞬間に僕は死ぬ。
でも、もし上手くいけば、まさしく会心の一撃だ。
アイランを助けられるだけじゃない、この騒動を終わらせられる。世界を救えるんだ。
世界を衰退に向かわせ始めてしまったこの僕が、世界を守れるんだ。
いや、罪悪感?
ノジーさんが言っていた、人は罪悪感のためならどんなことでもしてしまうと。
僕はいまそのために決断を傾かせようとしているのか?
合理的な判断力を、僕はいま欠いているのか?
いや……だとしても合理的な判断が常に正しいとは限らない。
僕は既に非合理的な判断をいくつも下している。
ノジーさんから教わったクランツの居場所、何故かそれを誰にも言いたくなかった。
統王様にも、お師匠様にすら、言わなかった。
もし言えば、何もかもが僕の与り知らないところでいつの間にか解決していたのだろう。
僕はこのまま旅を続けて、連絡だけを受け取るのだ。「全て丸く収まった」と。「何も心配することはない」と。
それは、なんだか、とてつもなくイヤだった。
それに、ノジーさんは僕だけにこの情報を教えてくれた。
もしかしてあの人は、こうなることがわかっていたのだろうか?
だから誰にも秘密で、僕だけに教えてくれたのだろうか?
禁忌の知識、召喚魔法を僕が使いやすくなるように。
僕の、背中を押してくれたんだ。
「許されるよ」と言ってくれたんだ。
なら、僕はなんだって出来るぞ。
「……ッお願いします。教えてください、召喚魔法を」
思いつめたような、それでも確かに決意の滲んだクロスの表情を見て、メンデルは観念したようにため息をついた。
本当のところは、尻込みして欲しかった。やめるよう説得もするつもりだった。
相手は年端もゆかぬ少年なのだ。若い身空でこんな危ないことをする必要は無いと、こういう時は大人に任せてほしいと言うつもりだった。
だがわかってしまったのだ、決して止められないと。
統王が召喚魔法に限れば彼に教えてもよいと言った理由を、メンデルは理解した気がした。
「わかりました。微力ながら、お手伝いいたしましょう」




